時代は4Gから5G、さらにその先へ ─ 移動体通信の進化を支える先進企業のミッションと可能性
時代は4Gから5G、さらにその先へ ─ 移動体通信の進化を支える先進企業のミッションと可能性
時代は4Gから5G、さらにその先へ ─ 移動体通信の進化を支える先進企業のミッションと可能性

提供:アルチザネットワークス

 2010年の「4G(第4世代移動体通信システム)」サービス開始から10年、20年3月に「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」を特徴とする5Gのサービスがスタートを切った。そんな移動体通信の進化と普及に大きく貢献している一社が、1990年設立のアルチザネットワークスだ。同社は、移動体通信のインフラ構築時に使用される通信計測器をはじめ、通信インフラの保守、運用管理を行うためのネットワーク管理システムや各種通信機器の開発、販売などを手がけるテクノロジーカンパニーだ。基地局負荷テスト装置「DuoSIM」で通信装置業界をリードし、近年は5G基地局に世界最高レベルの負荷をかけられる「DuoSIM-5G」を主力に業績を大きく伸長させている。そうした業界の注目企業である、アルチザネットワークスの創業者であり会長の床次隆志氏と、一橋大学大学院の楠木建 教授が、移動体通信の技術と業界、アルチザネットワークスの今後の可能性をテーマに意見を交わした。

背景
背景

業界は6Gに向けて
動き始めている

写真:楠木 建氏

楠木 建

一橋大学大学院
経営管理研究科 国際企業戦略専攻
教授

床次氏(以下、敬称略)新型コロナウイルスの流行をきっかけにデジタル化が一挙に加速し、生活でのネットワーク依存度が高まっています。この流れは、コロナの終息によってどのように転じると見ていますか。

楠木氏(以下、敬称略)例えば、大多数の人にとって、コロナ以前のオフィスワークよりも、ネットワークを使ったテレワークのほうが圧倒的に楽なはずです。人は本能的に「楽をすること」「怠けること」、あるいは「快適さ」を求める生き物です。ですので、テレワークを始めたきっかけがどうあれ、人はその「楽な働き方」「快適な働き方」を捨てて以前の働き方に戻りたいとは思わないでしょう。コロナ禍がどうなろうと、私たちの暮らしにとってのネットワークの重要性はこれからも高まり、その進化、発展が求められ続けると言えます。

床次:テレワークについては、その推進によって人とのリアルなつながりが減り、もの足りなさを感じている方もいらっしゃるようですが。

写真:床次 隆志氏

床次 隆志

株式会社アルチザネットワークス
代表取締役会長兼CEO

楠木そのようですが、テレワークの快適さを犠牲にしてまで、そうしたもの足りなさを埋めようとする人はそう多くないはずです。また、ネットワークが進化することで、テレワークの環境がより臨場感のある、現実の職場に近いものへと発展していくのではないでしょうか。

床次移動体通信の業界ではすでに、6Gの実現に向けて動き出しています。当面は5Gの進化を継続させながら、6Gに向けた試行錯誤が繰り返されると思いますが、数年後には6Gに対する具体的な要件が明らかにされるはずです。

楠木6Gの実現に向けた技術面での最大のハードルは何なのでしょうか。

床次6G実現の最大のハードルは半導体の進化と言えます。少し前までは半導体の性能向上には限界があり、移動体通信技術の進化も5Gで終わるのではないかと見られていました。ところが今日では、半導体の進化はこれからも続き、移動体通信業界と半導体業界の二人三脚で開発を押し進めれば、6Gは実現できるとの見方が大勢を占めています。

楠木6Gの開発テーマは何になるのでしょう。

床次一層の大容量化や超低遅延、多接続、高信頼の実現に加えて、通信のカバレッジを航空機、船舶などへと押し広げていくことです。その実現に向けて、衛星やドローンを基地局として活用することも想定されているようです。

移動体通信業界は
寡占化が鮮明に

楠木5Gから6Gへの移行によって移動体通信技術の難度はさらに上がりそうですが、それによって業界にはどのような変化が起こると見ていますか。

床次おそらく、チップセット、端末、インフラのいずれの領域でもプレーヤーの寡占化がいま以上に進み、移動体通信業界への参入障壁がさらに高くなるはずです。移動体通信業界ではすでに企業間の合従連衡の動きが限界に近づきつつありますが、今後は、有力セットボックスメーカーが半導体メーカーを買収するなど、少ないプレーヤーがそれぞれの差異化を図る目的でM&Aによる垂直統合を推し進めていくでしょう。

楠木そうした中で、アルチザネットワークスでは企業としての独立性を維持し続けています。そのために、かなりの苦労を強いられてきたのではないですか。

床次正直なところ、大変でした。当社は約30年にわたって通信業界で仕事をしてきましたが、その間、数多くのプレーヤーが業界でのビジネスの厳しさに耐え切れず、市場から姿を消していきました。例えば、基地局向けの負荷テスト装置についても、私たちの競争相手はグローバルで2社しか残っていません。結果として、当社はいわゆる「残存者利益」を享受できるようになり、市場での競争に勝利したときに得られる収益は以前に比べはるかに大きくなっています。ただし、そこに至るまでの道のりは決して平たんではなかったということです。

アルチザネットワークスが描く
新たな時代の経営戦略

楠木10年後に始まる6Gの時代、さらにその先を見据えて、アルチザネットワークスではどのような経営戦略を描いているのですか。技術レベルを高く保ち続けること、そして開発投資を続けることは簡単ではないように思えます。

床次当社の製品はニッチな市場をターゲットにしていますが、こうしたニッチで最先端技術の領域で、匠の技を生かしながら競争優位を確立するのは日本のお家芸だと言えます。ですので、当社としてはこれからも自社開発にこだわりたいと考えていますし、それに向けて最先端分野で一緒に仕事をする仲間を増やしたいと強く願っています。

楠木仲間を増やすとは要するに、開発のエンジニアをいっそう充実させるという意味ですね。となると、エンジニアに対して、アルチザネットワークスで働くことの魅力をしっかりと伝えることが大切ですね。

写真:対談風景

床次おっしゃるとおりです。例えば、10年ごとに連続的に起こる移動体通信技術の進化は、新技術に貪欲なエンジニアを飽きさせることがありません。加えて当社は、エンジニアが腰を落ち着けて自分のアイデアや技量を試し、スキルを磨き上げていくことができる職場です。しかも移動体通信は世界共通の技術です。そのため、当社の職場で学んだことを生かせば、グローバルで活躍することも可能です。当社では、そんなチャレンジングな環境にやりがいや楽しみを感じるエンジニアを求めています。

楠木加えてアルチザネットワークスでは、サービス事業の強化も推し進めていますね。

床次はい。その戦略の一環として、数年前から岩手県滝沢市に「滝沢デベロップメントセンター(TDC)」を建設し、それに続けて21年に「滝沢テレコムテストセンター(T3C)」を建設しました。このうちT3Cでは国内外の5G基地局のテストを展開しています。これは、負荷テスト装置を使った基地局のテストを、サービスとして提供してはどうかという、楠木教授からのアドバイスをかたちにしたものです。

楠木ハードウエアの機能をサブスクリプション型のサービスとして提供するというモデルは、今日、多くのメーカーが実践して成果を上げていますが、私が床次さんにそのモデルの採用をお勧めしたのは、サブスクリプションモデルが流行するかなり以前のことだったと記憶しています。それでも、私のアドバイスを真摯に受け止めていただき、御社として消化・実践して成果を上げているのには驚きましたし、とてもうれしく感じています。

 アルチザネットワークスの負荷テスト装置を導入しようとする企業が本来欲しているのは、ハードウエアではなく負荷テストであり、テストの結果です。それをサービスとして切り出して提供することで、より多くの顧客にアルチザネットワークスの価値を届けることが可能になり、かつ、サブスクリプションモデルによるハードウエアのサービス化によって年度ごとの収入も均一化されると考えました。

床次T3Cの建設後、すでに多くのお客様にご利用いただき、その広がりを強く感じています。実のところ、5G基地局向けの負荷テスト装置を開発する技術的な難度は高く、その製品価格は4G基地局向けの負荷テスト装置に比べて高額になっています。6Gではさらに技術的な難度が上がりますので、製品価格がいっそう高額になります。

 T3Cによるサービスは、そうした機器導入のハードルを大きく引き下げる効果が期待でき、その意味で6G時代に適したものだと見ています。また、T3Cにおけるサービス事業の展開を通じて、テストの完全自動化やテストエンジニアの補強も積極的に図っていくつもりです。さらに今後は、T3Cの拠点を海外にも展開し、基地局負荷テストサービスのグローバル化にも取り組む計画です。

楠木すばらしいですね。これからも御社の動きを注目させていただきます。

床次本日はありがとうございました。

写真:ポートレート