先行きが不透明で将来が予測困難なVUCA※な時代において、むしろ変化の好機と捉え躍進する起業家たち──。飲食と生花、それぞれの業界で注目を集める中村仁氏と前田有紀氏の対談からみえた、時代を生き抜く戦略とは。
※VUCA:Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語
中村 私は過去いろいろと転職してきました。家電メーカーから広告代理店を経てフリーになり、そこから飲食店を始めて、飲食店向け予約/顧客台帳サービスを開発・販売するトレタを創業しました。そんな中、昔から「世の中を変えるのはテクノロジーだ」とずっと思ってきました。
前田 私は社会人としてのスタートはテレビ朝日のアナウンサーでしたが、子どもの頃からの憧れだった自然に関わる仕事が夢で、30代半ばで転職しました。花屋で修行をしていた時は、とても恵まれた環境で楽しさもあり、いつかは独立もしたいけれど、このままスタッフとして生きていくのも幸せだとも思いました。ですが、妊娠したことをきっかけに、人生のコマを前に進めたくて、独立を決めました。最初は花の移動販売を始め、今は神宮前でフラワーショップを経営しています。

中村 お子さんができたから一旦中断しようじゃなくて、起業しようっていう発想がすごいですね。
前田 フラワーショップの勤務がハードだったこともありますが、それ以上におなかの子どもを大切にしながら、これまで培ってきたスキルをさらに前進させられる道を考えました。どうしたら花に関わる仕事のスキルアップと、好きな仕事を続けられる環境ができるかと考えたときに、それが起業だったんです。最初は個人事業主でスタートしましたが、だんだん一緒に働きたいといってくれる仲間が増えてきて。そんな仲間が増えたこともあり、今は法人化しました。中村さんは飲食店を始められた際に、ご自身で直接ツイッターで予約の受け付けをされたのがトレタにつながったんですよね?私も自身のフラワーブランドである“gui flower”を立ち上げた時に、出店の告知やブランドの思いを伝えるためにインスタグラムをフルに活用しました。


中村 お店づくりそのものは、むしろアナログの良さをきちんと出した方がよい一方で、そのお店が実は便利に24時間365日オンラインやAI(人工知能)による自動電話対応で予約が取れたりする。アナログにはアナログの、デジタルにはデジタルの良さがあるので、どちらか一辺倒ではなく、それを適切に使い分ける。お客さまにとっても、そのギャップがいいと思います。私はお店の裏側はITで全部自動化、表側のお客さまの前ではアナログの良さを大切にするというのが理想なんです。合理化・効率化は厨房だけじゃなくて、例えばお客さまの来店歴や好きなお酒のこともデータ化されていて、そのサポートをもとにスタッフはアナログで温かみのある接客をする。接客・調理など本来の業務に集中できるだけでなく、そのレベルを引き上げられるような環境をつくることが理想だと思ってずっとやってきました。
前田 すごく共感します!お花も販売のシーンというのは手のぬくもりが感じられるように、一つひとつの色と形を見て選んでもらうのを大事にして、裏側ではオンラインでお客さま情報をデータ活用しています。デジタルの力はすごく助けになっていて、ビジネス・カードやオンラインの会計ソフトは欠かせません。
中村 自動で銀行口座やビジネス・カードの履歴を読み込んで仕訳してくれますよね。
前田 そうなんです!これを自分で全部やっていたら、ほんとにもうパンクしそうになります。
中村 先ほどのデジタルツールや資金調達のしやすさなど環境も整ってきています。今の時代は昔よりも起業しやすくなっていると感じます。仮に失敗しても、今はスタートアップでの実績を一般企業でもキャリアとして評価してもらえるので、もっとカジュアルに、起業にチャレンジしていいんだと思います。

中村 一方で「不確実な時代」といわれる今は、先行きが見通しづらい状況ですが、だからこそ新しいことにチャンレンジするには絶好のチャンスでもあるんですよね。世の中の価値観がどんどん変わるわけですから、変わらないと生き残れない。だから、どんどん新しいことを試して挑戦することが推奨される。私はむしろ新型コロナウイルス禍の方が生き生きしていると言われます。例えば昨年9月に開業の「焼鳥IPPON」は、株式会社ダイヤモンドダイニング様との共同プロジェクトですが、当社はゼロから新しいシステムを開発するリスクを背負っていて、これはまさにコロナ禍だからこそ実現したプロジェクトだと思います。前田さんも昨年、神宮前で実店舗「NUR(ヌア)」の運営を始められていますね。
前田 はい。コロナ禍で私たちも少なからず影響を受け、それまで予定していた出店や、大型の装飾案件などはキャンセルが続きました。ですが、ステイホームを楽しもうという流れができ、新たにお花に触れる人が増えたと感じています。そんな中で農家さんのお花をお届けするオンラインプロジェクトを立ち上げ、反響もいただきました。でも、もっとお花のことを知りたい人が気軽に立ち寄れる場だったり、私たちの伝えたいことを直接届けられる場をつくりたいという思いで「NUR」をオープンしました。花業界のすそ野を広げるのが役目だと考えています。
中村 「焼鳥IPPON」のほかにも、コロナ禍で新規事業をいくつか立ち上げましたが、やっぱり生存戦略なんです。コロナで時間の早回しが起きているんですね。コロナ禍になる直前に当社が社内で未来予測をしたとき、今後5〜10年で起きると考えていた変化が、コロナをきっかけにどんどん現実化していることに気づいたのですね。だから私たちも、AIを活用した予約システム、店内での注文・会計のIT化など、もともと計画していた新サービスを一気に前倒しして立ち上げなきゃいけなかった。

前田 経営者の理念として、生き残るための未来を語れないとダメだっておっしゃっていますよね。でも、例えば年始めに年間の目標を立てるのですが、良い意味でも、悪い意味でも見事にその通りにならなくて……。中村さんは事業計画をどのように立てるのでしょうか?
中村 前田さんの会社の場合、それは投資家と交わすための事業計画書ではなく、自分たちの意志や思いを示したものになりますよね。自分たちの意志や思いが抽象的なままだと、なかなか実現し辛い。だから、事業計画という形で、その意志や思いを数字で表現していくのかなと思います。
例えば、自分たちはお花を通して人々の生活を豊かにしたいと思っているとして、そんな人を倍に増やせたらうれしいなぁと思うとします。それを数値目標にすると、売り上げ200%とか利益200%ですかね。「価値」として考えたら利益200%のほうが正しそうですね。じゃあどうやって利益を倍に伸ばすのか。
値上げでもいい。ただ、値段を上げるなら、その値上げした金額以上の価値をお客さまに提供しなければ、単に客数が減って終わってしまいます。じゃあどうやって価値を高める?仕入れ力アップ?スタッフさんのスキルを磨く?じゃあそのためにどういうトレーニングや研修をやる?
あるいは値上げせず、お客さまのリピート頻度を上げることで、結果として売上をアップして、利益を倍にしようという考え方もあるでしょう。よし、じゃあ月に1回来てくれていたお客さまを月2回、3回にするにはどうしたらいい?もっと気軽に立ち寄って、一本二本でも気楽に買えるような場作りが必要?お客さまのお花との接し方を変えるような活動もいいかもね!……など。
自分たちの意思や思いを数字に落とし込み、その過程で、それをどういう方法で実現するのが自分たちらしいかを考えて組み立てると、事業計画にもリアリティーが出てくるのではないでしょうか。
前田 なるほど、細かく掘り下げていくところが大事なんですね!
中村 そう。それを具体的にアクションにつなげる。仕入れを変えるのか、それともお花の管理の仕方を変えるのかとか。結果論として達成するかしないかじゃなくて、その数字に近づくための努力を積み重ねていけば、必ず数字は変わっていきます。

前田 経営者は相談相手がなかなか周りにいなくて孤独と感じることはありませんか? 最初はスタッフもいなくて1人で始めたので、お金のことなどに知識がないなか、バックオフィスのことも全部自分で調べてやるしかなくて……。お花の仕事をしたくて始めたのに、それ以外のことにこんなに悩むなんて!と何度も思いました。
中村 特に個人事業主だと、会社の支出と個人の支出がごっちゃになってのちのち法人化するときなどに困ることも多くなるので、最初からある程度整理しておいたほうがいいですよね。とはいえ、起業直後はやることが多すぎて、支出を一件一件管理するような手間はかけづらい。なので、例えば起業してすぐにビジネス・カードをつくり、仕事の経費はできるだけそのカードで支払うのがおすすめですね。私は起業してすぐにアメックスのビジネス・カードを作ったのですが、支出管理はもちろん、ビジネスの相談という面でも、経費関係の相談だけでなくサービスプロバイダの選定についての相談もさせてもらったことがあり、心強かったですね。
当社では海外のサービスをかなり使います。サーバーもそうですし、管理系のツールや開発ツールも。年契約で一括払いした方が安くなりますが、1カ月で数百万円の支払いにふくれることもあります。通常、カードの限度額はすでに設定されていてあまり融通が利かない中、アメックスの場合は事前に相談すると融通を利かせてくれて柔軟な対応もしていただけました(※)。仕向送金だと必要になる海外送金手数料も削減できたし、外貨から日本円へ変換する計算も楽で経理業務は本当に助かります。
※アメリカン・エキスプレスのビジネス・カードは、事前に一定の可能枠を設定せず、申込時の情報や入会後の利用資産状況・支払い実績などをもとに、利用可能枠をカード会員毎に設定。通常よりも高額の利用時にも相談でき、ビジネスを後押しする、柔軟な対応が可能な点が特徴の一つだ。


前田 私もアメックスは重宝します。アメックスのビジネス・カードを手にしてからいろいろサポートメニューを調べていました。私たちのお店で普段仕入れる花市場では、ほとんどどこでも使えていて、ビジネス・カードを手にしてから、持っていることでの安心感が全然違うなと実感します。追加カードをスタッフにも渡して仕入れの際にカード決済してもらうようにしたので、事前に現金を渡したり、立替精算をしてもらったりすることがなくなりました。手入力で経費を入力しなくても、購入履歴や明細をオンラインで把握できたり、もともと使っていた会計ソフトと連携できるので、実務面も非常に効率化されました。
中村 実は、当社ではポイントを社員に還元しています。忘年会で2~3年に1回、ビジネス・カードでたまったポイントを全部使い切って社員への景品を用意するんですが、結構盛り上がるんですよね!
前田 おもしろい! 福利厚生にも活用できるんですね。業績が好調だと経費も使うし、還元も楽しみになりますね。
中村 今は、現状維持が一番のリスクになる時代で、変わり続けていかないと生き残れない。ですから、起業もそうだし、少しでも何かチャレンジしてみたいことや関心があるなら、私はやって損はないと思います。今は失敗してもまた復帰できますし、そういう人たちを独りぼっちにしないバックアップしてくれるアメックスのビジネス・カードのようなサービスがありますから。いかに賢くフル活用して本業に集中できる環境をつくれるか。一緒に頑張りましょう!
前田 今日はいろいろアドバイスありがとうございました。情報もたくさんあって選択肢を広く持てる時代の今ならば、私のように起業することで好きなことを続けていけます。同世代で起業したい方の背中を、私も思い切り押したいと思いました。
