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後編 NFTを事業に 取り組みの遅れを取り戻すための解決策

前編 盛り上がるNFT市場のカラクリ 立ちすくむ日本企業

前編では盛り上がるNFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)市場に対して大きな興味を持ちつつも、なかなか動けない企業の姿を明らかにしてきました。
後編ではNFTを事業機会としてとらえ、取り組みの遅れを取り戻すための解決策について触れていきたいと思います。

成功率1%? NFTプロジェクトの成否を握るのは
「人間理解」と「金融」スキル、そしてトップのコミットメント

成功したプロジェクトがニュースになることが多いため見過ごされがちですが、数あるNFTプロジェクトの中で、成功(=プロジェクトが持続的に成長している)といえるのは1%ともいわれるほどで、ほんの一握りです。

億を超えるSNSフォロワーを有する芸能人が鳴り物入りで宣伝したにもかかわらず全く盛り上がらず、値上がりを期待して購入した投資家から非難されるケースも出てきています。また、需要を保守的に見積もり「まずは100個」と限定して販売すると、ファンより先に投資家に買い占められて急騰、ただし全然売買されずに二次手数料も入らず下落トレンドに入りオワコン(終わったコンテンツの意)化するようなケースもあります。

数多くの失敗事例から学べるのは、以下の問いに答えられるプロジェクトになっているかどうかです。

・どのくらいの人が(国内/海外で)欲しがるのか把握しているか?
・欲しがっている人たちは実際にすぐ買える状況にあるのか?
・どのくらいの利ザヤがあれば転売を意識した投資家が参入してくるのか?
・(転売も含め)取引時に許容される手数料設定とはどれほどなのか?
・転売を含めた取引がコンスタントに成立するにはどの程度の流動性が必要なのか?
・将来的に価値が上がると所有者が感じられる仕組みがあるか?
・所有者をはじめ価値を付加できる仕組みが存在するか?

これらに対応するために必要な能力をまとめると「(ファンを含めた)人間理解」と「金融」という二つのスキル、そして「トップのコミットメント=トップの推進による横断的な取り組み」に集約されます。

NFTで変わる顧客、変わらない顧客

NFTではそのIP(Intellectual Property=知的財産)コンテンツとの相性の良さから、昨今のニュースでも「ファン」とセットで語られることが少なくありません。

ここでいうファンとはつまり商品やサービスを認知しており、実際に購買行動を行っている「ロイヤルな既存顧客」を指すことが多いのですが、NFTによる取り組みは熱狂的なファンだけでなく、購買頻度の低い既存顧客や既に離反してしまった顧客、また購買に至っていない顧客をも対象に含むことができます。

そうした幅広い顧客に対し、NFTはその販売や二次流通だけでなく、プロモーションやメンバーシップとしての活用など、様々なタッチポイントで活用可能になってきます。

例えばLINEでは「LINEで応募」という仕組みを用いて10万人以上に配ったり、ふるさと納税のサイトと連携して都道府県ごとのキャラクターをNFTで配るなど、プロモーションを行いたい企業にとって手軽なインセンティブとして活用されるケースが出てきています。

それでは、実際にそれぞれの顧客がどの程度NFTに価値を感じるか見積もるためにはどうすればよいのでしょうか? そのためには、(NFTにかかわらず)『顧客をより深く理解できている』という前提が重要になってきます。

例えばIPホルダーの観点なら、自社の既存CRMでアクセスしやすいユーザーやそのデータだけでなく、顧客が(他社のものも含め)他のIPで何が好きなのか、何に時間やお金を使っているのか、自社が規定する顧客セグメントごとに一人の顧客に焦点を絞って顧客の性質を見極め、バーティカルな分析を行うことが必要です。

この際、既に何らかの顧客コミュニティーを有しているのならば、コミュニティー内でのデータを精緻に分析することでNFTそのものへの需要だけでなく、どのような価値を付加していくべきかの示唆も得られることでしょう。例えば複数枚集めると追加でもらえるといった仕組みや、持っているだけで特定イベントへの優先エントリー権が付与されるなど、提示し得るメリットがどう刺さるかクイックに検証することが可能です。

もちろんNFTに何ら反応しないし、付加価値があろうが購買につながることがない顧客も存在します。重要なのは顧客をひとまとめにして過度に期待したり、過少に見積もったりせず、ありありとした人間理解に基づきNFTに対する取り組みを推進していくことです。

NFT-fiやGame-fi、金融がもたらす事業構造の変化

先ほど挙げたNFTプロジェクトにかかわる問いを眺めていると、「株式と似ている」と直感的に思った方も多いと思いますが、まさしく金融スキルが求められてくるのがNFTの世界です。

単純にNFTの流通をめぐる株式市場ライクな位置付けだけでなく、アクシー・インフィニティーにおけるスカラーシップ、ディセントラランド(Decentraland)やザ・サンドボックス(The Sandbox)上のランド(Land=仮想の土地)の売買にみる新しいゲームのマネタイズモデルが最たる例ですが、高額なゲームのキャラクターやランドを企業(あるいはプロ投資家)が買い取り、(特に途上国の)個人では買えない/負えないリスクを取ることでほかのユーザーに貸し出し、利益を分配する「ゲームを舞台とした金融/不動産ビジネス」など、ゲーム×金融をその先駆として様々なビジネスが金融と融合していく様相を呈しています。

「NFT-fi」や「Game-fi」と呼ばれるように、金融を絡めた複合的なビジネスへと変動を遂げ、ユーザーが商品やサービスを選択する基準にも大きな影響を及ぼすようになってくる一方、事業を取り巻く構造も大きな変化を遂げています。

前編でIPビジネスについて触れたように、これまでゲームのルールをつかさどっていたプレーヤーの地位が揺らぎ、ウォレット(電子財布)運営企業・マーケット運営企業・暗号資産取引運営企業およびそうしたプレーヤーと提携したスタートアップがゲームのルールを書き換えるとともに、巨大なエコシステムの中心を担うことが現実に起きつつあるのです。

「NFTはアートやコンテンツ」だけじゃない 
あらゆる”ブランド”企業は今すぐNFTに取り組むべき

しかも、このような事業構造の変化は決してゲーム業界だけではありません。確かにアートやコンテンツの分野におけるニュースとしてNFTが取り沙汰されることが多いのですが、本質的にはNFTはあらゆる“ブランド”企業にとって取り組むべき対象といえます。

その一つの理由は権利保護の観点ですが、もう一つは既に起こりつつあるメタバースへの対応です。

ルイ・ヴィトンやジミーチュウなどのNFTが注目されたり、ディズニーのCEOがメタバースへの取り組みに言及し、実際にNFTが販売されるなどグローバルなブランドが目立ちがちですが、「デジタル世界における価値がリアル世界を上回る」メタバース時代(既にインスタグラムなどではその逆転が起きているともいえます)においては、伝統的なコンテンツ企業だけでなく、現実世界でブランドを生かしたビジネスを行っているすべての事業者が対応を迫られることになります。

その中で先駆的な動きを見せているのがナイキです。いち早く商標のカバー範囲をメタバースを想定したデジタル世界に拡張するとともに、リアル商品とデジタルアイテムとの接続について独自の特許を申請し、デジタルアイテムを制作するデザイナーを採用するなど、守りも攻めも連動しながら全社をあげて着々と準備を進めています。

その背景には、「NFTがいかに自社の事業並びに対象市場を変革(あるいは破壊)し得るか」という危機感を事業あるいは経営トップが持ち、コミットしているという事実がうかがえます。

では何をすべきなのか? 5ステップ

❶ IP創作時の著作権契約ひな形の改訂

まずNFTのような、現状の著作権契約ではカバーできない、かつ法的な取り扱いが未確定な事物に対して将来的に柔軟に取り扱えるようにすべく、IP創作時(コンテンツだけでなくブランド商標などすべてを含みます)について、著作権契約のひな形を対応させることです。

この際、将来的な二次流通時の還元など詳細については別途定めることとし、二次利用、UGCへの対応といった派生コンテンツへの対応をまず優先して取り決めることが有効です。

❷ 自社の商標保護範囲をデジタル世界に拡張

次に自社商標を確認し、NFTやメタバースをはじめとした事業機会に適用可能性のあるものについては適切な形で保護範囲を拡張すべく早急に手続きを進めることが必要です。

例えばナイキ社は2021年10月に「NIKE」「JUST DO IT」という文字列や、同ブランドを象徴するスウッシュジャンプマンエアジョーダンなど、計7種類の商標について「ダウンロード可能な仮想商品、すなわち、オンラインおよびオンライン仮想世界で使用する」ことを目的として新たに申請しています。

❸ リアルとデジタルのアセット連動を担保

さらに、リアルな商品やサービスで基盤を有している企業であれば、デジタルアセットとしてコレクションやBCGなど事業機会がどこに存在するかを同定し、事業へのインパクトを試算しながら連動するべきアセットを見定め、具体的な連動手段を検討することが必要です。

ナイキ社は「靴の購入者が、自分の靴が本物であることを確認する機能とともに、ブロックチェーンウォレットを通じて、自分の靴のデジタルコレクティブルバージョンを楽しむことができる」という特許を申請していますが、この取り組みにより、リアルな製品の真正性を担保するとともにデジタルを付加価値(場合によってはリアルがデジタルの付随物になる可能性もある)として取り込むねらいが見えてきます。

(※ナイキ社は21年12月14日、カルチャーとゲーミングを融合した次世代のコレクターズアイテムを提供するNFTブランド〈RTFKT(アーティファクト)〉の買収を正式に発表した)

また、リアルな商品やサービス並びに店頭やイベントスペース、スタジアムなどは、デジタルアセットを拡販するにあたって”メディア”としての機能並びにNFTの実用性(ユーティリティー)を向上させる手段として事業をレバレッジできる大きな可能性を秘めています。これまでO2O(Online to Offline)で検討並びに取り組まれている事業を、加速させることができるともいえます。

❹ ケイパビリティ担保のための適切なパートナー選定

ユーザーを引きつけるIPやコンテンツ、ユーザーに届けるメディアや販路、ブロックチェーンやNFTといった新規性の高い技術領域並びに金融という専門外のスキル、ウォレットや暗号資産といったエコシステムに必要なパーツ......このすべてを兼ね備えるプレーヤーはほぼ存在しないといっても過言ではありません。

このような状況の中では自社が有するアセットを冷静に見極めると同時に、必要なパーツについて適切なパートナーとタッグを組んで事業を推進していくことが重要です。またそのパートナーは決して国内にいるとは限りません。スタートアップを含め世界中からポテンシャルのあるパートナー候補を発掘し、互いの世界観や事業性など多様な観点をスピーディーに見極めながら、提携関係を構築していくことが求められます。

❺ 内製化に備えた人材採用と適切な組織構築

短期的にはパートナーの力で事業化にこぎつけられたとしても、本質的に自社の事業を変革し得る可能性があるため、自社で必要なケイパビリティを具備していくことが求められます。これはDX(デジタル・トランスフォーメーション)を他社任せにできないのと同じ構造といえます。

例えば豊富なIPを有する出版社であれば、以下のような機能を最低限備えていくことが必要です。

① ユーザー分析:一次・二次流通市場におけるユーザーの購買行動の分析

  • 出版元の電子書籍以外のデータを超えたユーザーの購買行動をとらえることができるか
  • 自社コンテンツだけでなく、他社コンテンツやコンテンツ以外の消費行動や可処分時間についての行動をとらえているか

② プライシング:単品での収益化ではなく、シリーズや“一人”あたりの収益最大化

  • コアなファンがNFTで友人にレンタルすることで“布教”し、層を広げる
  • 複数の作品をバンドル販売
  • 初版とその他で価格設定を分けることで、単品での価格差も付ける高付加価値化
  • NFTで販売したユーザーには、追加で原画などが抽選で当たるなどの販促
  • 二次創作をプログラマブルな形式での展開
  • ジェネレーターのように特定のパーツを組み合わせて変更可能に
  • 譲渡回数に従ってエイジングする等で許可
  • 書籍毎に二次流通における“最低取引価格”、“譲渡権利”、“流通回数”などを設定

③ インセンティブ設計:ユーザーが価値を感じる/付加できる仕組みの構築

  • 初期ユーザーに対する還元(“推し”活動の評価も加味)
  • Twitter/TikTokなどのような認証機能への対応
  • ユーザー自身が追加で価値を付けられる仕組み(運営店舗での割引など)
  • NFTを題材としたゲームの制作と還元

前後編にわたりNFTを題材に今後日本企業のあるべき取り組み方について解説してきました。

DXとも類似していると先ほど述べましたが、NFTも同様に実行フェーズに入ると、過去の否定やカニバリゼーションへの懸念などから組織の抵抗が顕著になってきます。また社内には自分には関係ない、という評論家然とした態度の層も増えてくるはずです。こうした勢力につぶされて失敗するケースも多々存在してくると思われます。

こうした状況下では、最初の取り組みで周囲が納得する成功(あるいは“正しい失敗”)を収め、ステークホルダーの協力を得られる環境を作り上げられるかがその成否を握ります。

従って、第一弾となる施策の選定や携わるメンバーの人選、その成功の定義などについては十分に議論を尽くし、万全の状態を作り上げることが必要です。リサーチ目的なのかケイパビリティー向上なのかそれとも短期的な売上か、新事業の創造なのか、その位置付けを明確化したうえで、他社事例も踏まえて自社ならではの施策を、次世代リーダーやエース級の人材を投入して推進していくことが必要です。米国の先進企業では、トークンエコノミー設計のために第一線で活躍するエコノミストを招聘(しょうへい)するなど、大胆な動きも見られます。

NFT活用ステージ

  1. リサーチ担当を任命しているが、具体的な検討はしているか?
  2. 検討はしているが、実際には提案してくる事業者に丸投げになっていないか?
  3. 部門ごとにバラバラではあるが、具体的な施策に取り組めているか?
  4. 自社事業における機会と脅威をしっかりと見積もれているか?
  5. 適切な外部パートナーを自力で探し出せているか?
  6. 局所的取り組みではなく、顧客体験全体を変革し得る取り組みとして社内全体が横断的に推進できているか?

上記を踏まえ自社がどのステージにあるか、次のステージにいつ進めるのか、現状を冷静に見つめたうえで、必要であれば外部リソースも活用しながらスピーディーに推進することが求められています。

著者
針ヶ谷 武文 氏

針ヶ谷 武文

A.T. カーニー シニア パートナー
大手通信会社でインターネット関連の事業企画・サービス企画を経て、A.T. カーニーに入社。通信・メディア領域を中心に、15年を超えるコンサルティング経験を有する。
メディア・コンテンツ領域においては、新規事業戦略、海外戦略、成長戦略を中心に多数の実績を保有。

向山 勇一 氏

向山 勇一

A.T. カーニー パートナー
日本IBMを経て、A.T. カーニー入社。2017年~2019年は大手広告代理店の改革推進室長を兼務。
メディア・コンテンツ業界、不動産業界を中心に15年以上のコンサルティング経験を有する。

松岡 洋平 氏

松岡 洋平

A.T. カーニー アソシエイテッド スペシャリスト ディレクター
米系戦略ファーム、ライフネット生命立ち上げ、ディッキーズジャパン副社長、SmartNewsでのマーケティング、RIZAP GROUPでのグループ会社数社の取締役、LINE Payでの決済マーケティング/暗号資産プロジェクトなどを経てブロックチェーンスタートアップに所属。兼業としてデジタル庁にてマーケティングに従事。 

本稿に関するお問合せ先: A.T. カーニー(株) Japan.PR@kearney.com
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