2016年9月の『押さえておきたい良書』
2016年6月に惜しくもこの世を去った未来学者アルビン・トフラーは、1980年の著書「第三の波」で、人類の生活を大きく変革した「農業革命」と「産業革命」を第一、第二の波とし、近い未来に第三の波「情報革命」が押し寄せると予言した。
トフラーの予言は的中し、現代の情報化社会が現れ、今ではインターネットが世界を覆っている。本書では、現代の「インターネット時代」にも段階があり、2016年はちょうど「(インターネットの)第三の波」に差しかかったところだと指摘する。
AOL(アメリカ・オンライン)の元CEOで共同創設者である著者は、インターネット「第一の波」の主要プレイヤーだった。本書では、その当時の経験を語りながら、それをもとに第三の波に乗ろうとする起業や新規事業を成功させるにはどうすればいいかを探っている。
「あらゆるモノのインターネット」を実現する「第三の波」
本書でいう第三の波の定義は、上記引用のとおりだ。
第一の波は1985年頃から起こった。つまりインターネットの黎明期であり、この段階ではまだ多くの人がその存在や便利さを知らない。未開の地を開拓するようにインフラ整備にかかわった米企業は、シスコ、スプリント、ヒューレット・パッカード、そして民間のインターネット接続を容易にしたAOLなどだ。
21世紀に入ったあたりから押し寄せたのが第二の波。第一の波でつくられたインフラをベースに、さまざまな便利なサービスが登場する。Google、Yahoo!の検索エンジン、Amazonをはじめとするネット通販、SNSなどだ。また第二の波の後半ではモバイル・ムーブメントが起こる。
粘り強く参入障壁を切り崩す規制をクリアする必要が
第三の波では、第二の波とは違い、これまでインターネットを前提としていなかった既存の業界で、ネットの活用を考えていかなければならない。たとえば医療、教育、食品業界などだ。著者はその時に必要なのは第二の波ではなく第一の波での経験だと説く。
先に挙げたような既存の業界には参入障壁があることが多い。第一の波でも、新しい技術に懐疑的な目を向ける既存の通信業界の“壁”を切り崩していかなければならなかった。第一の波でもそうだったように、第三の波ではパートナーシップを重視しつつ、政府の許認可や規制をクリアしていく必要があるのだ。
第三の波のプレイヤーたちが粘り強くチャレンジを続けることが、私たちの未来の可能性を切り拓くのは間違いない。(担当:情報工場 吉川清史)