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2016年12月の『押さえておきたい良書

北京レポート 腐食する中国経済

中国を緩やかにむしばむ“軋み”と“矛盾”

『北京レポート 腐食する中国経済』
大越 匡洋 著
日本経済新聞出版社
2016/08 256p 1,600円(税別)

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 中国は急激な経済成長を遂げ、いまや世界第2位の経済大国として国際社会への影響力を増している。しかし、指導部の拡張主義が近隣諸国との関係を悪化させ、2015年の株式市場暴落以来、好調だった経済にも明らかに陰りがみられる。
 本書『北京レポート 腐食する中国経済』は2012年から4年間、北京の日本経済新聞中国総局に取材記者として駐在した著者が、現地にいなければ見えにくい中国の政治・経済の実像をレポート。中国をむしばむさまざまな深刻な問題を浮き彫りにしている。
 2013年に習近平氏が国家主席として国の頂点に立った頃、すでに中国経済の高速成長路線は行きづまりをみせていた。官僚の腐敗、貧富の格差拡大など体制の崩壊につながりかねない課題も山積。習主席はそれらに対応するには、強大な権力が必要と考えたようだ。集団指導体制という建前をかなぐり捨て、大統領や皇帝のような「唯一の強い指導者」としての地位を築き上げようとしたのである。
 習主席は党の支配体制の維持を目指したが、その一方で経済については市場主義を取り入れた「社会主義市場経済」を踏襲した。統治を強化すれば、市場への官の関与は大きくなる。だが、そもそも市場の機能を発揮するには、一党支配体制の元での官の干渉を減らす必要がある。つまり、習体制はもともと大きな矛盾をはらんでいるのだ。

経済の減速は新旧の転換期にあるためと中国当局は説明

“長江を挟んで上海の対岸に位置する江蘇省南通市。15年秋、川沿いの地域からは人けが消え、飲食店や売店は軒並みシャッターを下ろしていた。民営造船会社の南通明徳重工が経営破綻し、地方からの出稼ぎで8,000人いた従業員は8月末までに全員いなくなった。残ったのは、廃村のような風景だ。”(『北京レポート 腐食する中国経済』p.244より)

 このように中国経済の減速は町の風景にも表れている。中国政府は、こうした現状について、中国経済が新旧の転換期にあるためと説明し、これからは製造業に高付加価値をつける方向をめざすとしている。だがそれは簡単に実現できるものではない、と著者。さらに中国の矛盾や問題点が改革を阻む可能性が高いとも指摘する。

中国の政策運営能力に対する不信感が市場に反映される

 2015年6月の株式市場の暴落への対応策として、習指導部は、中国では「定石」ともいえる情報統制の強化に乗り出した。インターネット上に「デマ」を流したとして200人近くを摘発、さらに官製メディアを使って「中国発の世界株安」との見方に一斉に反論した。
 しかし、同年9月に開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議で中国人民銀行の周小川総裁は、中国の株バブルの崩壊が世界市場に影響を与えたことをあっさりと認めた。すでに適切な政策対応によって中国経済は正常化していることを強調し、株バブル崩壊は過去のものと印象づける狙いがあった。
 著者はこうした態度から、中国の当局側は都合のよい「宣伝」はしても、失政について検証し、説明責任を果たす感覚が乏しいことがわかるとしている。中国の政策運営能力に対する不信感が市場に反映されているのは確かであり、それは決して過去のものにはなっていないと、著者は指摘する。(担当:情報工場 内山貴子)

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2016年12月のブックレビュー

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