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2016年8月の『押さえておきたい良書

バイトを大事にする飲食店は必ず繁盛する

居酒屋「塚田農場」マニュアルいらずの人材育成

『バイトを大事にする飲食店は必ず繁盛する』
 -リピーター獲得論
大久保 伸隆 著
幻冬舎
2016/03 214p 800円(税別)

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 いわゆる「ブラック企業」の代表格として扱われがちな飲食業。しかし居酒屋チェーン「塚田農場」は、そんな業界への風評被害もどこ吹く風だ。どの店舗も常に活気にあふれ、楽しそうに働く店員ばかり。運営会社の株式会社エー・ピーカンパニーは、過去に経済産業省の「おもてなし経営企業」に選ばれている。本書はそんな同社が実践する、従業員マネジメントの仕組みと手法を解説している。
 著者の大久保信隆氏はエー・ピーカンパニーの取締役副社長、人材開発本部長等を務めている。“アルバイトは従業員であると同時にお客さまである。そして、できるだけ多くのお客さまに感動してもらえる店を作る” という使命を胸に、日々組織と人の成長につながる施策を実行しているという。

どうすればアルバイトの満足度があがるのか

“アルバイトのやる気を上げて、しっかり稼がせてあげられれば、店も従業員もWIN-WINになるはずです。
では、質問です。そうした理想的な店、つまりアルバイトの「精神的報酬」と「経済的報酬」を満たすためには、何が必要でしょう。
答えは一つ、「売上」です。”(p.58より)

 上記は著者が考える理想の店の条件だ。売上アップを目指すのは飲食店としてごくごく当たり前のこと。著者はここからさらにアルバイトのやる気にフォーカスして考えた結果、“客のリピート率を上げる”ことが最も有効だと気づいたという。単純な売上増であればリピーターでも新規客でも大きな差はない。しかしアルバイトたちに自分の接客の成果で客を呼べたという実感を持ってもらうためには、リピーターに来てもらう必要があるということだ。
 本書では、お客さんの帰り際に来週から始まる新メニューをこっそりと教えるというリピーター獲得術を紹介している。特別感に加え、「今日は楽しかったけど、まだ食べていないものがある」という未練が残るのだ。未練が残ると、記憶に残りやすくなる。これは「ツァイガルニク効果」という心理学を応用したのだそうだ。
 上記は著者が編み出したものだが、塚田農場ではこうした接客術をアルバイトたちも考えて実行する。そしてそれを社内SNSで共有し、称賛しあう文化があるという。

マニュアルがない研修スタイル

 塚田農場では新しく入ったアルバイトに対し、会社の理念と店舗での基本オペレーションの研修しか行わないという。研修終了後は、各人が自分で考えて行動する。マニュアルを押しつけると受け身になり、働くモチベーションが下がってしまうからだ。採用面接ではそうした主体的な行動ができるかどうかを厳密に見きわめるという。
 つまり、適性がある人物を採用して理念を教え、あとはその理念を実現する働き方を各々に考えてもらう、というのが塚田農場流のスタイルなのだ。マニュアル教育のように効率的ではないかもしれない。しかし自発的に働く従業員は、楽しく自走できるようになっていくという。良い店をつくるためには、長い目で見れば、それがいちばん効率的なのだ。(担当:情報工場 宮﨑雄)

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2016年8月のブックレビュー

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