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2017年3月の『押さえておきたい良書

人間と機械のあいだ

人工生命とロボット研究から迫る「人間らしさ」の本質

『人間と機械のあいだ』
 -心はどこにあるのか
池上 高志/石黒 浩 著
講談社
2016/12 256p 1,300円(税別)

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 人工知能(AI)の発達により、2045年頃には機械が人間の知能を超えるのではないかという「シンギュラリティ問題」が、多くの議論を呼んでいる。だが、そもそも人間と機械には、どんな違いがあるのだろうか? それは、突き詰めて考えると「生命とは何か?」という究極的な疑問に至る問いでもある。
 本書『人間と機械のあいだ』では、そんな壮大な問いに迫っていく。ALIFE(Artificial Life=人工生命)を研究する池上高志氏と、ロボット(アンドロイド)を研究する石黒浩氏が、両者のコラボレーションによる「機械人間オルタ」の実験について各々論じるとともに、対話を行っている。

一見不気味な「機械人間オルタ」

 機械人間オルタは、顔と手は人間と同じ形だが、その他の部分の機械はむき出しで、動きはランダム、言語ではなく単なる音声を発するというロボットだ。
 これまで石黒氏は、アンドロイドに生命感をもたせるために、いかに人間に似せるかを探ってきた。一方、池上氏の人工生命研究では、生命を抽象的で数学的なものと捉える。例えば、電気回路、ロボット、コンピュータのプログラムなど、どこにでも生命がありうると考える。
 オルタの実験は、池上氏が目指す「見た目によらない生命性」と、石黒氏が追求する「見た目としての生命性」がどうクロスするのかを考えるものであった。オルタは完成発表の後、日本科学未来館で2016年7月30日から1週間展示された。

異なるアプローチから「人間とは何か」に迫る

“僕と池上さんの言っていることは一緒だと思うんです。ただ、僕はどちらかといえば主観的な、人間の立場に立った生命の定義ですが、池上さんはもっとハードコアに、正確な生命らしさの量を定義できるのではなかろうかと考えているのかなと思ったということです”(『人間と機械のあいだ』p.155より)

 石黒氏は、実験後の対談で、上記のように述べている。
 生命を生み出すメカニズムを明らかにして、それから人間を説明しようとする池上氏。人間らしいロボット作りから始め、そのロボットの人間らしさを説明する石黒氏。そのアプローチの仕方は異なれど、実は二人の研究は、「人間とは何か」を探る同じゴールに向かっている。
 オルタを共同開発することで、二人のアプローチがクロスしていった。石黒氏は、これまでに自分が作ってきたのとは違う、“人間に似ていない”ロボットを前に、似ていないが故に生命性が宿ることを感じとった。一方、池上氏は、展示されたオルタに子どもたちが話しかけているのを見て、オルタが人間性を宿しているように思えてきたという。他者と接することで獲得する人間性は、それまでの池上氏単独のアプローチからは見出すことができなかったものだ。
 オルタは2016年11月に行われたシンポジウムを最後に、日本科学未来館で眠っているという。いずれ実験が再開された後、オルタはどんな進化を見せてくれるのだろうか。(担当:情報工場 安藤奈々)

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2017年3月のブックレビュー

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