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2016年8月の『押さえておきたい良書

使える脳の鍛え方

記憶に残らない無駄な勉強をしていませんか?

『使える脳の鍛え方』
 -成功する学習の科学
ヘンリー・ローディガー マーク・マクダニエル ピーター・ブラウン 著
依田 卓巳 訳
NTT出版
2016/04 295p 2,400円(税別)
原書:make it stick (2014)

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 何かを学ぼうとするときに、それについて書かれたテキストを繰り返し読むという人がいるかもしれない。一見まっとうな手段に思えるが、実は科学的な見地からみればそれは思いこみに過ぎない。正しい勉強方法はまったく別である―。本書はそんな切り口から、これまでの常識とは異なる「学びの法則」や勉強法を解説している。それはいずれも著者らが多くの「学びの達人」たちを分析した結果見出されたものだ。科学的な根拠を持ち、誰にでもノーコストで実践できる。
 著者はヘンリー・ローディガー、マーク・マクダニエルとピーター・ブラウン。ヘンリーとマークは認知心理学者で、学習と記憶を専門に研究してきた。ピーターは作家だ。

もっとも長く覚えていられる学習方法とは

“流暢性の錯覚は、教材をすらすら読めることを習熟と勘ちがいすることから生じる。たとえば、むずかしい概念をとくにわかりやすく説明されると、概念自体がじつは単純で、自分も最初から知っていたと思いこむことがある。”(p.123より)

 たとえばこんな経験がある人も少なくないのではないだろうか。上司の席で業務指示を受けて「はい」と返事をしたものの、自席に戻ると何から始めていいのかわからない。上司がすらすらと話しているのを聞いてなんとなく分かった気分になるが、実は理解していなかったのだ。
 教科書をひたすら読むという学習方法にも同じことが言える。どんなに難解な文章でも何度も読めばすらすらと読めるようになる。しかし本書によれば、それは目が慣れただけであり、学んで理解しているという状態とはまったく違うのだという。
 また、「学びはつらいほうが深く定着しやすい」と著者らは説く。これはどんな学びにも共通するそうだ。「つらい」といっても無理をして苦しみながら学べと言っているわけではない。「脳に負荷をかけながら学ぶ」ということだ。たとえば、教科書を読んだあと、少し時間をおいて、その内容をどれだけ自分が理解しているかを自分でクイズをつくって解いてみる。クイズを解くことで脳にも精神にもストレスがかかるが、自分が理解していることと理解していないことを区別できる。もっとも危惧すべき事態である、「習得したと錯覚すること」はなくなるのだ。これを繰り返すことで、長く定着する正しい学びを得られるのだという。

テストは強力な学習ツールになる

 テストが好きな人は少数派だろう。多くの人は、テストを学力を計測するメーターだと思い、自分の数値が低く表示されるのを恐れる。しかし本書では、テストを「学んだことを記憶から引き出す機会」ととらえている。なぜなら脳はテストを受けているときにもっとも活発に物事を思い出そうとするからだ。思い出そうとすることは、記憶の長期的な定着につながる。しかも、理解度の目安になるだけでなく、思い出すのが難しければ難しいほど効果が高まる。つまりテストは強力な学習ツールとしても機能するということだ。(担当:情報工場 宮﨑雄)

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2016年8月のブックレビュー

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