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2017年1月の『押さえておきたい良書

IoTが拓く次世代農業

衰退する日本農業を救う「アグリカルチャー4.0」

『IoTが拓く次世代農業』
 -アグリカルチャー4.0の時代
三輪 泰史/井熊 均/木通 秀樹 著
日刊工業新聞社
2016/10 184p 2,300円(税別)

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 日本の農業は、解決の難しいさまざまな課題を抱え、衰退しつつあるといわれる。就業人口の減少や後継者不足、耕作放棄地の増加など諸問題の根本にあるのは、農業が「稼げない産業」であることだ。それに加え農作業には3K(きつい、汚い、かっこ悪い)のイメージがつきまとう。単純・反復作業が多く、クリエーティビティを発揮できる機会に乏しいことも、後継者たる若者を遠ざける原因になっている。
 本書『IoTが拓く次世代農業』では、発展めざましいICT(情報通信技術)、とりわけ注目のIoT(モノのインターネット)を活用して、農業をめぐる諸問題を解決する具体策を探っている。それとともに、もともと高品質な生産技術を有する日本農業の効率化を図ることで、システム自体を海外へ輸出する道も示す。
 3人の共著者はいずれも日本総合研究所創発戦略センターに所属し、井熊均氏は同センター所長を務めている。

IoTによる相互通信や自動制御を農作業に活用

 本書では、「先進農業」と呼ばれる農業機械や施設園芸分野にICT導入が進む現状を、アグリカルチャー3.5と定義している。もっとも初期の農業では、灌漑(かんがい)などの土木技術が発達した。この段階をアグリカルチャー1.0と呼ぶ。化学肥料などが工業的に生産されるようになるとアグリカルチャー2.0に移行。1940年代から60年代にかけてのことだ。それに続くアグリカルチャー3.0は1960年代から80年代に、自動車産業などによる工業技術の発展を受けて、農業の機械化が進んだ局面だ。
 本書で提言しているのは、アグリカルチャー3.5の適用範囲を広げ、IoTを活用するアグリカルチャー4.0だ。それによって全ての農業従事者がもうけられる新しい農業モデルが確立できるとしている。IoTとは、さまざまなモノにセンサーや通信機能をつけ、人の手を介さないモノ同士の相互通信や自動制御を可能にするもの。ドイツや米国では「インダストリー4.0」などと呼ばれる工業生産分野への応用が始まっている。

多機能な小型の自律型農業ロボット「DONKEY」

 農業分野でのIoTは、センサーなどで農地や作物の状態をデータで把握するモニタリングシステム、全体管理システムのもと自動あるいは半自動で農作業を行う農業機器・設備などで活用できる。後者には、農業ロボットや自動運転農機、農業ドローンなどが当てはまる。

“露地野菜などの日本特有の農業で上述した機械化・自動化の課題を解決するためには、以下のような日本型農業IoT特有のシステム化のコンセプトが必要である。
(1)多目的に利用できる機能を集約したプラットフォームを作る
(2)段取り・搬送の負担が少なく、量産化・標準化しやすいよう、できる限り小型化する
(3)(1)を量産化しコストダウンを図る
(4)多用途に対応できるオープンアタッチメントを多数用意する
(5)人の介入を最小化し無人化を図る”(『IoTが拓く次世代農業』p.139より)

 とくに露地野菜(温室などを使わずに露天で栽培される野菜)を栽培する日本の農地は、面積の狭い土地が、飛び地のように分断されていることが多い。上記の引用は、それを踏まえたコンセプトである。こうしたコンセプトのもと、本書では「DONKEY」と名づけた小型の多機能自律型農業ロボットをシステムの中核とした青写真を描いている。(担当:情報工場 吉川清史)

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2017年1月のブックレビュー

情報工場 読書人ウェブ 三省堂書店