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前編 盛り上がるNFT市場のカラクリ 立ちすくむ日本企業

後編 NFTを事業に 取り組みの遅れを取り戻すための解決策

「2021ユーキャン新語・流行語大賞」ノミネート、日経トレンディ「2022年ヒット予測」第三位など、急速に注目が集まる『NFT』。その概況と将来シナリオ、事業機会について2回にわたり解説します。

「提案のままに契約してしまった。今なら絶対しないのに」

NFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)について当社が複数の企業トップから聞いた言葉です。

NFTは特に海外での動きが早く、スタートアップを含む海外から問い合わせが来て、既存のライセンス事業などの基準に照らしてもそれなりの収益が見込めそうなことから部門担当レベルで決裁してしまい、いつのまにか経営トップが知らないところで独占的な事業権を与えていたというケースは珍しくありません。

「こんなに盛り上がると思っていなかった」
「事業の広がりがここまであるとは思っていなかった」
「単なる新規事業かと思っていたが、複数の事業に横断して重大な影響を与え得る」
「様子見でよいと思っていたが、今から中期計画に織り込んでいくべきだ」

企業トップがこのように認識している企業は既に本格的な取り組みに向けて着々と準備を固めつつありますが、ほとんどの会社は、急に来た波に乗り遅れまいと急ごしらえで担当を決めて検討を始めているのが実情です。

前年比50倍の1.5兆円。沸騰するNFT市場の概況

NFTとは、従来コピーが容易でオリジナルであることを証明することが難しかったデジタルデータに対し、唯一無二(本物)であることを証明し正式な「所有権」として明確化することができる仕組みです。

その特徴は、大きく以下の3つに集約されます。

  • ① 非代替性:唯一無二であるという固有の価値を証明することが可能
  • ② 移動可能性:自由*に移転(譲渡/売買)することが可能
  • ③ プログラマビリティー:データそのものに付加機能をプログラムでき、二次流通以降の手数料設定や 取引数量の制限などを事前に組み込むことが可能

 *大半のNFTは共通規格で発行されているため、規格に準じたウォレット(電子財布)やマーケットプレイスであれば原則どこでも移転可能

NFTはブロックチェーン技術を基盤とした仕組みであり、これまで難しかったデジタルデータに資産的価値を付与することを容易にしたことで、売買や関連サービス市場が急速に立ち上がるなど、大きく注目されています。

NFTの成長性 
最大の背景は暗号資産というメガトレンド

NFTのグローバルでの取引規模は2021年に入り前年比50倍の1.5兆円を超える見込みであり、急速に拡大しています。

2021年に急速にNFT市場が拡大した背景には、大きく3つの要素が存在します。

  • ① メガトレンドとしての暗号資産市場の興隆
  • ② チャネル/インフラ/マーケットプレイスなど取引環境の充実
  • ③ 著名IP(Intellectual Property=知的財産)の参入を含むコンテンツの充実

まず、ビットコインやイーサリアムに代表される暗号資産について、認知度の向上にともなう新規投資家の参入や、米国における先物ETF(Exchange Traded Funds=上場投資信託)承認など規制整備にともなう資金流入などにより、全世界で暗号資産ホルダーの数が数千万人を超え、暗号資産全体の時価総額が200兆円を超えるなど、市場全体が急速に成長しています。

そのような状況の中、暗号資産投資家がNFTにおける初期の主要な購買層であったことと、ならびにマーケットプレイスにおいてNFTが暗号資産建てで売買されることが多いことからNFTにおいてもリーチできる投資家の母数が飛躍的に増加したこと、並びにNFTを暗号資産に準じる投資対象(売却時は暗号資産を対価として得るため、NFT投資は同時に暗号資産にも投資しているといえます)としてみなす投資家が増加したことがその背景にあります。

次いで、NFTを活用したゲームや「LINEで応募」のようなエントリーレベルが低いサービスの出現、ツイッターによるNFT認証機能の追加など、実際にNFTを活用可能な場が増えたことに加え、オープンシ―(Opensea)に代表される取引プラットフォームが整備されたことで取引が活発化したことが挙げられます。

さらに、NBAやサッカー、F1などこれまで巨大なファンを有していたIPコンテンツが参入することで各種メディアでの露出数が飛躍的に増えたこともあり、暗号資産投資家にとどまらない、より広範なユーザーが市場に参入してきたことも大きな要素です。

NFTではアート分野がまず注目され、デジタルアート作家のBeepleの作品が約75億円で落札されたことをはじめ億単位の取引が相次ぐことで”バブル”の様相を呈していることも一つの事実であり、大きな話題となることで市場の活性化を促進したことも間違いありませんが、当社では中長期的な市場の成長はさらに続くと想定しています。

その大きな要因は、中長期的な暗号資産への資金流入が今後も続くこと、また具体的なサービスがさまざまな領域で浸透することにより、一般ユーザーを対象に広く市場が広がっていくという二つの不可逆なトレンドの存在です。そして流動性が一段と向上することで、より利用価値が高まるというサイクルがしばらく続くと予想されます。

IPとNFT 
市場をけん引するBCGとは

アート分野から市場が立ち上がったように、NFTはその成り立ちからコンテンツなどのIPと非常に相性が良いとされます。ではコンテンツなどのIPにかかわる事業を展開するプレーヤーにとって、NFTはどのような存在といえるでしょうか。NFT市場をけん引する有力分野であるブロックチェーンゲーム(BCG)の領域を例にとり、考えてみたいと思います。

BCGとは、ゲーム基盤としてブロックチェーン技術を活用したゲームであり、ゲーム内で利用されるアイテムやキャラ等の自由な譲渡・売却、サービス終了後の獲得アイテム等の存続、ゲーム内外での相互運用性、プレーして稼ぐ(Play-to-earn)機能などが主な特徴とされます。代表的な例としてはアクシー・インフィニティー(Axie Infinity。SkyMavis社がリリースしたブロックチェーン・ゲーム)が挙げられます。

図

このBCGの領域では、これまで各種ゲームを提供してきた既存プレーヤーに加えて、金融機関、取引所運営企業、マーケット運営企業、ウォレット運営企業、投資家、ファンドなど多様なプレーヤーがかかわることで業界構造が複雑化しています。

これまで、IPホルダーは有力IPをライセンスによりゲームに登場させる、または自社自らがゲームを展開することでファンを誘導し、大きな収益を得ることが可能でした。いわば、IPホルダーを頂点としたピラミッド構造が成立していたといえます。

しかし、BCGにおいては、ゲーム開発企業が独自のIPを創作し、BCGの特徴であるPlay-to-earnの仕組みやマーケットプレイスの仕組みを整え、ウォレット運営企業・マーケット運営企業・暗号資産取引運営企業などと連携することで、外部から有力なIPを持ち込まずとも、大きなエコシステムと収益機会を生み出せるようになっています。

図

特に、ゲームで展開されるNFTならびに暗号資産に関連する金融関連サービス提供事業者の参入は、これまでゲームやIPを取り巻く事業とは異なるロジック、スケールを持ちこむことになり、大きなインパクトと業界構造の急速な変化をもたらしています。

一方、IPホルダーやゲーム事業者にとっても、BCGに取り組む二つの大きなメリットがあります。

一つはこれまで自社ゲーム内に閉じていたエコシステムを、外部のサービスやリアル世界に拡張し、より大きなユーザー、可処分所得や可処分時間にアクセスできること。

もう一つは、IPやゲーム内アイテム、キャラクターといった資産を新たにマネタイズできる可能性があることです。しかも、マネタイズの仕組みによっては非常に収益性が高いビジネスモデルが構築可能です。

また、これまでIPやゲームを楽しんでいたファンにとっても、従来のゲームより、Play-to-earnの仕組みだけでなくBCGのほうがさまざまな価値(資産保護や希少性など)を感じられるため、よりニーズが高まっていくと予想されます。

このBCG領域において現在最も成功しているとされるケースがアクシー・インフィニティーです。

Play-to-earnの代表例 
アクシー・インフィニティー

Axie Infinityについて/Yield Guild Games(YGG)について
2021年11月時点

アクシー・インフィニティーが画期的とされるのは、Play-to-earnというモデルを確立しただけでなく、ユーザー、ゲームへの投資家、暗号資産への投資家という三者をエコシステムの中に上手に埋め込み、トークンエコノミー(NFTや暗号資産などのトークンを基盤とした経済圏)を成立させたことにあります。2021年10月時点でゲームでは数百万DAU(Daily Active Users=1日あたりのアクティブユーザー)、トークンのホルダーは200万超、関連NFTの月間の取引規模は月間700億円超と、急激な成長を見せています。

アクシー・インフィニティーは、もともと有力なIPを有していたわけではありません。つまり、この新たな市場の成長ルールは、「有力なIPがあるか」ではなく、「金融的な付加価値も含めたトークンエコノミーを成立させられるかどうか」なのです。

先行事例として有名なNBAトップショット(NBA Topshot)やソラーレ(Sorare)などの例を挙げると、「やはり有力なIPが必要だ」と考えがちですが、実際にはこうしたサービスも緻密なエコノミクス設計がなされており、トークンエコノミーの設計や実装の巧拙ならびに適切なパートナリングなどが重要であることが分かります。

一方で、IPとNFTはその性質上非常に相性が良く、上手に活用することで①既存ライセンス物の二次流通以降でのマネタイズの実現②デジタルアイテムの新規ライセンス先の開拓③コミュニティー等の活用によるファンの育成とCRM(Customer Relationship Management=顧客関係管理)の深化、といった事業機会が拡大することも事実であり、NFTへの参入は非常に合理的な判断だといえるでしょう。

立ちすくむ日本企業 4つの壁

しかしながら、参入が合理的な判断とは分かっていても、参入に対してためらっている日本企業が多いのが現状です。それはなぜでしょうか。

まず一つ目の壁は、このNFT領域では、「柔軟なIP活用を認めることによる、UGC(User Generated Content 一般ユーザーによって作られたコンテンツ)的な営みを促進すること」が成長の大きなカギであるということです。

これまで、IPホルダーをはじめとする関連プレーヤーはさまざまな投資を行い、IPを育て、厳格にコントロールしながらブランドとして育成・確立することで大きな収益を上げてきました。特に有力なIPであればあるほど模倣品や権利侵害のリスクが大きくなるため、コントロールはより厳密になるのが一般的でした。

一方、ブロックチェーンをベースとするNFTの領域では、ユーザーをはじめ外部の協力者がコミュニティーを形成し、時には独自のコンテンツ(NFTを題材にしたゲームやリアルグッズ、派生キャラクターなど)を自由に作り、イベントを開催して認知を高めるなど、「IPを柔軟に活用してNFTの価値を高める」UGC的な営みが可能かどうかがファンや投資家にとってNFTの価値を見定める大きな観点として存在しています。

コレクタブルNFTの成功例とされるボアード・エイプ・ヨット・クラブ(Bored Ape Yacht Club(BAYC))では、各NFTの所有者にそれぞれのデザインの制作物を作る権利を認めており、派生グッズや有志でのイベントなどがNFTのブランディングに大きく寄与しています。

「自らもしくは誰かが価値を高める仕組みがあれば、将来的に価値が上がると見込み積極的に投資する」という金融では当たり前の観点ですが、これまで厳格なコントロールによって収益を確保してきたプレーヤーにとって、柔軟なIP活用をおいそれと認めることはできないのは、生理的な反応としては自然なものともいえます。

またそもそもマンガや書籍などの原作が存在するアニメやゲームなどのコンテンツでは、著作者の承諾や権利を保有する製作委員会の合意が必要など、ベースとなる権利許諾のプロセスでつまずいてしまうことも少なくありません。

二つ目の壁は「既存事業とのカニバリゼーション」です。すでに(リアルで)多額のロイヤルティーを生んでいるようなIPが、デジタル領域とはいえ幅広く展開することに対し、トータルとしての収益低下を引き起こす懸念を感じている方も少なくありません。「二次流通の機会が見えているとしたらなおさら一次流通ではしっかりと値付けをして収益化すべきではないか」という意見に対し、不確実な将来利益を持ち出して反論するのは、具体的な国内事例が少ない中では簡単なことではありません。

三つ目の壁は「法務リスク」です。

一般的にIPホルダーの権利・NFT購入者の権利ともに、基本的には契約(ライセンス契約や利用規約等)により定まることとなるところ、NFT関連契約には特有の検討事項があることや、現時点ではNFTについては国内外の政府含め法的論点の検討・議論が進んでいるとは言いがたい状況であり、今後の規制動向を見定めることも容易ではありません。

また国内での事業展開に絞ったとしても、景品表示法や賭博罪との関係など先例が少ない中で検討すべき事項が多岐にわたり、取り組みを難しくしています。

一方で、NFTの偽造等のIP侵害に対してIPホルダーが取り得る対抗手段は、現状では間接的・限定的という実情もあり、何らかの対処を行っていくこともまた必要な状況です。

最後にして最大の壁が、「リソース不足」です。

トークンエコノミーを設計していくには、NFTの基礎的な理解にとどまらず、需要と供給の関係やコミュニティー、ブランディングなど多様な観点を複合的にマネジメントしていく高度なプロデュース力が必要です。

しかしながら金融やブロックチェーンなどはIPホルダーにとって未知の領域であり、経営層並びに現場ともに、ビジョンを描き、具体的にプロジェクトを推進していくための知見が圧倒的に不足しており、そもそもどのようなパートナーと組めばよいのか、コミュニティーをどう運営していくか手探りで進めるにしてもスピードを出しづらく、業界全体が常に変化し続けるブロックチェーン事業者についていけない、というのが実情です。

また、NFTの供給設計や需要創出を考えていくにあたっては、現在いるIPのファンの量や特性を深く理解し、ファン層がNFTにリーチできる状態か(例えば暗号資産ホルダーはどれくらいいるか、そもそも金融的な手法への忌避感はないか)正確なデータを有しておらず、ユーザーの分析、それもデータ基盤の整備から始めるケースも枚挙にいとまがありません。

このような原因から、現状IPホルダーはNFTという新たな事業機会に対し踏み込み不足であり、一般ユーザーにインパクトがあるような取り組みが出てくるスピードも遅いのが実情です。

取引ベースで1.5兆円という巨大な市場が一夜にして出現したのに、その波に乗れず立ちすくむ日本企業はどのように取り組んでいくべきなのでしょうか。そして実際には9割以上のプロジェクトが失敗とされるNFTについて、どのように検討すべきなのでしょうか。

後編では具体的な取り組みへの解決策について触れたいと思います。

著者
針ヶ谷 武文 氏

針ヶ谷 武文

A.T. カーニー シニア パートナー
大手通信会社でインターネット関連の事業企画・サービス企画を経て、A.T. カーニーに入社。通信・メディア領域を中心に、15年を超えるコンサルティング経験を有する。
メディア・コンテンツ領域においては、新規事業戦略、海外戦略、成長戦略を中心に多数の実績を保有。

向山 勇一 氏

向山 勇一

A.T. カーニー パートナー
日本IBMを経て、A.T. カーニー入社。2017年~2019年は大手広告代理店の改革推進室長を兼務。
メディア・コンテンツ業界、不動産業界を中心に15年以上のコンサルティング経験を有する。

松岡 洋平 氏

松岡 洋平

A.T. カーニー アソシエイテッド スペシャリスト ディレクター
米系戦略ファーム、ライフネット生命立ち上げ、ディッキーズジャパン副社長、SmartNewsでのマーケティング、RIZAP GROUPでのグループ会社数社の取締役、LINE Payでの決済マーケティング/暗号資産プロジェクトなどを経てブロックチェーンスタートアップに所属。兼業としてデジタル庁にてマーケティングに従事。 

本稿に関するお問合せ先: A.T. カーニー(株) Japan.PR@kearney.com
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