提供:一般財団法人阪大微生物病研究会
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Nikkei FT Communicable Diseases Conference
日経・FT感染症会議 感染症対策オンラインセミナー

経済活動感染症対策の両立へ、
コロナ禍経験を活かしたBCP

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が2年半以上に及び、感染症対策は経済活動と両立させる時期にきている。2022年8月4日に開催された日経・FT感染症会議 感染症対策オンラインセミナー「経済活動と感染症対策の両立に向けて~コロナ禍の経験を活かした、これからのBCPの役割~」では、ミネルヴァベリタス顧問・本田茂樹氏が「今、求められる感染症時代のBCP」、健康経営研究会理事長・岡田邦夫氏が「BCPで求められるヘルスリテラシーの向上と健康経営」、株式会社シマノ産業医・菅秀太郎氏が「企業における感染症対策で有効なリスクコミュニケーション」、大阪府商工労働部・上杉依子氏が「大阪府「超簡易版BCP『これだけは!』シート」の紹介」をテーマに講演を行い、感染症対応BCP策定のポイントと重要性を伝えた。

従業員を「守る」「代替する」が感染症対応BCPの両輪

 感染症対応BCPの重要性は広く認識されていますが、いまだ未策定の企業も少なくありません。日本経済新聞社が今春行ったアンケートによると、人材や時間の不足、「何から手を付けて良いか分からない」というのが、未策定の主な理由です。

 そこで、「着眼大局、着手小局」というご提案をします。本セミナーや、国や地方自治体によるガイドライン、雛形を参考に、まずは全体像をつかむ。その上で、連絡網を作る、また備蓄を確認するなど、できるところから手をつけてみる。その後、少しずつ改善していってはいかがでしょうか。

 感染症対応BCPの目的は、感染症によって「重要な事業を中断させない」、万一中断してしまった場合でも「可能な限り短時間で復旧させる」ということです。そのために、経営資源である従業員を「守る」、そして「代替する」の二段構えで考えることがポイントになります。

 「守る」は、感染疑い事例や感染者を減らし、職場での感染者の連鎖を断つべく感染予防対策を的確に講じ続けることです。

 「代替する」は、「代替要員を減らさない・増やす」という2つの側面があります。たとえば、意思決定を行うなど代替要員が限られる従業員は、早番と遅番、本社とテレワークのように勤務する時間や場所を分けるなどで感染を防ぎ、代替要員を減らさないよう努める。また、従業員が複数の重要業務を実施できるよう、業務の見える化やマニュアル化、それに基づいた教育・訓練の実施などに、組織として取り組むことが大変重要です。

 平常時からBCPを構築して的確に運用するとともに、感染症に関する従業員教育を継続することで、危機を乗り切っていきましょう。

本田氏
本田 茂樹
ミネルヴァベリタス株式会社 顧問/
信州大学 特任教授
現・三井住友海上火災保険、MS&ADインターリスク総研を経て、現在に至る。リスクマネジメントや危機管理に関するコンサルティング、執筆活動を続ける一方、全国での講演活動も行う。著書に『待ったなし!BCP[事業継続計画]策定と見直しの実務必携』(経団連出版)など。

感染症対応BCP策定のポイント

感染症対応BCP策定のポイント
※本セミナーのスライドから作成
感染症対応BCPを策定するにあたり、経営資源である従業員を「守る」対策と「代替する」対策は車の両輪。どちらかに偏ってしまうとせっかく作ったBCPも残念なものになってしまう

健康問題は企業のリスク、その解決はBCPに通ずる

 BCPの主役は人です。社会の大きな変化にどのように対応し、事業継続していくかを考えるとき、人が主役である限り、そのベースである「人の健康」をきちんと構築していくということが、企業に求められる極めて大事なポイントとなると思います。つまり、健康経営は企業の未来への投資なのです。

 残念なことに、我が国のヘルスリテラシーは、OECD(経済協力開発機構)各国と比較して極めて低い状況にあります。これでは、今後万が一パンデミック(世界的大流行)など、未曽有の事態が日本で起こったときに正しく対応できるのか、非常に大きな疑問となるわけです。今回のCOVID-19においても、「自分で感染を防御していくという知識がきちんと身についている」もしくは「予防接種をきちんと受ける」といったようなアクションを起こすことが、求められているのではないかと思います。

 また、極めて急速に進む高齢化社会において、ヘルスリテラシーは企業の事業継続にもかかわってきます。65歳定年が法令化され、70歳が努力義務となっている中、健康問題は企業の極めて重大なリスクであり、これをいかにして解決していくのか、そしてその延長線上にBCPがあるということを、ぜひ知っていただきたいと思います。

 さらに、対策としての快適な職場環境づくりや予防接種、テレワーク導入やそのためのDX化推進などについては、経営者自らが関心を持ち、強い指導力を持って職場全体に普及啓発していくということが、非常に重要ではないでしょうか。

 企業発の健康づくりが、結果として従業員のみならず企業のBCPに役立ち、それが社会の発展にも寄与します。ぜひ多くの経営者に、健康経営そして感染症対策に力を入れていただけたらと思います。

岡田氏
岡田 邦夫
特定非営利活動法人 健康経営研究会
理事長
現在、経済産業省健康・医療新産業協議会健康投資WG委員、健康長寿産業連合会理事、大阪府医師会健康スポーツ医学委員会委員長、大阪商工会議所メンタルヘルスマネジメント検定委員会副委員長、女子栄養大学大学院、客員教授等を務める。この他、2010年 厚生労働省「職場のメンタルヘルス対策検討委員会」委員、12年 文部科学省「教職員のメンタルヘルス対策検討会」委員、14年 厚生労働省「ストレスチェック制度に関わる情報管理及び不利益取り扱いに関する検討会」委員、スポーツ庁「スポーツエールカンパニー認定委員会」委員等、幅広く委員を歴任。

働き方の変容=感染症対策

働き方の変容=感染症対策
※本セミナーのスライドから作成
COVID-19の流行により、感染症対策の一環として在宅勤務などテレワーク化が急速に進んだ。テレワークを可能にするには、企業がデジタル化を進めることが重要であり、DX化推進が事業継続につながることになる

企業の感染症対策に有効なリスクコミュニケーション

 企業において感染対策を正しく伝える際、重要なのが「リスクコミュニケーションの6つの原則」です。1つ1つ産業保健活動に落とし込み、弊社の初期のCOVID-19対策事例を交えて紹介します。

 1つ目は「速やかに共有する」。「誰が」伝えるかということも重要です。感染症に関する知識や見通しは産業医や産業保健スタッフが、社内での具体的な対策は総務などの間接部門が担い、会社全体の方針は緊急対策本部を設置して決定します。弊社ではどんな手段で伝えるかも重要と考え、月1回の安全衛生委員会を周知徹底の場としました。

 2つ目は「正しい情報を伝える」。分かっていることと分かっていないこと、両方を整理して伝えることを一貫して続け、情報をアップデートしていく。それが安心感と課題認識の共有につながると思います。弊社ではまず、COVID-19は不明な点が多いが、COVID-19対策は基本的な感染症対策の延長にあり、分からないことではないと説明しました。

 3つ目は「信頼を得る」。科学的根拠のある情報が受け手の信頼を高めるので、できるだけ根拠のある情報を伝えます。私からの発信では、学術論文や専門誌などの内容を一般社員にも分かりやすく伝えるようにしました。

 4つ目は「気持ちに寄り添う」。受け手の視点に立って情報を伝えることが大切です。私の場合は社内発表の前に社員に聞いてもらい、分かりにくい点などを指摘してもらいました。

 5つ目は「行動を支える」。一人ひとりの行動が感染予防につながることを強調します。COVID-19は手の消毒やマスク、咳エチケットなどによって感染ルートが断ち切れるということをしっかりと説明しました。

 6つ目は「相手を尊重する」。相手の立場や権利を思いやる伝え方をすることが大切です。感染症への理解不足が偏見や差別の原因になると考え、産業医としての使命感を持って社内の理解不足の解消に努めています。

 弊社のCOVID-19対策は、病院での標準予防策を軸として、「やらないこと」も決めてスタートしました。内容は今後も随時見直して最適化し、アップデートしていきます。

菅氏
菅 秀太郎
株式会社シマノ
SSF&SIC 健康管理室 産業医
2010年3月 産業医科大学医学部医学科卒業。2019年4月から現職。同時に神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学 社会人大学院生となり、小児科学の研究・論文発表などを精力的に行っている。

感染症の危機緊急時における
リスクコミニュケーションの6つの原則

感染症の危機緊急時におけるリスクコミニュケーションの6つの原則
※本セミナーのスライドから作成
感染症の情報や流行の状況、リスクといった情報を発信する際には、「正しく伝える」ことが求められる。そこで重要となるのが、「感染症の危機緊急時におけるリスクコミュニケーションの6つの原則」である

BCP策定の第一歩に『これだけは!』シートの活用を

 大阪府は、中小企業の皆様に取り組みやすいBCP様式として、最低限決めておくべき項目に絞り込んだ「超簡易版BCP『これだけは!』シート」を作成し、BCP策定の最初の一歩を後押ししています。

 このシートには、自然災害対策版と新型コロナウイルス感染症対策版の2種類があります。特徴は大きく2点。1点目は策定の手軽さです。A3サイズの用1枚に記入するだけで完成します。記入項目は、新型コロナウイルス感染症対策版では、1.事業継続方針や事業継続目標などの基本情報、2.BCPの発動条件、3.BCP発動時の組織体制、4.予防対策、5.感染者対策、6.復旧対策の6項目です。

 2点目の特徴は、情報の見える化ができる点です。完成後、社内に貼り出し、BCP、感染症対策に関する意識の共有を図ることができます。

 経済産業省や中小企業庁ではBCP策定企業の公表・登録を行っています。BCPの公表は、その企業の取引先や金融機関、投資家など、様々なステークホルダーにとっても有意義であることに加え、その企業自身の信頼性の向上にもつながります。ぜひご検討ください。

上杉氏
上杉 依子
大阪府 商工労働部 中小企業支援室・課長補佐
2020年4月から現職。主に中小企業の経営革新支援事業(経営革新計画)とBCP(事業継続計画)の普及啓発・策定支援に取り組んでいる。

「超簡易版BCP『これだけは!』シート」について

「超簡易版BCP『これだけは!』シート」について
大阪府「超簡易版BCP『これだけは!』シート」
(自然災害対策版・新型コロナウイルス感染症対策版)
「超簡易版BCP『これだけは!』シート」はA3サイズの用紙1枚に、事業継続方針や事業継続目標などの基本情報のほか計6項目を記入し、社内に貼り出すことでBCP・感染症対策への意識共有が可能になる
下記「企業の予防接種NAVI」内の『イベント・資料』のページからもダウンロードできます
感染症対策と予防接種の役立つ情報はこちら