新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のまん延が長期化する中、感染症にも対応した企業のBCP(事業継続計画)が求められている。2022年5月30日に開催された日経・FT感染症会議 感染症対策オンラインセミナー「コロナ禍で、BCPは機能したか?~感染症にも対応するBCPとするために~」では、ミネルヴァベリタス顧問・本田茂樹氏が「感染症対応BCP策定のポイント」、健康経営研究会理事長・岡田邦夫氏が「BCPと健康経営」、東京医科大学特任教授・濱田篤郎氏が「BCPに役立つ感染症情報」、東京都福祉保健局・カエベタ亜矢氏が「企業向けの感染症対応力向上プロジェクト」について講演を行い、感染症対応BCP策定の重要性を伝えた。
2022年4月に日本経済新聞社が行ったBCPに関するアンケート調査では、BCP未策定の企業は、人手や時間が足りないことを理由に挙げています。BCPの全体像を把握し、身近なところから見直していく「着眼大局・着手小局」を念頭に、まずは始めていただきたい。重要なポイントは、「経営資源を『守る』、そして『代替する』」ということです。「守る」と「代替する」は車の両輪であり、どちらかに偏ると残念なBCPになってしまいます。
感染症に対応するBCPにおいて、守るべき経営資源は「従業員」です。まずは、従業員を感染症から守る。そのために、マスクの着用や換気といった基本的な感染対策に加え、体調の悪い従業員は、繁忙期であっても出社させないなど、職場における感染者の連鎖を断つことも重要です。それでも感染者が出てしまった場合は、「代替要員で事業を継続」します。このとき重要なのが、「代替要員数を減らさない・増やす」ということです。
「減らさない」ためには、たとえば「スプリット・チーム制」の導入が考えられます。これは、同じ業務ができる人員を、時間帯や場所で分けて配置し、感染する機会を共有しないようにする方法です。
「増やす」ためには、1人の従業員が複数の重要業務を実施できるようにしておく「クロストレーニング」という方法があります。業務を見える化、マニュアル化することで、欠勤者が出ても、別の従業員がカバーできるようになります。
こういった、個人の努力だけでは対応できない対策を、組織として検討していただくことが重要になってくると思います。
急速に高齢化が進んでいる我が国で、感染症対策は健康経営において極めて重要な課題です。COVID-19の重症化リスクとして、加齢と生活習慣病が挙げられますが、定年年齢の引き上げに伴う従業員の高齢化は、感染による企業のリスクが増すことを意味します。また、生活習慣病対策を怠ることも、企業にとってリスクと化します。つまり、感染症対策だけを講じていても、重症化後に対しては対応できないということです。そこで、「職場環境対策」「健康管理対策」「健康教育」の3つが重要となります。
職場環境対策として、COVID-19の流行で多くの企業がオンライン会議やテレワークなど、新しい働き方を実践してきました。しかし、急激な環境変化に順応できないことから、精神的不調をきたす適応障害等のメンタルヘルス不調が現れるケースも増加しています。また、精神的不調で免疫力が低下し、感染症に罹患(りかん)しやすくなるという悪循環も生じます。新しい働き方には周到な準備が必要であり、企業は普段から対策を練っておくことが重要なのです。
健康管理対策については、従来の定期健康診断に加えて、予防接種履歴のチェックや予防接種費用の援助、職域での予防接種の実施など、対策の充実が求められます。そして、健康教育によるヘルスリテラシーの向上も必要です。経営トップの強い方針のもと、しっかりとした知識や正しい感染防御法などを従業員に周知徹底することは、企業のサステナビリティを高めることにもつながると思います。
最後に、私どもが経済産業省に提出した政策提言を紹介します。健康経営の本質は「人という資源を資本化し、企業が成長することで、社会の発展に寄与すること」であり、そのために、これから経営者は倫理観に基づく経営を進めていかなければなりません。それが企業の成長を促し、社会の発展につながる。さらに、社会の発展によって企業が成長していく。どのような社会の変化があっても、きちんとその経営が持続できる企業を作っていくことが非常に重要だと思います。
企業は感染症対策において、本日の主題である「事業継続」だけでなく、「法令遵守」「安全配慮」「社会的責任」の4点について考慮しなければなりません。
COVID-19が企業経営に及ぼした影響について、2020年1月中旬に私どもが行った調査によると、およそ半数の事業所で感染者が発生していました。また、休業や時短営業を行った事業所は約4分の1にのぼり、かなりの企業に影響があったことがわかります。こういった状況に応じて、企業は先の4点を考慮したCOVID-19対策を取ってきました。
COVID-19以外の感染症にも同様の視点での対策が必要です。たとえば、今年の冬は季節性インフルエンザの流行も予測されており、COVID-19とダブルで流行すると、事業継続に影響する恐れがあります。
風疹については、妊娠中の女性が罹患すると、先天異常を持つ先天性風疹症候群のお子さんが生まれる可能性がありますから、企業の社会的責任として、風疹予防対策が求められます。
海外勤務者に関しては、旅行者下痢症やデング熱、狂犬病といったリスクに対し、事業継続、そして従業員の安全配慮義務の観点からも、予防教育やワクチン接種といった対策が非常に大事になります。
また、外国籍労働者から国内へ、結核やデング熱、腸チフスなどの感染症が持ち込まれる危険性もあります。来日する労働者への安全配慮、また国内で感染を広めないという社会的責任から、外国籍労働者の感染症対策も非常に重要です。インフルエンザや風疹、そして破傷風など、ワクチンによって防げる感染症は、企業がワクチン接種を推奨していくことも大切です。
各企業には、先の4点を考慮した感染症対策として、感染症情報の収集提供、従業員の予防教育、ワクチン接種、早期発見・早期治療、そしてBCPの作成を実践していただきたいと考えています。
東京都では、東京商工会議所、東京都医師会と連携して、職場での感染症予防、まん延防止を図るため「職場で始める!感染症対応力向上プロジェクト」を展開しています。
プロジェクトは、従業員に感染予防に必要な知識を習得していただく「感染症理解のための従業者研修」、職場での感染症発生時に業務を円滑に継続するための「感染症BCPの作成」、そして、従業員の風疹抗体価が低い場合に予防接種などを促していただく「風しん予防対策の推進」の3つのコースで設計されていて、職場の実情に応じて選択できます。
参加申し込みをいただいた事業者は「協力企業」として、コースの達成基準を満たした事業者は「達成企業」として、ご希望に応じて東京都のホームページに企業名を掲載し、取り組みをPRさせていただきます。
今後は企業に対する普及啓発を継続し、新型コロナウイルス感染症対策など、時勢に即した企業ニーズに応じられるコース内容や、より参加しやすいコース設定を検討してまいります。