2017年3月の『押さえておきたい良書』
現代において解決を迫られている社会問題やビジネスの課題は、いずれも複雑で状況の変化が激しいものばかりだ。一方、ちまたの人々のコミュニケーションは、すばやく、短いメッセージで行われる傾向が強まってきている。とりわけツイッターをはじめとするSNSや、LINEなどのメッセンジャーなどでそれが顕著だ。そのため、問題を解決するどころか、不正確な情報や誤解、妄想、それに基づく中傷や罵倒が飛び交う不毛なやりとりがまん延している。
現代では、時間をかけて正確な情報を集め、じっくりと思考を巡らす「熟考」が求められているといえる。本書『熟考する力』では、裁判官、検察官、弁護士などの法律家が日常的に用いている「法的思考(リーガルマインド)」を解説することで、ビジネスや日常生活において熟考し、正しい結論を導くためのヒントを提供している。
著者は、青山学院大学法学部教授で、同大学大学院法学研究科ビジネス法務専攻主任を務める。2015年4月に大学教授になるまでは弁護士として、税務訴訟、税務に関する法律問題を取り扱ってきた。
そもそものルールの目的に沿って判断する
これを文字通り解釈してみましょう。スマホを使ってLINEをする。インターネットで検索する。こうした音も立てずにまわりに直接迷惑をかけない行為であったとしても、「廊下で」の「携帯電話の使用」にはあたりますよね。そうすると、控えるべき行為になります。“(『熟考する力』p.58より)
上記のような解釈は「文理解釈」と呼ばれる。だが、この貼り紙のそもそもの目的は、図書館の静かな環境を守ることにあるはずだ。そうするとLINEなどの「音を立てない携帯電話の使用」は問題ないことになる。このように「なぜそのルールができたのか」を考えて解釈することを「目的論的解釈」という。
誰かがルールや決まりを守らないなどの問題が生じた際には、ただルールの字面を追うのではなく、そもそもそう決められた目的に遡って考えることで、不毛な言い争いが避けられるかもしれない。
一次情報を見た上で二次情報を参考にする
法律家は、訴訟等において事実認定を重視する。5W1H(いつ、どこで、だれがだれとの間で、何を、どのようにしたのか、それはなぜか)の一つひとつについて、確実な証拠をもとに、それが本当に事実かどうかを判断するのだ。
裁判では、当事者双方から主張が書かれた書面が裁判官に提出される。だが、それらの書面がメインの判断材料になることは、まずない。なぜならそれらは、提出者の主観をもとに解釈されたり加工された可能性のある「二次情報」だからだ。
法律家は必ず「一次情報」にあたる。それは、物証や第三者の証言などの確実な証拠に裏づけられた情報を指す。当事者の主張という二次情報を見てから、証拠に基づく一次情報で補強するのではない。逆に、最初に一次情報を吟味してから二次情報を参考にする、というのが法律家による熟考の流れなのだという。
私たちもネットなどで情報を得る際に、それが一次情報と二次情報のどちらに近いかをしっかり見きわめるべきだろう。そして法律家にならい、一次情報に近い方を優先して判断材料にする。二次情報は参考程度にとどめておくのが賢明だ。(担当:情報工場 吉川清史)