提供:アクセンチュア

アクセンチュア 代表取締役社長 江川 昌史氏 × アステラス製薬 代表取締役社長 CEO 安川 健司氏
対談特集 全方位型価値(360°バリュー)がもたらす企業の未来像

最先端の科学を社会の「価値」へ ――全方位型価値(360度バリュー)で生む持続的成長

 アクセンチュアは「全方位型価値(360度バリュー)」で企業経営を支援している。財務指標に加え、優れたエクスペリエンス(顧客体験)や持続可能性など多様な価値を、社会、顧客や従業員など多様なステークホルダーに提供することで、長期的で本質的な企業価値の向上をもたらす。アステラス製薬は最先端の科学で患者にとってのアウトカム(成果)を最大化し、社会に多様な価値を提供する。ともに患者や顧客への価値を重視する両社のパートナーシップでいかに成長を続けるか。アクセンチュアの江川昌史社長とアステラスの安川健司社長が対談した。

患者のアウトカム向上へ
エクスペリエンスを支援

江川世界で今、インクルーシブ(包摂的)な経済や成長が求められています。収益だけでなく、優れた顧客体験を意味するエクスペリエンス、持続可能性(サステナビリティー)、タレント(人材育成)が評価指標として重視され、企業の将来価値を決めるのはむしろこうした指標といえるほどです。そこでアクセンチュアは「360度バリュー」を提唱しています。その中には、売上収益やコア営業利益率などで目標とする指標を達成し、2025年度に株式時価総額7兆円以上と評価されることを目指すアステラスの「経営計画2021」と関わる部分があります。例えば、「戦略目標」にある「患者さんのより良いアウトカムの実現」はエクスペリエンスの向上とつながります。

安川アステラスは研究開発の戦略として「Focus Areaアプローチ」という考え方をとっています。具体的には3つの構成要素、(1)病気の根本原因との関連性が確かで最先端のバイオロジー(2)その効果を最大化するモダリティ(治療手段)/テクノロジー(3)開発の実現可能性と将来にわたるアンメットメディカルニーズの高い疾患――の組み合わせの集合をFocus Areaとして定義し、このFocus Areaに独自の専門性とプラットフォームを構築することで、革新的製品の継続的な創出を目指しています。その中でも、新しいモダリティの挑戦において、従来の対症療法から根本治療へと提供する価値が大きく変わります。20世紀から人類が使ってきた低分子合成薬だけでなく、細胞医療や遺伝子治療の先端技術を使い、根本治療をもたらすことを目指しています。当社が今後十数年にわたり患者さんや社会に提供できる大きな価値です。

江川価値の共通定義を作りましたね。

安川アステラスの価値を分数式で定義しました。分子は、我々が提供する薬や治療法、サービスにより、患者さんが得られる成果としてのアウトカム。分母は、そのアウトカムを作るために医療機関や介護者など、社会が負担するコストです。患者さんがより大きな恩恵を受ける、または社会の負担が減れば、価値は大きくなります。根本治療を提供すれば、患者さんは再び働けるようになり、介護者も不要となる可能性があります。例えば、細胞医療では網膜色素変性症。網膜の細胞が脱落して起きる病気なので、そこにその機能を持つ細胞を入れて復活させることができれば、失明の危機を脱せます。

江川根本治療の社会的価値を広く知ってもらう必要があります。患者さんのQOL(生活の質)や経済的価値がどう変わるのか定量的に測れるようにし、その価値が世間に認知されて薬価に反映できるようにするために、コーポレート・アドボカシー(企業の意見表明)が必要です。この一連の活動には私たちも全力で取り組ませていただいており、根本治療薬を世に出すアステラスの活動が評価される社会を一緒に作っていきたいと思っています。

フォト:クボタトラクターイメージ

アステラスの再生・細胞医療の研究開発拠点であるAstellas Institute for Regenerative Medicine

医薬と異分野融合の開発
先端企業を紹介し後押し

江川アステラスは経営計画の戦略目標に「Rx+ビジネスの進展」も掲げています。医療用医薬品(Rx)事業で培った自社技術を異分野の先端技術と融合させ、診断や予防、治療、予後管理など医療全般で患者さんに貢献しようとしています。私たちはアステラス向けに「デジタルヘルス・インキュベータープログラム」と称し、人工知能(AI)やブロックチェーン(分散型台帳)の新技術を持つ企業を紹介しています。例えば「更年期の血管運動神経症状向け」の治験に参加される患者さんの負担を軽減するために必要な技術をもつDX企業の評価、紹介を行っています。また医師の先にいらっしゃる患者さんのエクスペリエンス向上のためのデータ戦略を策定する「ペイシェント360」で支援させていただいています。

フォト:安川氏

安川「Rx+」は当社の造語でして、研究者の提案がきっかけです。有志15人ほどで始めたところ、20件も30件もアイデアが出てきて、現在は事業化を目指しています。自由な発想で予防や診断に使う製品を作ってもいいとしています。しかも、薬の開発みたいに10年も15年もかからずビジネス化が早いのも特徴です。事業が得意な人材も入れて育ってきています。

江川私たちもコンサルティング会社として、ヘルスケア領域に取り組んでいます。例えば、東京女子医科大学とは、腎移植患者の観察・検査データを用いたAIによる予後診療支援を行っています。また、福島県会津若松市では、個人の承諾(オプトイン)に基づき、スマートフォンによるワクチン接種記録確認の実証を手掛けました。こうした様々な経験からアステラスの「Rx+」にさらに貢献できそうです。

安川アクセンチュアからの様々な先端技術や学術関係者、ベンチャー企業の紹介には大変感謝しています。製薬会社は医学部や薬学部、まれに農学部など、生命科学系の人たちとの交流に偏りがちです。しかし意外に工学の技術を持った人とは面白いものができると思います。米国ではデジタル技術系のグループを作りました。20年に買収したバイオエレクトロニクスの分野に特化した米iotaでは、人工頭脳の技術から医療用センサーの応用を進めています。

最近では日東電工、エムハートと共同で使い切りの小型心電計とAIによる解析システムを開発しました。健康診断での通常数十秒程度の心電図検査では分からないことが多くあります。そこで心電計を人体貼り付け型にし、24時間のデータを解析できるようにしました。工学系との協業の成果です。

組織健全化へ改革推進
世界標準評価でサポート

江川安川社長は組織健全性目標を掲げ、人材の活用に熱心に取り組まれています。イノベーションを促す仕組み作り、人材の活躍、世界と日本との格差をなくす人事評価といった「タレント」指標に関わる分野も、アクセンチュアの「360度バリュー」でサポートできる分野です。

フォト:江川氏

安川アステラスは発足当初から適所適材が基本です。年齢も国籍も性別も問わず、その人が負う責任で報酬を決めるべきです。しかし人事・報酬体系が国ごとバラバラのまま、各部署がグローバル化し、ひずみが生じました。そこで適切な職務に適切な人材が就ける仕組みとして、アステラスでは人材をグローバルに募集し選ぶ「グローバルポスティング」制度を導入しました。他にも、部門ごとの目標設定では、部門を超えた協業が立ち行かないのでこれも解決しなければいけません。結局は人材を活用するには、会社全体をイノベーティブに保ち、このための阻害要因を取り除くことが必要なのです。

江川アステラスが人事考課、制度においてグローバルレベルで留意されようとしている内容はアクセンチュアでは既に先行して制度として運用されています。当社では個人の職務や責任は世界中で統一され、明確に規定されたジョブ型になっていましたが、さらに2年前に地域・部門を超えてお客様への価値提供のための協業を促進させる目的で共同責任型の評価制度を導入しました。こうした当社自身の経験を踏まえ、アステラスにグローバル統一のグレードや報酬、スキルマネジメント等を実現する基盤として「SuccessFactors」の導入でご支援しています。これからもアステラス製薬のイノベーションを後押しする様々な取り組みを、360度バリューの考えに基づき、多面的にご支援していきたいと思います。

360°value

アクセンチュアの定義する「360°バリュー」とは、企業の財務的なパフォーマンス(Financial)だけでなく、優れた顧客体験(Experience)や持続可能性(Sustainability)といった多様な価値基準、また従業員や地域社会、株主、主要なパートナーといった多様なステークホルダーへの利益に基づいた、多次元的な価値評価の形態である。「Client」の部分には、業界・業種や経営状況等に応じ、顧客ごとに最適な指標を設定している。

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