2017年5月の『押さえておきたい良書』
これからますます複雑化、多様化するであろう世界に対応するために、さらなるグローバル人材の育成が急務であることは間違いないだろう。そうした思惑から文部科学省が2018年度から小学校での英語教育義務化に舵(かじ)を切るなど、日本の教育現場は大きく変わりつつあるようだ。
だが、英語力強化だけでは、世界で活躍できる人材は育てられない。語学力以外に、論理的思考力や、発想力、表現力といった幅広い能力を育まなければならない。本書『世界で大活躍できる13歳からの学び』では、初等中等教育の段階からそれらの能力を獲得させる教育実践を紹介。それとともに、将来世界に羽ばたく子どもたちに必要な「本当の学び」とは何かを論じている。
著者は工学院大学附属中学校・高等学校の英語科教諭と同中学校教頭を務める。2016年に「グローバル・ティーチャー賞」のファイナリスト10人に選ばれた現役教師だ。同賞は「教育界のノーベル賞」とも呼ばれる権威ある賞で、日本人がファイナリストに選ばれたのは著者が初めてである。
レゴブロックで思考を「見える化」する
著者の授業の特長の一つは、生徒同士に話し合わせて、考えさせ、発表させるというスタイルをとることだ。その際に、玩具の「レゴブロック」を用いることがある。
たとえば気候や気温を表現する英語を学ぶ授業では、生徒に世界の住居について調べるよう指示する。生徒たちをいくつかのグループに分け、それぞれに、ある地域の気候のデータのみを与える。そのデータを元に自主的に調べさせ、地域に合った住居の形などを考え、実際にレゴブロックで作ってもらう。
レゴブロックで形にすることで、生徒たちが考えた結果が「見える化」する。それを、本やネット上にある実際の住居の画像と見比べると、違いがはっきりと分かる。どの情報が欠けているのかが一目瞭然となり、理解が深まるのだ。
この手法は構築主義という、マサチューセッツ工科大学(MIT)のシーモア・パパート教授が編み出した教育実践に沿ったものだそうだ。手を動かしてブロックを組み立てることで、知識が整理できる効果もある。
大切なのは「何をどのように考えたか」
また著者の授業では、教科書の範囲が終了した後に、テーマを拡大して、生徒によるさらなる探求活動を行うこともある。本書で紹介されている事例では、教科書で「英語を学ぶ大切さ」を理解した上で、人間の「ことば」そのものについて考えている。日本語と英語の発音や文法の構造を学んだ上で「チンパンジーは言葉を理解できるか」というテーマで探求活動を行ったのだ。
こうした探求活動で重要なのは「学んだ内容」ではなく、「何をどのように考えたか」。知的好奇心を刺激する学びの中で考え抜いた経験が、生徒たちのこれからの人生に必ず役立つと、著者は信じているのだ。(担当:情報工場 宮﨑雄)