機械式時計の文化を次世代につなぐ
名門メゾンのユニークな挑戦とは
オーデマ ピゲが東京・原宿に
「AP LAB Tokyo」をオープン
スイスの名門時計ブランド、オーデマ ピゲが東京・原宿に「AP LAB Tokyo」をオープンした。時計を売るブティックではなく、ブランド初となる“エデュテインメント”施設だ。ゲームや時計づくりの体験を楽しみながら、時計師に不可欠な要素を学び、機械式時計に対する造詣を深めることができる。この体験型施設の概要を紹介しながら、こうしたユニークなスポットを誕生させたオーデマ ピゲの狙いに迫ってみたい。
INDEX
スイスのジュウ渓谷、ル・ブラッシュの町にて1875年に創業したオーデマ ピゲ。老舗と呼ばれる高級時計ブランドの中でも極めつけに長い歴史を持つ。しかも、それを創業者一族による独立経営で守ってきた、他に例を見ない別格のブランドだ。
世界初の自動巻きトゥールビヨンを開発するなど高度な技術力で知られる一方、「ロイヤル オーク」では“ラグジュアリースポーツウオッチ”という新しいジャンルを開拓するなど、デザインでも時計界をけん引し続けている。
まさに名門中の名門と呼ぶにふさわしい歴史と功績を備えたブランドだが、圧倒的な人気にあぐらをかくこともない。時計界を代表するマニュファクチュールとして絶えず進化を続けているのが素晴らしい。
世界的なパンデミックの渦中に次々と新しい施設を完成させたのも、そうした攻めの姿勢の表れだ。
オーデマ ピゲは、本社のあるル・ブラッシュのほか、ル・ロックルにも時計の複雑機構の開発・製造に特化した工房を備えていたが、2021年、それが新たにル・ロックル郊外に建設された「マニュファクチュール・デ・セニョル」(写真下上①~④)として生まれ変わった。
生産能力を高めることを目的とした施設だが、特筆すべきは周辺の自然環境と、そこで働く人々への配慮が徹底的になされているということ。機械式時計づくりの伝統を持続可能なものにしようとする強い意志が見て取れる。
ちなみに現在は、本社のあるル・ブラッシュにおいても新工房「アルク」(2025年完成予定:写真上⑤)の建設が進む。こちらでも同様の持続可能な発展へのアプローチがなされているという。
22年にはメゾン所有のホテル「オテル デ オルロジェ」(写真下上⑥~⑨)もグランドオープンさせた。もともとオーデマ ピゲは、本社隣に建つ1857年創業の「オテル ド フランス」を03年に買収し、05年よりビジターを迎えるホテルとして活用していたが、老朽化が進んだため、18年から建て替えに着手。周囲の景観に溶け込むモダンな建築の4つ星ホテルとして完成した。
なお、ホテルの数歩先には20年に完成した予約制ミュージアム「ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲ」(写真下⑩~⑬)もある。ホテルとリンクしたガイド付き見学ツアーにより、メゾンとジュウ渓谷の時計製造の歴史を学ぶこともできる。
インテリアや料理でもジュウ渓谷の自然を満喫できるこのホテルは、世界と地域の時計ビジネスをつなぐ場所として、また、自然と建築を愛する人々のオアシスとして早くも世界中から注目されている。今後も地場産業である時計製造の発展に大きく寄与していくはずだ。
このようにオーデマ ピゲは、時計界をけん引するものの責務として機械式時計の文化を次世代につなぐ様々な試みに果敢に挑戦し続けている。こうした姿勢も、このブランドが作る時計に深遠な魅力を与えている。
大人の趣味として、ステータスアイテムとして、そして価値の薄れない資産として高級時計の市場が活況を呈している。名門ブランドの人気モデルは軒並み入手困難な状況となっている。
オーデマ ピゲは特にそれが顕著。時計製造のすべての工程を自社で行うマニュファクチュールゆえに、もともと生産本数が少ない。「ロイヤル オーク」(写真下中)や「ロイヤル オーク オフショア」(写真下左)、「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」(写真下右)などの人気コレクションに至っては、その多くが入荷待ちの状態となっている。
今年30周年を迎えた
ロイヤル オーク オフショア
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元祖ラグスポウォッチ
ロイヤル オーク
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性格はクラシック、デザインは革新的
CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ
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ブランドにとっては売りたくても売るものがないという悩ましい状況だが、だからといって手をこまねいているわけではない。今までに例を見ないエデュテインメント施設「AP LAB Tokyo」をオープンさせ、ブランドの価値をさらに高めようとしている。
場所は、世界中の高級ブランドの路面店が軒を連ねる東京・原宿の表参道から少し入ったあたり。近くにキャットストリートと呼ばれる遊歩道があり、おしゃれなブティックやカフェを目当てに高感度な若者たちでにぎわうエリアだ。
そのなかでAP LAB Tokyoのモダンな外観はひときわ目を引く。特徴的なブロンズメッシュの外壁は、スイス ル・ブラッシュの本社にある「ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲ」のガラスパビリオン周囲に設置されているものと同様だという。
外壁の「AUDEMARS PIGUET」のロゴを見ると、新たオーデマ ピゲのブティックと勘違いする人もいそうだが、実はここでは時計などの物販は行わない。代わりにゲームや時計づくりの体験などを通じて、ブランドや機械式時計への理解を深めてもらうという施設だ。以下ではAP LAB Tokyoで実際にどのような体験ができるのかをリポートしていこう。
AP LAB Tokyoのガラス張りのドアを開けると、そこはラボの名にふさわしい白を基調としたクリーンな空間。採光に配慮された設計のため、とても明るい雰囲気に満ちている。名門時計メゾンの新たな施設ということで少し臆する人もいるかもしれないが、これなら誰もが気軽に入店できる。
1階はゲームスペース。ここでゲストはスタッフの案内のもと、「時間」「素材」「機構」「音」「天体」というテーマごとに分けられた5つのゲームに挑戦する。
砂時計を使って現実の時間と自分の時間感覚とのズレを確認したり(ATELIER1:TIME)、機械式時計の輪列構造を再現した模型を組み立てたり(ATELIER3:ENERGY)と、知的好奇心を刺激するゲームがそろい、あっという間に時間が過ぎていく。
そんな1階のなかでも、とくに目を引くのが「天体」のコーナー(ATELIER5:ASTORONOMY)だ。月の満ち欠け(月相)が描かれた壁の前には、縁(ふち)に1年のカレンダーを示した円卓があり、その上に太陽と地球、月の並びを示した大きな天体模型がディスプレーされている。円卓のハンドルを回すと、地球の公転と自転、月の公転などを正確に再現しながら盤上を巡るという精巧な構造だ。
このゲームは、スタッフが示した、壁にある月相となる位置に、この模型を動かすというもの。「上弦の月だから、地球と月はこんな位置になるはず…」などと、子供の頃の理科の授業を思い出しながら、あれこれ思案して精巧な天体模型を動かすというのはなかなか楽しい体験だった。
オーデマ ピゲは複雑機構の大家。ムーンフェイズ搭載のパーペチュアルカレンダーのように、天体の運行を封じ込めたコンプリケーションウオッチも昔から得意とする。ゲストはゲームを行いながら、そんな高度で深遠なウオッチメイキングの世界を改めて知ることになる。
そのほか「素材」のコーナー(ATELIER2:MATERIALS)ではメゾンの多彩な素材使いと巧みな加工技術について、「音」のコーナー(ATELIER4:CHIMING)ではミニッツリピーターが2つのゴングを使って、どのように音で時刻を知らせているかを学ぶことができる(各コーナーについては下記のスライドで紹介しています)。
この1階のゲームは30分ワンセット。機械式時計やオーデマ ピゲというブランドについて理解を深めたい人には絶好の入り口となるだろう。
AP LAB Tokyo1階の5つのゲームをすべてクリアしたゲストには、次のステージ「マスタークラス」が待っている。本社工房の設備を模した2階スペースで行われる時計づくり体験がそれだ。ここではサテン仕上げやポリッシング、ペルラージュ仕上げなどの洗練を極めた装飾技法をはじめ、高級時計製造に用いられる数々の技術に挑戦できる。
取材時にはロイヤル オークの特徴である八角形ベゼルに“フロステッド”と呼ばれる加工を施す作業に挑戦できた。専用工具を当てていくと、ベゼルの表面がみるみるダイヤモンドダストのようなきらめきを帯びていくのが面白い。
通常、この加工は、ホワイトゴールドやピンクゴールドの素材でのみ行うものだが、ここでは真鍮(ちゅう)製のベゼルを使用。自分で加工を施したこのベゼルは持ち帰ることができるため、来訪のいい記念になるだろう。
続いてロイヤル オークのケースの組み立てにも挑戦。ベゼル、ケース、パッキン、裏蓋を8本の小さなスクリューで合体させるのだが、ベゼル側のスクリューの向きをきれいにそろえなければならず、かなりの集中力が求められる。
ケースを組み立てた後には、ムーブメントが入っていないにもかかわらず、なかなかの達成感が得られた。
これらをマスターし、さらに高度な作業がしたい人向けには、再予約をすることで文字盤の針止め作業やカレンダー機構の組み立て工程なども体験できるそうだ。すべての工程が終わった時には、すっかり時計師気分を味わえる。作業中、オーデマ ピゲの技術者たちと同じ作業着を着用しているのも気分を盛り上げてくれる。
AP LAB Tokyoはもちろん入場無料。1階のゲームも2階のマスタークラスも体験料は一切かからない。予約優先で基本的に1枠5名まで受け入れるシステムのため、じっくりと体験することができる。原宿という立地を考えれば、なんともぜいたくだ。
高級時計市場が好調な一方、若者の時計離れは深刻。この新施設も機械式時計文化を次世代に継承するためのオーデマ ピゲらしいチャレンジなのだろう。すでにこのブランドの時計を所有している人や、将来手に入れたいと考えている人には最高に刺激的な体験ができるスポットと言えるだろう。大切な人と原宿界隈を散策する予定があるのなら、ここもぜひスケジュールに組み入れるべきだ。
AP LAB Tokyo
・ 所在地 :東京都渋谷区神宮前5-10-9
・ 電話番号:03-6633-7000
・ 営業時間:11:00〜19:00
・ 定休日 :毎週火曜日
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●メンズ(写真右)
ジャケット(参考商品)/カナーリ、カットソー33,000円、パンツ85,800円/ともにムーレー、靴75,900円/ボードイン&ランジ(問)コロネット TEL 03-5216-6521、シャツ41,800円/イーストハーバーサープラス(問)エスディーアイ TEL 03-6721-1070
●レディース(写真左)
ジャケット86,900円/ロゥタス(問)ロゥタスカスタマーサービス TEL 03-6231-0897、ワンピース53,900円/スコッチ&ソーダ(問)コロネット TEL 03-5216-6518、カバン132,000円/ソメスサドル(問)ソメスサドル青山店 TEL 03-5464-2555、ネックレス187,000円、リング39,600円/ともにマリハ(問)マリハ TEL 03-6459-2572
価格は全て税込みです
1972年に生まれた元祖ラグジュアリースポーツウオッチ「ロイヤル オーク」。「ロイヤル オーク オフショア」は、それをよりパワフルな性能と外観にアレンジしたコレクションとして93年にデビューした。その誕生30周年を記念して、オーデマ ピゲ ブティック 銀座にて『ロイヤル オーク オフショア 30年の歩み』と題した特別展示イベントが開催されている。
会場には個人所有の希少なモデルの数々が陳列され、これらを通して“ビースト”と呼ばれたオフショアの歴史を振り返ることができる趣向だ。時計ファンならずとも、ギャラリーを訪れるような感覚で気軽に足を運んでみてはいかがだろう。
開催概要
『ロイヤル オーク オフショア 30年の歩み』
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INDEX
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バックナンバーOct.2023
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CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲに
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