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2017年3月の『押さえておきたい良書

日本電産 永守重信社長からのファクス42枚

赤字企業を3年以内に業界トップに。“永守流”経営再建手法

『日本電産 永守重信社長からのファクス42枚』
川勝 宣昭 著
プレジデント社
2016/11 216p 1,600円(税別)

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 今や売上高1兆円超(2015年度)の、日本を代表する企業の一つとなった日本電産。1973年の創業以来、50社以上のM&Aを繰り返し、赤字会社は黒字経営へとスピード再建してきたことでも知られる。本書『日本電産 永守重信社長からのファクス42枚』では、日本電産の永守重信会長兼社長から経営幹部に送られた数百通に及ぶ直筆ファクスから「永守語録」を選び出し、その経営哲学を明らかにしている。
 著者の川勝宣昭氏は、日産自動車を経て日本電産でグループ企業の再建を担当、現在は経営コンサルタントとして活躍する。

赤字企業を業界トップにする意識改革とは

 本書に描かれる日本電産のM&Aは、他社とは一線を画している。被買収企業の役員や社員はすべて引き継ぎ、本社から送り込まれるのは1人だけ。そしてリストラも資産の切り売りもせず、1年以内に黒字化、3年以内に業界トップになることを命じられるという。
 どうすればリストラも資産売却もせず、赤字企業が業界トップになれるのか。その鍵を握るのが、社員の意識改革だ。永守氏は、企業再建にあたり、常に次のように語っていたという。

“人の能力差は、あると言ってもせいぜい5倍。しかし意識の差は100倍もある。能力は磨いて上げるのは難しいが、意識は磨けば磨くほど上げられる。だから、企業を強くしたかったら、社員の意識を磨け”(『日本電産 永守重信社長からのファクス42枚』p.24-25より)

著者によれば、赤字会社はどの会社も、いわば負けぐせともいえる意識に支配されている。そこからの意識改革とは、具体的には社員の(1)価値観(2)思考様式(3)行動様式、を変えていくこと。ただし、このうち(2)も(3)も(1)の価値観が起点となる。それゆえ、再建担当者の最重要任務は、日本電産の価値観を組織に浸透させることになる。
 日本電産の価値観とは何か。それは「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」という言葉に代表される「スピードと徹底」の企業文化そのものである。そうした価値観が浸透してはじめて業界トップを目指せるのだ。

部下に「この人は本気だ」と感じさせる

 また、再建を担うリーダーが社員の心をつかまない限り、意識改革は成功しない。そのために著者が永守氏から学んだのは、リーダー自らが伝票一枚一枚をチェックするなど、丹念に会社と向き合うことで、部下に「この人は本気だ」と感じさせることだったという。
 企業や個人が成長していくために必要な意識改革。それを「1年で黒字化」「3年で業界トップ」といった一見無茶な目標設定と、細部にわたる心遣いで先導し、グループ会社まで変革するのが“永守流”のリーダーシップなのである。
 永守氏はよく「経営者と経営管理者は違う」とも言っていたという。その分かれ目は、困難に直面したときに逃げずに向き合えるかどうか。永守氏によれば、著者の川勝氏を再建担当に起用したのも、「逃げないと思ったから」だ。永守氏の人物評価の基準はすべてそこにあったのだ。(担当:情報工場 宮﨑雄)

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2017年3月のブックレビュー

情報工場 読書人ウェブ 三省堂書店