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2016年9月の『押さえておきたい良書

ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代

オリジナリティで成功するのは“特別”な人じゃなくて“普通”の人だった

『ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代』
アダム・グラント 著
楠木 建 監訳
三笠書房
2016/06 384p 1,800円(税別)

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 偉大な功績を残した発明家、政治家、芸術家、起業家などの多くは、他の人とは違う「オリジナル」な人たちといえる。たいていは天才と呼ばれ、生まれつきの才能や、リスクを躊躇(ちゅうちょ)しないチャレンジ精神をもった「特別な人」と思われることが多い。
 だが本書では、むしろできるだけリスクから逃げようとする「普通の人」こそ、オリジナルな成功を収めやすいと指摘。そうした意外な事実を、心理学をはじめとする科学的な根拠をもちいて検証している。著者はペンシルベニア大学ウォートン校教授を務める組織心理学者で、過去にベストセラー「GIVE & TAKE『与える人』こそ成功する時代」(三笠書房)を著している。

オリジナリティとは、リスクを好むことではない

“ホラー小説の巨匠スティーブン・キングは、第一作目を執筆後も七年のあいだ、教師やガソリンスタンドの店員などをしており、日中の仕事をやめたのは『キャリー』で小説家デビューした一年後だ。” (p43より)

 ミシガン大学の心理学者クライド・クームスは、成功を収める人はリスクの「ポートフォリオ(金融資産の組み合わせ)」のなかでバランスをとっているという説を提唱している。ある分野で危険な行動をとろうとする時に、別の分野では慎重に行動することで安全な場所を確保し、全体的なリスクのレベルを低くするということだ。
 米国で行われた調査では、起業に専念する人と本業を続けたまま起業した人では、後者の方が33%も失敗の確率が低かったという。起業や創作といったリスクのあるチャレンジと、一定の収入が得られる仕事を並行して行うことは、集中を欠いた方法ではない。ある分野において安心感があると、別の分野でオリジナリティを発揮する余裕が生まれるというメリットがあるのだ。

オリジナリティは締め切り間際に生まれる

 大切な仕事は期限の少し前までには終わらせておくように、と言われたことはないだろうか。しかしマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が、あの歴史を変えることになる「I have a dream」で有名な演説の内容が固まったのは、本番前日になってからだった。
 彼は少なくとも2カ月前から自分が演説することを知っており、草稿を担当するライターにもそのことを伝え、話し合いの席を設けていた。しかしあえて、テーマや方向性を決めていなかったため、草稿担当者の頭の中には、キング牧師との最初の話し合いから本番ギリギリまでずっと、演説のことが残っていた。おかげで、その期間に思いついたさまざまなアイデアを盛り込んだ草稿を書くことができた。そのアイデアは最終的にキング牧師が執筆した原稿にも生かされたのだ 。
 古代エジプトにおいて、「先延ばし」の意味する二つの動詞があった。ひとつは「怠惰」、もうひとつは「好機を待つこと」を意味する言葉だった。「怠惰」は課題にまったく手をつけずに放置することだが、好機を待つことは課題に着手しておいて仕上げを先延ばしするということだ。
 先延ばしは「生産性の敵」かもしれないが、「創造性の源」にはなる。オリジナリティを発揮する人は、戦略的に先延ばしをし、様々な可能性を試し、改良することによって少しずつ進めていることが多いのだ。(担当:情報工場 宮﨑雄)

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2016年9月のブックレビュー

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