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提供:一般財団法人阪大微生物病研究会

NIKKEI FT Communicable Diseases Conference

日経・FT感染症会議 感染症対策オンラインセミナー
顧客・従業員を守る新しい健康管理・感染症対策
~新型コロナ5類移行、
インバウンド・アウトバウンドの本格化、人流回復を経て~

感染症対策は
企業の生き残り策の一つ

特定非営利活動法人健康経営研究会 理事長 岡田 邦夫氏/東京医科大学病院 渡航者医療センター 特任教授 濱田 篤郎氏/株式会社東京會舘 常務取締役 星野 昌宏氏

写真左から)特定非営利活動法人健康経営研究会 理事長 岡田 邦夫氏/東京医科大学病院 渡航者医療センター 特任教授 濱田 篤郎氏/株式会社東京會舘 常務取締役 星野 昌宏氏

新型コロナウイルス感染症(COVID−19)のパンデミックが収束し、世界は日常を取り戻しつつある。人流も今後、国内外でさらに回復すると予測される。今企業が取り組むべき新しい健康管理・感染症対策とはどのようなものか。2023年9月6日に開催した「日経・FT感染症会議 感染症対策オンラインセミナー 顧客・従業員を守る 新しい健康管理・感染症対策~新型コロナ5類移行、インバウンド・アウトバウンドの本格化、人流回復を経て~」(主催:日本経済新聞社、協賛:阪大微生物病研究会、後援:厚生労働省、経済産業省)の内容を紹介する。

講演

1

コロナ前後の健康管理・感染症対策の変化と新たな対策

経営判断が鍵を握る企業の感染症対策

特定非営利活動法人健康経営研究会 理事長 岡田 邦夫氏

特定非営利活動法人健康経営研究会 理事長 岡田 邦夫氏

大阪市立大学大学院医学研究科修了。大阪ガス株式会社産業医、健康開発センター健康管理医長を経て同社統括産業医、顧問を2020年3月まで歴任。06年にNPO法人健康経営研究会を設立。厚生労働省の「職場におけるメンタルヘルス対策検討委員会」や「ストレスチェック制度に関わる情報管理及び不利益取扱い等に関する検討会」の委員も務める。

従業員の健康管理はBCPに含めるべき

感染症に対して脆弱な現代社会では、パンデミックのような大打撃を受けると自殺者が増え、企業でのメンタルヘルス不調も増えます。企業基盤も社会基盤も強固にしていかなければ働く人の健康は守れない状況です。パンデミックの影響で、食生活の乱れなど生活習慣が悪化し、感染症の流行拡大の要因にもなりました。また、新型コロナに感染した時、普段から身体活動度の高い人の方が死亡リスクが低いことがわかりました。いかなる時も私たちの健康を保持することが感染症に対する防御能力を高めることを考えると、企業の日ごろの従業員の健康管理はBCP(事業継続計画)にも含めるべきだと思います。

パンデミックに関連した社会的制約と健康問題
本セミナーのスライドから作成

企業が力を発揮 ワクチンの職域接種

フランスの社会学者エミール・デュルケームは、1897年に著した「自殺論」の中で、社会が混乱した時に重要なのは組織の中の決断力、人と人との絆であると述べています。社会基盤の防波堤としての重要性を踏まえて、今後の対策を講じていく必要があります。今回のパンデミックを契機に、多くの企業でワクチンの職域接種が実施されました。企業内での従業員の健康管理においても、日本の産業保健においてもエポックメーキングな出来事で、職域接種が始まって日本の接種率が米国を上回り、感染症対策でも企業が力を発揮できることを証明しました。

一方で、企業の感染症対策の問題点も明らかになりました。経営者と管理職では感染症に対する考え方は一致していますが、働き方についての考え方は一致しておらず、これまでも指摘されてきた中間管理職の空洞化がこの不一致に影響した可能性があります。また、日本には健康診断と保健指導の制度があるにもかかわらず、個々の従業員のセルフケアの能力、つまりヘルスリテラシーは必ずしも高くありません。この2つの課題を解決しない限り、日本の企業も社会も新たな社会的インパクトに対応できるようにはなれませんが、実は解決は簡単で、ヒントは健康診断の適切な活用にあると考えています。

「新型コロナ以外の感染症対策強化 企業の実施・検討状況」
本セミナーのスライドから作成

※調査概要  一般財団法人阪大微生物病研究会は、新型コロナ流行前後での企業の健康管理・感染症対策の変化、ならびに現在・今後の企業の健康管理・感染症対策の現状を明らかにすることを目的に、2023年6月13~16日、日本経済新聞社の協力で日経ID登録者のうち「お勤め、課長クラス以上、経営者・役員/経営企画/総務/人事、従業員50人以上(医療従事者は対象外)」を対象にインターネット調査を実施。計809人から回答を得た。

リスクマネジメントには想定外の想定を

感染症対策の投資価値の有無は最終的に経営判断になりますが、今の時代、リスクマネジメントでは想定外のものも想定しないといけなくなっています。感染症対策を企業の一つの生き残り策と位置づけてもいいのではないかと感じます。健康経営には、感染症予防対策の充実が求められます。日ごろから各従業員が感染症の理解を深め、体力維持に努め、そして健康診断の結果を活用して、普段から自分の健康改善に役立てる。高齢化社会における社会保障の問題や労働生産性の問題なども一気に解決できる可能性が見えてくると思います。健康経営では経営者の倫理観も大事で、経営者がどのような思いを持って従業員の健康の保持・増進を図り、社会の健康をもサポートするような企業の立ち位置をいかにつくっていくのか、これからの企業において重要ではないでしょうか。

講演

2

インバウンド・アウトバウンドの活発化により、リスクが高まる感染症

コロナ以外の感染症、世界的に状況悪化

東京医科大学病院 渡航者医療センター 特任教授 濱田 篤郎氏

東京医科大学病院 渡航者医療センター 特任教授 濱田 篤郎氏

1981年に東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学に留学しグローバル感染症、渡航医学を修得。東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師、同大学海外勤務健康管理センターの所長代理などを経て、2021年4月から現職。海外勤務者や海外旅行者の診療にあたるとともに、政府や東京都のデング熱、新型コロナ対策などに参画する。

渡航先の流行情報は事前にチェック

私の専門分野は「トラベル・メディスン」、日本語では「渡航医学」というもので、国際間の人の移動に伴う健康問題を扱う医学と定義されています。今回の新型コロナ禍では、渡航者が運ぶ病気として関与しました。新型コロナは、当初は未知の感染症でワクチンや治療薬もなく、非薬物的対策によって流行拡大を抑制しました。欧米では都市封鎖、水際対策、国際交通の停止が実施されました。ようやくワクチンによる薬物的な対策が2021年に始まり、22年ごろから流行を制御できるようになりました。国際間の交通が復活し、日本から海外へ行く人、あるいは海外から日本へ来る外国人の数が増えてきている現状です。今年はコロナ禍前に近い状態にまで復活するとみられています。

ただし、新型コロナ感染症の流行はまだ続いています。厚労省の報告によると7月ごろから特に国内の感染者数が増え、アジア諸国、欧米でも流行は続いています。海外へ渡航する際には、厚生労働省検疫所のホームページなどで渡航先の流行情報を事前に把握しておくとよいでしょう。入国条件については外務省の「海外安全ホームページ」で、滞在中の発病時の対応などは在外の日本大使館のホームページで見られます。ワクチン接種については、私たちはWHO(世界保健機関)の23年3月の勧告に沿って、渡航前の3回接種を推奨しています。

デング熱やマラリア、はしかの流行も拡大

新型コロナの流行により、ほかの感染症の流行状況はコロナ禍前より世界的に悪化しています。コロナの対応に追われ、世界各国で子どものワクチンの定期接種が停滞してしまいました。蚊の駆除が遅れたために世界的にデング熱やマラリアの流行も拡大しています。これから海外へ行く場合は新型コロナ以外の感染症対策も必要になります。例えば、はしか(麻疹)はアジアやアフリカで患者数がかなり増えています。日本の30歳から50歳代の人の中にはワクチン接種回数が少ない人がいて免疫が落ちていますので、滞在予定の方にはワクチン接種を勧めています。

最近の麻疹流行国
US CDCホームページ https://wwwnc.cdc.gov/travel/notices/level1/measles-globeから一部改変

インフルエンザの流行は早めの可能性

国内の感染症を見ると、インフルエンザの冬場の流行は過去2シーズンありませんでした。しかし、3シーズンぶりの流行が今年の1月、2月にあり、その後も少し流行が続く変則流行が起きています。今年の流行が早めに起きる可能性があり、しかも過去2シーズンは流行がなく免疫を持っていない人が多いので、感染者数も多くなります。早めのワクチン接種開始など、企業の皆さんにも検討いただきたいと思います。

企業の皆さんは特に、外国人労働者にも注意を払ってください。国際交通の再開で外国人労働者の数も再び増え、22年は180万人に上ります。母国で感染して日本で発病する事例に注意が必要です。雇用時の健康診断など、企業には安全配慮と合わせ社会的責任として感染対策を行なっていただきたいです。「海外渡航と病気」というホームページに「外国籍労働者の感染症対策マニュアル」を載せていますので、参考にしてください。

講演

3

顧客、従業員、事業を守る。感染症対策の重要性

感染症対策を経営戦略に取り込み、
黒字化実現

株式会社東京會舘 常務取締役 星野 昌宏氏

株式会社東京會舘 常務取締役 星野 昌宏氏

1999年3月一橋大学法学部卒。博報堂を経て、ローランド・ベルガーをはじめとした複数の外資系戦略コンサルティングファームにて経営コンサルティングに従事。その後、株式会社ベクトル、株式会社エポック・ジャパン(現:株式会社きずなホールディングス)などを経て東京會舘に入社。新本舘の開設準備責任者等を経て、2020年6月常務取締役営業副本部長、23年4月から現職。

婚礼事業で構築したノウハウを横展開

東京會館は1922年、社交の殿堂を目的に渋沢栄一翁を中心とした政財界の皆さんが発起人となって創立され、さまざまな重要な宴席、結婚式を承ってきた歴史があります。現在でも、感染に対して極めて意識の高い政財界のVIPのお客さまも大勢いらっしゃいます。2024年3月期第1四半期の売上高は37億円、営業利益率は8.9%とコロナ禍の影響はありましたが、サービス業の中では珍しく黒字化を実現しています。感染症対策を経営戦略に取り込んだことが大幅な回復につながったと思っています。

新型コロナは未知の感染症で当然、戸惑いもありましたが、今までと同じ状況を望むお客さまがいる限り、いかに安心・安全な場所と飲食を提供できるか――。このことだけに全経営資源を集中投下することがミッションだと考えました。20年4月から5月にかけては、緊急事態宣言の発出等もあり、一時営業をストップ。翌6月から9月は結婚式の延期やキャンセルには柔軟に応じ、婚礼事業をベースに感染症のオペレーションを、試行錯誤を繰り返しながら構築しました。20年の秋以降、こうして蓄積したノウハウをレストランや一般宴会事業にも横展開していきました。

メインロビーにサーモグラフィーを設置
メインロビーにサーモグラフィーを設置消毒

テーブルにはアクリルパーテーション設置
テーブルにはアクリルパーテーション設置

顧客が手に触れる箇所は定期的に消毒
顧客が手に触れる箇所は定期的に消毒

写真左から)メインロビーにサーモグラフィーを設置/テーブルにはアクリルパーテーション設置/顧客が手に触れる箇所は定期的に消毒

クラスター発生を想定し、分散シフト組む

感染症対策の中で特に重要視したのは感染経路です。最もリスクが高いと考えたのが従業員の中での感染拡大です。従業員からお客さまへの感染例は一例もありませんが、従業員の士気、モラルをいたずらに低下させないよう工夫しながら、感染チェック体制をどこよりも綿密にしています。クラスターが発生しても事業が継続できるように、主要な人間を分散させたシフトを組みました。今後も感染状況に応じて、どのような対策をとるか定量的な指標を設けながら、感染症対策委員会で都度チェックしていきます。新たな感染拡大局面を想定し、従業員がワクチンを打てる環境を積極的に整える、人事総務部が情報をスピーディーに集約するなど、これまで以上に対策を徹底しようと取り組んでいるところです。

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