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「5G」によるビジネス変革
日本と先行する米国の違いとは?

提供:アクセンチュア
「5G」によるビジネス変革  日本と先行する米国の違いとは?

アクセンチュアのコンサルタントが、デジタル技術の最先端で起きている変化の波頭、すなわち「EDGE」の実像に迫るインタビューシリーズ。今回は、第5世代移動通信システム「5G」のスマートフォン向けサービスが4月に始まった米国の動向などをもとに、ユースケースやソリューションについて、アクセンチュア 戦略コンサルティング本部のジェファーソン・ワン氏と廣瀬隆治氏が語り合った。

対談風景

「5G」のスマートフォン向け商用サービスが4月に米国や韓国で始まりました。一部の企業や自治体などではすでにネットワークが構築されているとも聞きます。先行する米国では、どのようなユースケースやソリューションが生まれていますか? line

ジェフ  私は「5G」のコンサルティングに3年前から取り組んできました。米国では幅広い企業・組織が「5G」の活用に向けて動いており、多数の相談を受けています。「5G」を活用してビジネスプロセスを再構築するにはどうしたらよいか、あるいはビジネスのコストを下げるにはどうしたらよいかといった内容です。

 米国では特に、政府・自治体、医療・ヘルスケア産業、製造業、小売業などが「5G」の導入に積極的です。順に説明しましょう。

 政府・自治体では、最新技術で地域社会の課題解決を目指す「スマートシティー」の領域で「5G」の活用が進められています。例えば、地域社会の情報を無線通信でプッシュ配信することにより、住民の安全を確保したり、地域社会の雇用を増やしたり、旅行客を増やしたりしたいと考えています。「5G」では必要となる基地局の数が増えるため、市街地の街灯や信号機などを「5G」の小型無線通信基地局にすることが検討されています。

 医療・ヘルスケア産業では「5G」の特徴を生かした多数のユースケースが生まれています。X線などを使った検査装置で身体をスキャンすると大量のデータが生成されます。こうした大量のデータは通信に長い時間がかかりますが、「5G」を活用すれば、遠隔地の専門医などへ短時間で送ってフィードバックを迅速に得ることができるようになります。

 外科手術の正確さを飛躍的に高めることも可能になります。がんの摘出手術などでは患者さんの病巣をスキャンした映像を利用して医師が手術を行います。「5G」を活用すると、スキャンした病巣の映像を拡張現実(AR)の端末へ短時間で送り、患者さんの身体に重ねて表示しながら、手術を行うことができるようになります。

 製造業では、「5G」を活用して生産のサイクルを飛躍的に高めようとしています。工場では「5G」の無線通信を活用することで、製造ラインを柔軟に変更できるようになります。製造ラインを構成する製造装置を連携させる際の通信ケーブルを不要にすることにより、ライン変更の工期や費用を減らすことができるためです。

 また、高画質のビデオ映像をコンピューターへ伝送して分析するビデオアナリティクスも、「5G」の超低遅延かつ超高速な無線通信で実現できます。製造ラインを流れる部品の品質検査をより容易に自動化できますので、いつ製造ラインをストップすべきかがこれまで以上に迅速に判断可能になり、不良品を大幅に減らすことができます。

 小売業では、「デジタルツイン(デジタルの双子)」というテクノロジーに「5G」のテクノロジーを組み合わせるユースケースが生まれています。例えば、デジタルの仮想空間上に実物そっくりの商業施設をつくって、販売効率を高める実験を行います。その一環としてキャッシュレジスターを置く場所のように、売り上げを作らないスペースを「5G」の活用で廃止する仕組みがテストされています。

スタートアップやベンチャーの取り組みの状況はいかがでしょうか? line

ジェフ  米国には業界秩序の破壊(ディスラプト)を招くほどの変革を目指しているスタートアップ企業が多数ありますが、現在ベンチャー企業の幾つかは「5G」で生まれるデータに着目しています。データは幾つか種類があり、リアルタイムデータという例えば製造業にとって大事なデータや、アナリティクスと組み合わせることで特定の問題を解決するためのビッグデータですが、こうした観点においてベンチャー企業が取り組んでいます。

 また、「5G」を活用してVRやARなどの総称であるエクステンデッドリアリティー(XR)の技術開発に取り組むスタートアップ企業も生まれています。

対談風景

日本ではどのような業界別のユースケースやソリューションが検討されていますか? line

廣瀬  ジェフが話したような米国のユースケースやソリューションは日本でも注目されています。日本で「5G」の商用サービスが始まるの来年にむけて、すでに多くの研究や実験が行われています。BtoBのユースケースは、病院や工場のように限定されたエリアで「5G」のネットワークを構築すれば実現できますが、BtoCのユースケースについては、「5G」の通信サービス対象エリアが広がる必要があります。短期的にはBtoBのユースケースの実現が先行し、「5G」対応のエリアやデバイスの広がりに応じて、BtoCのユースケースが実現されるという動きになるでしょう。

 有望なB2Bのユースケースを特定するには、それぞれの業界や地域社会が抱える課題に対する知見が非常に重要です。先行する米国のユースケースをそのまま適用するのではなく、日本の業界や地域社会の現状を踏まえて最適化する必要があります。

 例えば、日本の少子高齢化社会の進展状況を考えると、医療・ヘルスケア産業におけるリハビリ指導の効率化は日本でも非常にニーズが高いと思います。

 一方で、日本の小売業においては、労働力不足対策へのニーズが高く、できるだけ少ない人員で店舗運営を行うユースケースが特に重視されます。たとえば、来店したお客様が自分で支払いをするセルフレジを「5G」のテクノロジーで効率化するといったものが求められます。

 こうした課題解決は「5G」のサービスを提供する通信キャリア1社で実現できるものではありません。業界・地域社会の課題をより深く理解しているパートナーと通信キャリアが協力して実現していくことが必要不可欠となります。

ジェフ  「5G」では多様な技術を扱うため、ビジネスを展開する際には、通信キャリアとパートナー企業が連携するビジネスエコシステム(ビジネス生態系)の構築が不可欠になります。自動車業界における自動運転などは、課題が複雑な場合が多く、複数の企業をとりまとめたコンソーシアム(事業共同体)が必要となるでしょう。一方、医療・ヘルスケア産業などでは専門的な課題が多く、通信キャリアと特定企業とのパートナーシップが重視されると思います。

 なおパートナーシップについて少し補足すると、米国のエンターテイメント業界では、AT&Tがタイム・ワーナーを買収するといったように、既にパートナーシップの選択肢自身が少なくなってきている状況です。

廣瀬  日本では「3G」時代に、通信キャリアが自らiモードのようなプラットフォームビジネスを提供し、大成功を納めました。ところが、「4G」時代には、期待したほどの成果を上げることができませんでした。これは「3G」時代の成功体験に基づき、自前でのサービス提供を進めたことが一因でしょう。その反省をもとに「5G」の時代は、BtoB、BtoCにせよ、パートナーと組むことで、業界や地域社会が抱える課題を解決するビジネスモデルが主流になるはずです。

 このことは逆に、パートナーとなる企業にとっては大きなビジネスチャンスになります。通信キャリアは「5G」に対する巨額の投資に見合った収益を上げるため、できるだけ多くのユースケースをつくりたいと考えています。それに、いち早く協力したパートナーは、ライバルに先行して開発に取り組むことができ、業界や地域社会へモデルとなるユースケースを横展開するという大きな成果を上げることができます。

 そしてそのソリューションは、日本の固有性に立脚した、地域社会や各業界向けに特化したものになりうるため、グローバルなプラットフォーマーもその市場を侵食することができないでしょう。

対談風景

「5G」の活用におけるアクセンチュアの強みはどこにありますか? line

ジェフ ご存じの通り、「5G」はさまざまな技術の総称です。モバイル通信ネットワークとしての技術に加えて、通信キャリアとオフィスなどの間に張り巡らせた中継用の有線ネットワークを代替する固定無線アクセス(FWA)の技術などを含んでいます。政府・自治体、製造業、医療・ヘルスケア産業、小売業など、それぞれの目的に合った異なる「5G」の技術を使い分ける必要があります。

 個々のユースケースやソリューションは、「5G」を活用して変革するビジネスモデルの一例に過ぎません。「5G」活用のカギは、「5G」の技術と、業界・地域社会の課題の両方を理解し、その課題解決に向けて最も的確な技術を適用することです。その点でアクセンチュアは、長年の世界中における通信キャリアへのコンサルティングの経験を通じて、ネットワーク技術が持つさまざまな側面はもちろんのこと、どの業界のどの業務へどの技術をどのように適用すると、問題が解決できるのかについてよく理解しています。

廣瀬  「5G」に加えて、人工知能(AI)、あらゆるものがネットワークにつながるIoTといった先端的なデジタルテクノロジーに詳しい専門組織「アクセンチュア デジタル」を持っていることも大きな強みでしょう。アクセンチュア デジタルの専門家は、日々進化しているテクノロジーに対する深い知見をもとに、課題解決に向けた橋渡しをすることができます。

 「5G」は10年に一度の通信技術における大きな変革であり、ユースケースやソリューションについて米国の方が先行している部分もあるかもしれませんが、日本においても通信キャリアについては非常に積極的に「5G」へ取り組んでいると感じます。

 それに比べると、「5G」を活用して業界や地域社会の課題を解決する側である、日本の企業や政府・自治体は「5G」の可能性をもう少しアグレッシブに追求してよいと思います。今や企業経営、並びに政府・自治体の運営において、AIやIoTといったデジタル技術は当たり前のように検討・活用されるようになっています。「5G」はそれらAI、IoTをさらに加速するテクノロジーであり、より多くのデータを効率的に収集し、より深い価値創出を行うことができるようになるでしょう。

対談風景

「5G」を活用して課題を解決する側が慎重なのはなぜでしょうか? アクセンチュアはこの2月、経営や技術のマネジメント層に対する「5G」についての意識調査結果を発表していますが、回答者は「5G」が急速に普及すると考える一方、「「4G」と「5G」の違いはほとんどない」など、「5G」を過小評価する傾向がありました。 line

廣瀬  統計的な平均値でいうとそうかもしれませんが、熱心に取り組もうとしている企業ももちろんいらっしゃいます。逆に周囲の意識がまだ少し低いとしたら、その中でいち早く「5G」を活用してデジタルトランスフォーメーションを行なっていくことは、競争優位に繋がるとも言えます。可能性はあるけれども顕在化しきってはない、そこに経営資源を投下するということは、将来の成長に向けた不確実性への投資という、まさに経営判断です。

 「5G」は、狭義ではネットワーク技術の進化ですが、その視点では「4G」と「5G」の違いは限定的で、「5G」で何ができるようになるか本質的なところは見えてきません。しかし、より広義に捉えると、デジタル変革を大きく加速する破壊的なテクノロジーであるということが見えてくると思います。

 一例をあげると、ビデオアナリティクスでは現在、ビデオカメラ一個ずつに画像処理装置を内蔵させてスマート化をしています。それが「5G」とキャリアクラウドを使えば、ほぼ遅延なくビデオの映像をクラウドへ送って画像処理ができるようになり、ビデオカメラ事態はよりシンプルで安価なままスマート化が可能になります。

 そうなったとき、どのような業界や地域社会の課題が解決できるのか、といったことに、いち早く取り組み、その成果を刈り取ったところが、これからは市場で優位に立ちます。注意深く課題とテクノロジーのマッチングを見極められさえすれば、非常に多くのチャンスがあると思います。

 つまり、「5G」は単なるネットワークの進化ではなくインフラ全体の進化であり、「5G」を本格的に活用するには複数の技術を組み合わせるという一段階広い視点が求められます。これこそが、業界や地域社会における課題解決へと結び付く非連続な変革を起こすのです。我々にはそれを強力に支援できる豊富な人材と知見があります。

「「5G」による創造的破壊がもたらす可能性に対する見方」、「「5G」に対する期待」、「「5G」の導入に向けて通信各社が担う重要な役割」、「「5G」の導入における障壁」

対談風景

アクセンチュア
戦略コンサルティング本部 通信・メディア・ハイテク
マネジング・ディレクター ジェファーソン・ワン氏

 約20年にわたり、通信、メディア、ハイテク業界のコンサルティングに従事。モバイル業界の世界的なイベント「Mobile World Congress」および「CES」の定例講演者で、CNNおよびMobile World Live TVに出演する。2017年10月にアクセンチュア ストラテジーに買収されたIBB Consultingのシニアパートナーを経由してアクセンチュアに参加。アクセンチュアでは「5G」におけるグローバル共同リーダーを務める。米メリーランド大学機械工学部卒業。

アクセンチュア
戦略コンサルティング本部 通信・メディア・ハイテク
マネジング・ディレクター 廣瀬隆治氏

 2004年アクセンチュア入社。通信・メディア・ハイテク業界を中心に、幅広い業界においてAIやIoT活用をはじめとしたデジタル戦略立案を支援してきた他、「5G」に詳しい。大企業とスタートアップの協業を通じたイノベーション加速を支援する「アクセンチュア・オープンイノベーション・イニシアチブ」の責任者も務める。東京大学工学部卒業、同大学院新領域創成科学研究科修士課程修了。

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