2017年3月の『押さえておきたい良書』
人工知能(AI)の発達により、2045年頃には機械が人間の知能を超えるのではないかという「シンギュラリティ問題」が、多くの議論を呼んでいる。だが、そもそも人間と機械には、どんな違いがあるのだろうか? それは、突き詰めて考えると「生命とは何か?」という究極的な疑問に至る問いでもある。
本書『人間と機械のあいだ』では、そんな壮大な問いに迫っていく。ALIFE(Artificial Life=人工生命)を研究する池上高志氏と、ロボット(アンドロイド)を研究する石黒浩氏が、両者のコラボレーションによる「機械人間オルタ」の実験について各々論じるとともに、対話を行っている。
一見不気味な「機械人間オルタ」
機械人間オルタは、顔と手は人間と同じ形だが、その他の部分の機械はむき出しで、動きはランダム、言語ではなく単なる音声を発するというロボットだ。
これまで石黒氏は、アンドロイドに生命感をもたせるために、いかに人間に似せるかを探ってきた。一方、池上氏の人工生命研究では、生命を抽象的で数学的なものと捉える。例えば、電気回路、ロボット、コンピュータのプログラムなど、どこにでも生命がありうると考える。
オルタの実験は、池上氏が目指す「見た目によらない生命性」と、石黒氏が追求する「見た目としての生命性」がどうクロスするのかを考えるものであった。オルタは完成発表の後、日本科学未来館で2016年7月30日から1週間展示された。
異なるアプローチから「人間とは何か」に迫る
石黒氏は、実験後の対談で、上記のように述べている。
生命を生み出すメカニズムを明らかにして、それから人間を説明しようとする池上氏。人間らしいロボット作りから始め、そのロボットの人間らしさを説明する石黒氏。そのアプローチの仕方は異なれど、実は二人の研究は、「人間とは何か」を探る同じゴールに向かっている。
オルタを共同開発することで、二人のアプローチがクロスしていった。石黒氏は、これまでに自分が作ってきたのとは違う、“人間に似ていない”ロボットを前に、似ていないが故に生命性が宿ることを感じとった。一方、池上氏は、展示されたオルタに子どもたちが話しかけているのを見て、オルタが人間性を宿しているように思えてきたという。他者と接することで獲得する人間性は、それまでの池上氏単独のアプローチからは見出すことができなかったものだ。
オルタは2016年11月に行われたシンポジウムを最後に、日本科学未来館で眠っているという。いずれ実験が再開された後、オルタはどんな進化を見せてくれるのだろうか。(担当:情報工場 安藤奈々)