2016年9月の『押さえておきたい良書』
いま米国では成婚したカップルの3分の1超が、オンラインデートで出会ったそうだ。オンラインデートと聞くと、日本ではいわゆる「出会い系サイト」を想像して警戒する人が多いかもしれない。しかし、米国では健全な出会いの一手段として一般に認められている。
オンラインデートを題材に経済学を学ぼう、というユニークなコンセプトで執筆されたのが本書だ。人が人を選ぶときに発生する「統計的差別」など全部で10の経済理論を学ぶことができる。著者はスタンフォード大学のビジネススクールで教壇に立つ経済学者。自身が実際にオンラインデートサービスで結婚相手を探した経験から、その仕組みが経済学の理論を説明するのに適していることに気づいたという。
ついてもいいウソ、ついてはいけないウソ
著者のように、オンラインデートサービスで公開するプロフィールの記述に正直に書く項目とウソをつく項目を分けるケースは珍しくないそうだ。その理由はゲーム理論における「チープトーク」を考えると分かる。この場面ではチープトークを、「自分の好み」と「自分が魅力に思う人の好み」を照らし合わせ、ウソをつくかつかないかを判断するための思考の枠組みとして使うことができるのだ。
自分がパートナーになりたいと思う相手が魅力を感じそうな事実(背が高い、お金持ちなど)と、現実が一致する場合にはウソをつく必要がない。だが、もしそれが食い違うならば、ゲーム理論ではそれをお互いの満足度の問題とする。
たとえば著者の「趣味が動画」というプロフィールは、一部の人から不評である可能性がある。しかし後でそれを隠していたとバレたところで、いきなりフラれてしまうほどではないだろう。他の部分でお互いに魅力を感じ合っているならなおさらだ。ならば、ここでは「ウソをつく」という選択をした方がお互いの満足度が高まる結果になる。
「シグナリング」で差をつける
オンラインデートで相手に「本気」を伝えたいときにはどうするか? 言葉だけでは不十分なことが多い。言葉を裏づけるための行動が必要になる。その行動のことを経済学では「シグナリング」という。
シグナリングはコストを伴う行動のみが意味をもつ。ここでいうコストとは金銭的なものとは限らない。たとえば、時間や手間もシグナリング理論ではコストとみなされる。
たとえば、特別な人の誕生日を祝いたいならFacebookのウォールに「おめでとう」と書き込むだけというのは良い選択とはいえない。なぜならその行動にかかるコストは「15秒の手間」だけだからだ。それを選んだり買ったりする手間とお金、書き込む時間というコストがかかるバースデーカードの方が効果的だ。(担当:情報工場 宮﨑雄)