2017年2月の『押さえておきたい良書』
「小さい頃、うれしかった思い出は何ですか」。そう問われると、誰もが瞬時に幼い頃のことを思い浮かべる。そして、パブロフの犬のように、反射的に思考して答えを探すことになる。「質問」には、そんなふうに人を動かす力があるのだ。
本書『「いい質問」が人を動かす』のテーマは、そうした質問の持つ力と使い方だ。著者によれば、質問とは単純に相手から情報を引き出すためだけにするものではない。たとえば人の行動を誘導したり、自分に好感を持ってもらうのにも役立つ。
著者は弁護士でみらい総合法律事務所の代表パートナー。本書に登場する質問のテクニックの数々は、著者が裁判や交渉などの実務経験の中で身につけたものだ。
人を動かすには、命令も説得もいらない
人は命令されたり説得されたりすると、自尊心が傷つくとともに、抵抗したくなるのだそうだ。それゆえ、相手を動かしたいときには、「命令している」「説得しようとしている」と悟られないようにするといい。質問をうまく使えば、相手は命令や説得を受けているからではなく、自分で考えて行動している気になってくれる。
本書で紹介されているのは、「大口の注文が取れそうだが、規定の期日までに納品するには従業員に連日残業してもらう必要がある」という状況におかれた経営者のケース。そんなとき、従業員に「残業して対応しろ!」と一方的に命令すると猛反発をくらうのは目に見えている。
ではその経営者はどうしたか。まず、従業員に「負担が大きいので断ってもよい」と伝えた。その上で、受注するメリットを示した。それから「どうすれば納期に間に合わせられるだろうか」と質問した。すると、従業員たちは次々と納期に間に合わせるためのアイデアを出してきたという。
この経営者は従業員に対して命令も説得もしていない。質問の力で、望む結果を手に入れたのだ。
「質問ブーメラン」で相手はあなたを好きになる
気持ちよく会話のできる相手のことは、好ましく思うものだろう。気持ちよく話ができるのはどんなときか。それは「自分の関心事が話題になったとき」だと著者は言う。そして、下記に引用する「質問ブーメラン」というテクニックを使えば、相手に好感を持ってもらえるという。
「質問ブーメラン」とは、相手の質問から察して、相手が好きなこと、興味・関心があることを話題にするというものだ。私たちは質問されると、それに答えて自分自身のことばかり話してしまいがちだ。しかし、そこで「答えたい」という気持ちを抑え、あえて相手に聞き返す。すると相手は話したかったことを話題にできるので、気持ちよく会話ができる。そして、あなたに好感を抱くようになる可能性が高いのだ。(担当:情報工場 宮﨑雄)