01 感染症対応BCPは従業員を
「守る」「代替する」が重要

本田 茂樹氏
本田 茂樹
ミネルヴァベリタス株式会社 顧問/
信州大学 特任教授
三井住友海上火災保険株式会社、MS&ADインターリスク総研株式会社での勤務を経て現職。企業を対象としてリスクマネジメントに関するコンサルティングや執筆活動を続ける一方、全国で講演も行っている。近著に『待ったなし!BCP[事業継続計画]策定と見直しの実務必携』(経団連出版、2021年)がある。

2022年4月に日本経済新聞社が行ったBCPに関するアンケート調査では、BCP未策定の企業は、人手や時間が足りないことを理由に挙げています。BCPの全体像を把握し、身近なところから見直していく「着眼大局・着手小局」を念頭に、まずは始めていただきたい。重要なポイントは、「経営資源を『守る』、そして『代替する』」ということです。「守る」と「代替する」は車の両輪であり、どちらかに偏ると残念なBCPになってしまいます。

感染症に対応するBCPにおいて、守るべき経営資源は「従業員」です。まずは、従業員を感染症から守る。そのために、マスクの着用や換気といった基本的な感染対策に加え、体調の悪い従業員は、繁忙期であっても出社させないなど、職場における感染者の連鎖を断つことも重要です。それでも感染者が出てしまった場合は、「代替要員で事業を継続」します。このとき重要なのが、「代替要員数を減らさない・増やす」ということです。

「減らさない」ためには、たとえば「スプリット・チーム制」の導入が考えられます。これは、同じ業務ができる人員を、時間帯や場所で分けて配置し、感染する機会を共有しないようにする方法です。

「増やす」ためには、1人の従業員が複数の重要業務を実施できるようにしておく「クロストレーニング」という方法があります。業務を見える化、マニュアル化することで、欠勤者が出ても、別の従業員がカバーできるようになります。

こういった、個人の努力だけでは対応できない対策を、組織として検討していただくことが重要になってくると思います。

図版1 ※本セミナーのスライドから作成
感染症対応BCPは、「重要な事業を中断させない、中断しても可能な限り短時間で復旧させる」ということを実現するために、「経営資源を守る」「足りない場合は代替する」という二段構えで策定することが重要となる

02 感染症対策を超えた“対策”で
リスクを低減する

岡田 邦夫氏
岡田 邦夫
特定非営利活動法人 健康経営研究会
理事長
現在、経済産業省健康・医療新産業協議会健康投資WG委員、健康長寿産業連合会理事、大阪府医師会健康スポーツ医学委員会委員長、大阪商工会議所メンタルヘルス・マネジメント検定委員会副委員長、女子栄養大学大学院客員教授等を務める。この他、2010年 厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策検討会」委員、12年 文部科学省「教職員のメンタルヘルス対策検討会」委員、14年 厚生労働省「ストレスチェック制度に関わる情報管理及び不利益取扱い等関する検討会」委員、スポーツ庁「スポーツエールカンパニー認定委員会」委員等、幅広く委員を歴任。

急速に高齢化が進んでいる我が国で、感染症対策は健康経営において極めて重要な課題です。COVID-19の重症化リスクとして、加齢と生活習慣病が挙げられますが、定年年齢の引き上げに伴う従業員の高齢化は、感染による企業のリスクが増すことを意味します。また、生活習慣病対策を怠ることも、企業にとってリスクと化します。つまり、感染症対策だけを講じていても、重症化後に対しては対応できないということです。そこで、「職場環境対策」「健康管理対策」「健康教育」の3つが重要となります。

職場環境対策として、COVID-19の流行で多くの企業がオンライン会議やテレワークなど、新しい働き方を実践してきました。しかし、急激な環境変化に順応できないことから、精神的不調をきたす適応障害等のメンタルヘルス不調が現れるケースも増加しています。また、精神的不調で免疫力が低下し、感染症に罹患(りかん)しやすくなるという悪循環も生じます。新しい働き方には周到な準備が必要であり、企業は普段から対策を練っておくことが重要なのです。

健康管理対策については、従来の定期健康診断に加えて、予防接種履歴のチェックや予防接種費用の援助、職域での予防接種の実施など、対策の充実が求められます。そして、健康教育によるヘルスリテラシーの向上も必要です。経営トップの強い方針のもと、しっかりとした知識や正しい感染防御法などを従業員に周知徹底することは、企業のサステナビリティを高めることにもつながると思います。

最後に、私どもが経済産業省に提出した政策提言を紹介します。健康経営の本質は「人という資源を資本化し、企業が成長することで、社会の発展に寄与すること」であり、そのために、これから経営者は倫理観に基づく経営を進めていかなければなりません。それが企業の成長を促し、社会の発展につながる。さらに、社会の発展によって企業が成長していく。どのような社会の変化があっても、きちんとその経営が持続できる企業を作っていくことが非常に重要だと思います。

図版2 ※本セミナーのスライドから作成
経営者の倫理観に基づく経営戦略により、従業員が心身ともに健康で元気に働くことができる。その結果、労働生産性が向上し、働きがい、生きがいのある職場となり、企業の成長促進、社会の発展へとつながっていく

03 法令遵守、安全配慮、社会的責任も考慮し
感染症対策を

濱田 篤郎氏
濱田 篤郎
東京医科大学 渡航者医療センター
特任教授
1981年に東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学に留学し熱帯感染症、渡航医学を修得する。帰国後に東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て、2004年から海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月から東京医科大学教授に着任し、海外渡航者の診療にあたるとともに、政府や東京都のCOVID-19、デング熱などの感染症対策に参画する。21年4月から現職。

企業は感染症対策において、本日の主題である「事業継続」だけでなく、「法令遵守」「安全配慮」「社会的責任」の4点について考慮しなければなりません。

COVID-19が企業経営に及ぼした影響について、2020年1月中旬に私どもが行った調査によると、およそ半数の事業所で感染者が発生していました。また、休業や時短営業を行った事業所は約4分の1にのぼり、かなりの企業に影響があったことがわかります。こういった状況に応じて、企業は先の4点を考慮したCOVID-19対策を取ってきました。

COVID-19以外の感染症にも同様の視点での対策が必要です。たとえば、今年の冬は季節性インフルエンザの流行も予測されており、COVID-19とダブルで流行すると、事業継続に影響する恐れがあります。

風疹については、妊娠中の女性が罹患すると、先天異常を持つ先天性風疹症候群のお子さんが生まれる可能性がありますから、企業の社会的責任として、風疹予防対策が求められます。

海外勤務者に関しては、旅行者下痢症やデング熱、狂犬病といったリスクに対し、事業継続、そして従業員の安全配慮義務の観点からも、予防教育やワクチン接種といった対策が非常に大事になります。

また、外国籍労働者から国内へ、結核やデング熱、腸チフスなどの感染症が持ち込まれる危険性もあります。来日する労働者への安全配慮、また国内で感染を広めないという社会的責任から、外国籍労働者の感染症対策も非常に重要です。インフルエンザや風疹、そして破傷風など、ワクチンによって防げる感染症は、企業がワクチン接種を推奨していくことも大切です。

各企業には、先の4点を考慮した感染症対策として、感染症情報の収集提供、従業員の予防教育、ワクチン接種、早期発見・早期治療、そしてBCPの作成を実践していただきたいと考えています。

図版3 ※本セミナーのスライドから作成
厚生労働省・労災疾病臨床研究事業
「職域における総合的感染症予防対策に資するガイドラインの作成、体制整備、ツールの開発に関する研究」(代表:東海大学医学部 立道昌幸)
対象:ネット調査会社のモニターで、東京都、神奈川県、大阪府、福岡県に職場のある者(人事労務担当者)
調査日:2022年1月14日~18日
回答者数:2000人
COVID-19の感染者が出た事業所が半数以上、時短営業や休業を行った事業所が4分の1以上と、COVID-19が企業経営に大きく影響したことが示され、企業の感染症対策が必須であることがわかる

04 3つのコースから選べる
感染症対応力向上プロジェクト

カエベタ 亜矢氏
カエベタ 亜矢
東京都 福祉保健局 感染症対策部
防疫・情報管理課長
1997年千葉大学医学部卒、2000年まで東京大学医学部附属病院小児科や東京都青梅市立総合病院で臨床業務に従事、00年~14年までザンビアにてJICAや結核予防会結核対策事業等の国際保健事業に従事、14年~東京都の公衆衛生医師として新宿区保健所等での勤務を経て現職。

東京都では、東京商工会議所、東京都医師会と連携して、職場での感染症予防、まん延防止を図るため「職場で始める!感染症対応力向上プロジェクト」を展開しています。

プロジェクトは、従業員に感染予防に必要な知識を習得していただく「感染症理解のための従業者研修」、職場での感染症発生時に業務を円滑に継続するための「感染症BCPの作成」、そして、従業員の風疹抗体価が低い場合に予防接種などを促していただく「風しん予防対策の推進」の3つのコースで設計されていて、職場の実情に応じて選択できます。

参加申し込みをいただいた事業者は「協力企業」として、コースの達成基準を満たした事業者は「達成企業」として、ご希望に応じて東京都のホームページに企業名を掲載し、取り組みをPRさせていただきます。

今後は企業に対する普及啓発を継続し、新型コロナウイルス感染症対策など、時勢に即した企業ニーズに応じられるコース内容や、より参加しやすいコース設定を検討してまいります。

図版4 ※本セミナーのスライドから作成
「職場で始める!感染症対応力向上プロジェクト」は、東京商工会議所、東京都医師会、東京都の3者が連携し、それぞれの強みを生かして企業の感染症対策をサポートしていることが特徴の1つとなっている
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