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2017年4月の『押さえておきたい良書

アイデア大全

「新しい考え」が次々と生まれる42の発想ツール

『アイデア大全』
 -創造力とブレイクスルーを生み出す42のツール
読書猿 著
フォレスト出版
2017/02 335p 1,700円(税別)

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 新商品の企画からトラブル対応まで、ビジネスにおいて新しいアイデアや、現状を突破できるようなアイデアが必要とされる場面は多い。本書『アイデア大全』は発想のための創造力を刺激する古今東西のツールを、有名なものから、知る人ぞ知るマニアックなものまで、42個集めたものだ。心理学や行動科学、芸術、文学、哲学、心理療法、宗教、呪術など多くの分野にまたがっている。
 著者は、『読書猿 Classic:between/beyond readers』という書評ブログを主宰する謎の人物。ペンネームは博覧強記の読書家を自負するところから来ているが、読書“人”ではなく“猿”としているのは「読書人や読書家には遠く及ばない浅学の身」という謙遜の表れである。

有史以来の「占い」と同じ技法である「ランダム刺激」

 本書は、各発想法にレシピ(手順)とサンプル(具体例)、著者によるレビュー(解説・分析)がつくという構成をとっている。単なるノウハウにとどまらず、その底にある心理プロセスや、歴史や思想上の背景にまで踏み込んでいるのが大きな特徴だ。
 たとえば「偶然を読む」という章にある「ランダム刺激」という技法。そのレシピは下記のように紹介されている。

“(1)問題とは無関係な刺激を選ぶ。
 ◎周囲の物音あるいは目に映るもの。
 ◎注意を引くもの。
 ◎デタラメに開いた辞書や本や雑誌や画集や写真集のページ。
 ◎Wikipediaのお好み検索。
 ◎投げたサイコロや算木。
 ◎ランダムに引いたタロット。
(2)刺激を受け取る。
(3)刺激と問題を結びつけて、自由に連想する。
(4)(2)~(3)を必要なだけ繰り返す。”
(『アイデア大全』p.49より)

 この技法は、偶然を活用するという点で、有史以来世界各地で行われてきた「占い」と同じだと、著者は指摘する。デタラメに開いた書物からランダムな刺激を受け取るのは「開典占い」として古くから知られているという。キリスト教徒は聖書を用い、日本でも百人一首が使われてきた。
 ヒトの認知能力には限界があり、ランダム刺激はそれを超えた問題解決や意思決定をする最善の、場合によっては唯一の方法とのことだ。「セレンディピティ(偶然によって価値あるものを見つけること)」という単語が一般的になってきたことからわかるように、ランダム刺激は最古の創造技法でありながら、現代にも通じる普遍的なテクニックといえるのだ。

着想を増やす9問に答える「オズボーン・チェックリスト」

 「視点を変える」という章には、会議の手法としてよく知られる「ブレインストーミング」の生みの親であるアレックス・F・オズボーン(1888-1966)が開発した「オズボーン・チェックリスト」が紹介されている。
 具体的には、既存のアイデアや成功例などを元に、次の9通りの質問に答えていくというものだ。「他への転用は?」「他のものへの応用は?」「変更したら?」「拡大したら?」「縮小したら?」「代替したら?」「再配列・アレンジしたら?」「逆転したら?」「結合させたら?」
 たとえば「他への転用は?」という問いに答えることで成功した商品に、任天堂のゲーム&ウォッチがある。これは、需要が頭打ちになった電卓の液晶の「他への転用」である。また、エスカレーターは「逆転したら?」の答え。人間が階段を上がっていた、の主観を逆転させ、階段自体が動くようにした。
 私たちは最初の思いつきや、何気なく見かけたものに、知らず知らずのうちに影響を受けがちだ。オズボーン・チェックリストは、強制的にその影響力を振りほどき、観点を増やすことで発想のチャンスをつくるツールだ。(担当:情報工場 宮﨑雄)

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2017年4月のブックレビュー

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