2017年1月の『押さえておきたい良書』
東京のお台場公園に立つ、高さ18メートルの「実物大ガンダム」。ロボットアニメ『機動戦士ガンダム』の放映開始30周年を記念して、2009年に、玩具、ゲーム、アニメを中心とするエンターテインメント企業であるバンダイナムコが建造したものだ。
この企画が提案されたとき、バンダイナムコ社内では、巨額の投資に見合う効果があるのか、疑問の声が上がったという。だが、当時の石川祝男社長は「とても面白い」と感じた。そしてすぐさま実現に動いたのである。
本書『大ヒット連発のバンダイナムコが大切にしているたった1つの考え方』では、現在バンダイナムコホールディングス会長を務める石川氏が、同社が好業績をキープする秘訣につながるものの考え方、仕事のコツなどを披露している。
少数派の執念と熱意が人を動かす
既成概念をくつがえす斬新で突飛なアイデアを思いつくのは、たいてい「少数派」だ。そうしたアイデアは多数派の常識や固定観念のせいでボツにされることが多い。そこでめげずになんとしてもという執念と「熱意」をもって行動することが大ヒットに結びつくのだという。
ナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)に入社して10年ほど経った頃、著者はアクションゲーム「ワニワニパニック」を企画・開発する。ワニワニパニックは、ゲームセンターなどに置かれた、迫ってくるワニをハンマーでたたくというシンプルなゲームだが、ワニに噛みつかれるかもしれないというスリルが受け、大ヒット作となった。
しかし企画書の段階では多数派の意見で危うくボツになりかけた。著者はそれでも諦めず、自分の信じた面白さをわかってもらうために、ゲーム機を段ボールとスリッパで自作までして上司へプレゼンし続けた。企画そのもののユニークさはもちろんだが、多数派に流されないその熱意があってこそ、人気ゲームを生み出せたのである。
大ヒットを生むために「元気よく暴走」せよ
著者は、日ごろから社員たちに「元気よく暴走しなさい」と発破をかけている。この「暴走」という一見過激な表現には、アイデアに対する次のような姿勢が表れている。
このとき、欠点に焦点を当てて否定的な評価を与えるのではなく、一点だけ秀でた長所を大きな可能性として肯定的にとらえることが大切で、少なくとも、そこに前例や経験によるブレーキをかけるべきではありません。”(『大ヒット連発のバンダイナムコが大切にしているたった1つの考え方』p.72-73より)
「∞(むげん)エダマメ」というバンダイナムコのヒット商品がある。枝豆を模したおもちゃで、皮をつまむと豆状のものが押し出され、指を離すと元に戻る、それだけのものだ。著者は、この枝豆の感触のような日常のちょっとした面白さを否定せずに拾い上げることが大切だとしている。そして拾い上げた面白さを実際におもちゃにするような「普通はしないこと」をするのが、著者のいう暴走にほかならない。(担当:情報工場 宮﨑雄)