提供:アトラエ
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労働力人口が減少する中で重要になるのが、一人ひとりの生産性を向上させることだ。こうした中で注目されているのが「ワーク・エンゲイジメント」である。日本経済団体連合会や政府も企業改革の柱の1つに挙げる。企業はそれをどう受け止めるべきか。ワーク・エンゲイジメント研究の第一人者である慶應義塾大学教授の島津明人氏と、People Tech Company(※1)として人材活用分野で独自のサービスを提供する株式会社アトラエの代表取締役CEOの新居佳英氏が対談した。
(※1) 単なる”HR領域”ではなく、”テクノロジーによって人の可能性を拡げる事業を創造していく”企業でありたいという想いから創った造語
――ワーク・エンゲイジメントの概念と、今注目されている理由について教えていただけますか。
働き手が減っている中でどう社会や経済を回していくのかを考えると、これまで以上に一人ひとりが主体的に働くこと、つまり労働の質をいかに上げていくかが問われるようになってきていることが背景にあります。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、半ば強制的ではありますが働き方も変わってきました。働き手には「働き方は、変えようと思えば変えられる」という意識が浸透しつつあります。この働き方改革と絡めて注目されているのが、一人ひとりが活き活きと働くことなのです。
――ワーク・エンゲイジメント調査を行う企業も増えていますが、従業員満足度調査とはどう違うのでしょうか。
大事なのは、それぞれの調査が何を目的としたものなのかを理解することです。従業員満足度は自分を取り巻く組織や環境を評価するもので、必ずしも仕事内容に特化したものではありません。
従業員満足度調査は、企業側から与えてもらっている職場や給与、福利厚生など働く環境に対して肯定的かどうかを調べるものではないでしょうか。極論を言えば、給与を上げて、きれいなオフィスビルに入り、社員食堂を充実させれば数値は上がります。ただし、従業員満足度が高い企業が必ずしも成長していたり、業績がよかったりするわけではありません。
それに対してエンゲージメントは、自分の仕事の意味付けや意義を理解して活き活きと自主的に取り組めている状態かどうかという、従業員と企業の双方向の関係性のスコアリングだと考えています。エンゲージメントが高いと生産性が高まり、クリエイティビティーが発揮しやすくなってパフォーマンスが上がっていく可能性が高まります。
――エンゲージメントを数値化することの意義はどんなところにあるのでしょうか。
エンゲージメント調査は企業にとっての人間ドックです。エンゲージメントを高めるには、課題を明らかにしたうえで改善していくというPDCAサイクルをきちんと回していくことが大事になります。今どんな状況で、何によってエンゲージメントが上下するのかを把握しないと改善につながりません。
現場は上層部を見ながら仕事をする傾向が強く、経営陣にはネガティブな情報が上がってこないのが現状です。経営陣が「やりがい」と思っていても、従業員はそう思っていないこともあります。
数値化することの意義は2つあると考えています。1つはきちんとベンチマークをとるということです。特定の個人と他者との間の相対的な比較や集合体である組織の平均的な水準との比較ができるようになります。
もう1つは定点観測です。同じ人であってもエンゲージメントは状況によって変動します。仕事が立て込んでいたりトラブルに直面していたりいると、一時的に数値が下がったりするものです。だからこそ定期的に調査する必要があるのです。
企業はベンチマークの結果に基づいてアクションを起こしますが、大事なのはそのアクションがどれくらい効果があったのかを検証することです。そのためにも定量化されたデータが必要です。心理学では「行動随伴性」と言いますが、アクションをとった後にどんな結果がもたらされたのかを検証して次の対策へとつなげていくことが重要です。
――エンゲージメント解析ツールである「Wevox(ウィボックス)」を開発した背景について教えてください。
People Tech Companyとして、Green(※2)という採用サービスを提供する中で、採用した人材を定着させるためには組織としてのやりがいを可視化する必要があると考えていました。いろいろと調べていくうちに、オランダのユトレヒト大学のシャウフェリ教授が提唱したワーク・エンゲイジメント理論に出会いました。その理論を日本で第一人者として研究されているのが島津先生であることを知り、当社のWevoxを監修していただきました。
大事なのは仕事に向き合うときの熱量がどれくらいあるのかという点です。熱量と合わせて考えていくというのがエンゲージメントの特徴です。当たり前のことですが、従業員が活き活きと働いている企業は元気な企業です。
(※2) IT業界の転職に強い求人サイト”Green(グリーン)”/ https://www.green-japan.com/
――従業員がパフォーマンスを発揮できていると考えていいわけですね。
パフォーマンスには2種類あります。与えられた職務行動をきちんと遂行する「インロールパフォーマンス」と、自発的にアイデアを出したり利他的に行動したりする「エクストラパフォーマンス」です。
与えられた仕事を右から左に流すだけでなく、自分で仕事を生み出し、創意工夫して新しい価値をもたらすことが大事になっているからこそ、エンゲージメントが注目されていると考えることもできます。
将来の変化が予測できない”VUCA”の時代であることも大きな要因です。従業員一人ひとりの「自主的に貢献しよう」という意欲が変化への対応力を生み出し、それが成長の原動力になります。
――Wevoxによってどのような成果が生まれているのでしょうか。
Wevoxは、チームや組織を強化したいと考える1900社を超える企業で利用され、すでに4900万件を超える大量のデータが蓄積されています。ビッグデータを分析することで、自社が他社とどう違うのか、自社ではどんなファクターが効果的かなど、様々な洞察を得られることが大きな強みです。
SMBC様やKDDI様など大手企業にも導入していただいております。また、宮城県大崎市様では「人財育成アクションプラン」を作成するとともにWevoxのスコアを利用して職場改善の施策につなげ、クリエイターエージェンシーのコルク様では、コミュニケーション量を増やして組織を活性化するツールとしてWevoxを導入してチーム力の強化を図っています。
エンゲージメントを高めるファクターは企業によって異なります。だからこそ、今の状態を正しく知ることが1丁目1番地なのです。そのためツールとしてWevoxは有効です。
ただし、サーベイを実施して終わりでは意味がありません。どんなことでエンゲージメントが変化するのかを見極め、次の具体的なアクションにつなげていくという仮説検証を続けることが、従業員が活き活きと働くことにつながります。
昨年、慶應義塾大学で立ち上げた「仕事とウェルビーイングコンソーシアム」の狙いも同じです。ワーク・エンゲイジメントも含めて、社会全体で幸せになるための共同作業をするためのプラットフォームとして位置付け、みんなが活き活きと働けるようにそれぞれの強みを持ち寄って活動しています。
活き活きと幸せになるために、経済活動はとても大事な活動です。働くことを通して「生きがい」や「やりがい」を実感することができるからです。島津先生のお知恵を借りながらみんなが幸せになれるように、プロダクトの提供を通して貢献していきます。