従業員を「守る」「代替する」が感染症対応BCPの両輪
感染症対応BCPの重要性は広く認識されていますが、いまだ未策定の企業も少なくありません。日本経済新聞社が今春行ったアンケートによると、人材や時間の不足、「何から手を付けて良いか分からない」というのが、未策定の主な理由です。
そこで、「着眼大局、着手小局」というご提案をします。本セミナーや、国や地方自治体によるガイドライン、雛形を参考に、まずは全体像をつかむ。その上で、連絡網を作る、また備蓄を確認するなど、できるところから手をつけてみる。その後、少しずつ改善していってはいかがでしょうか。
感染症対応BCPの目的は、感染症によって「重要な事業を中断させない」、万一中断してしまった場合でも「可能な限り短時間で復旧させる」ということです。そのために、経営資源である従業員を「守る」、そして「代替する」の二段構えで考えることがポイントになります。
「守る」は、感染疑い事例や感染者を減らし、職場での感染者の連鎖を断つべく感染予防対策を的確に講じ続けることです。
「代替する」は、「代替要員を減らさない・増やす」という2つの側面があります。たとえば、意思決定を行うなど代替要員が限られる従業員は、早番と遅番、本社とテレワークのように勤務する時間や場所を分けるなどで感染を防ぎ、代替要員を減らさないよう努める。また、従業員が複数の重要業務を実施できるよう、業務の見える化やマニュアル化、それに基づいた教育・訓練の実施などに、組織として取り組むことが大変重要です。
平常時からBCPを構築して的確に運用するとともに、感染症に関する従業員教育を継続することで、危機を乗り切っていきましょう。
信州大学 特任教授
感染症対応BCP策定のポイント
健康問題は企業のリスク、その解決はBCPに通ずる
BCPの主役は人です。社会の大きな変化にどのように対応し、事業継続していくかを考えるとき、人が主役である限り、そのベースである「人の健康」をきちんと構築していくということが、企業に求められる極めて大事なポイントとなると思います。つまり、健康経営は企業の未来への投資なのです。
残念なことに、我が国のヘルスリテラシーは、OECD(経済協力開発機構)各国と比較して極めて低い状況にあります。これでは、今後万が一パンデミック(世界的大流行)など、未曽有の事態が日本で起こったときに正しく対応できるのか、非常に大きな疑問となるわけです。今回のCOVID-19においても、「自分で感染を防御していくという知識がきちんと身についている」もしくは「予防接種をきちんと受ける」といったようなアクションを起こすことが、求められているのではないかと思います。
また、極めて急速に進む高齢化社会において、ヘルスリテラシーは企業の事業継続にもかかわってきます。65歳定年が法令化され、70歳が努力義務となっている中、健康問題は企業の極めて重大なリスクであり、これをいかにして解決していくのか、そしてその延長線上にBCPがあるということを、ぜひ知っていただきたいと思います。
さらに、対策としての快適な職場環境づくりや予防接種、テレワーク導入やそのためのDX化推進などについては、経営者自らが関心を持ち、強い指導力を持って職場全体に普及啓発していくということが、非常に重要ではないでしょうか。
企業発の健康づくりが、結果として従業員のみならず企業のBCPに役立ち、それが社会の発展にも寄与します。ぜひ多くの経営者に、健康経営そして感染症対策に力を入れていただけたらと思います。
理事長
働き方の変容=感染症対策
企業の感染症対策に有効なリスクコミュニケーション
企業において感染対策を正しく伝える際、重要なのが「リスクコミュニケーションの6つの原則」です。1つ1つ産業保健活動に落とし込み、弊社の初期のCOVID-19対策事例を交えて紹介します。
1つ目は「速やかに共有する」。「誰が」伝えるかということも重要です。感染症に関する知識や見通しは産業医や産業保健スタッフが、社内での具体的な対策は総務などの間接部門が担い、会社全体の方針は緊急対策本部を設置して決定します。弊社ではどんな手段で伝えるかも重要と考え、月1回の安全衛生委員会を周知徹底の場としました。
2つ目は「正しい情報を伝える」。分かっていることと分かっていないこと、両方を整理して伝えることを一貫して続け、情報をアップデートしていく。それが安心感と課題認識の共有につながると思います。弊社ではまず、COVID-19は不明な点が多いが、COVID-19対策は基本的な感染症対策の延長にあり、分からないことではないと説明しました。
3つ目は「信頼を得る」。科学的根拠のある情報が受け手の信頼を高めるので、できるだけ根拠のある情報を伝えます。私からの発信では、学術論文や専門誌などの内容を一般社員にも分かりやすく伝えるようにしました。
4つ目は「気持ちに寄り添う」。受け手の視点に立って情報を伝えることが大切です。私の場合は社内発表の前に社員に聞いてもらい、分かりにくい点などを指摘してもらいました。
5つ目は「行動を支える」。一人ひとりの行動が感染予防につながることを強調します。COVID-19は手の消毒やマスク、咳エチケットなどによって感染ルートが断ち切れるということをしっかりと説明しました。
6つ目は「相手を尊重する」。相手の立場や権利を思いやる伝え方をすることが大切です。感染症への理解不足が偏見や差別の原因になると考え、産業医としての使命感を持って社内の理解不足の解消に努めています。
弊社のCOVID-19対策は、病院での標準予防策を軸として、「やらないこと」も決めてスタートしました。内容は今後も随時見直して最適化し、アップデートしていきます。
SSF&SIC 健康管理室 産業医
感染症の危機緊急時における
リスクコミニュケーションの6つの原則
BCP策定の第一歩に『これだけは!』シートの活用を
大阪府は、中小企業の皆様に取り組みやすいBCP様式として、最低限決めておくべき項目に絞り込んだ「超簡易版BCP『これだけは!』シート」を作成し、BCP策定の最初の一歩を後押ししています。
このシートには、自然災害対策版と新型コロナウイルス感染症対策版の2種類があります。特徴は大きく2点。1点目は策定の手軽さです。A3サイズの用1枚に記入するだけで完成します。記入項目は、新型コロナウイルス感染症対策版では、1.事業継続方針や事業継続目標などの基本情報、2.BCPの発動条件、3.BCP発動時の組織体制、4.予防対策、5.感染者対策、6.復旧対策の6項目です。
2点目の特徴は、情報の見える化ができる点です。完成後、社内に貼り出し、BCP、感染症対策に関する意識の共有を図ることができます。
経済産業省や中小企業庁ではBCP策定企業の公表・登録を行っています。BCPの公表は、その企業の取引先や金融機関、投資家など、様々なステークホルダーにとっても有意義であることに加え、その企業自身の信頼性の向上にもつながります。ぜひご検討ください。