2017年6月の『押さえておきたい良書』
1960年代から80年代にかけて日本の電機産業は、半導体や大型コンピュータを中心に著しい成長を遂げた。一時はアメリカ勢を追い越しナンバーワンの座を奪った。
しかし90年代以降に低迷する。マーケットや技術の変化、そしてアメリカ勢の反攻や新興アジア勢の猛攻についていけなくなったのだ。
だが電機以外に目を向けると、日本企業が世界トップクラスのシェアを確保し、高収益を上げ続ける業界も存在する。
本書『日本の電機産業 失敗の教訓』では、それらの優良企業や業界と大手電機メーカーの「失敗」の比較分析などから、日本の電機産業が弱体化した原因を明らかにしている。そして再び日本の電機産業が世界でトップを狙う方策を具体的に提言する。
著者は、株式会社産業創成アドバイザリー代表取締役。日本の電機メーカーにおける技術者としての勤務経験と、アナリストとして外資系証券会社で電機産業全般と半導体業界を俯瞰(ふかん)してきた見識がある。
各社の「選択と集中」と業界再編がカギ
そうなると、自分の代でつぶすようなことは絶対にできないということで、今後も100年、200年続く企業をいかにしてつくっていくかと考える。すると、専業では不安になる。(中略)
その恐怖感が逆に攻めの気持ちにつながる場合もあるが、恐怖感があると、できれば複数の事業の柱を持ちたいと思うものだろう。いわゆる「経営の多角化」だ。”(『日本の電機産業 失敗の教訓』p.88-89より)
上記引用のような理由から、日本の電機メーカーは軒並み多角化し、10社もの総合メーカーがしのぎを削ることになる。
しかし著者は、世界でトップシェアを誇る企業は、総合メーカーではなく専業メーカーが多いことを指摘。世界で勝負するには、競争力を発揮できる分野への「選択と集中」を行った方がいいということだ。
そして、業界全体を浮上させるには、横断的に事業を再編し、リソースを集中させるべきだとも主張する。
こうした考えに即して著者らは、ソニー、東芝、日立の中小型液晶ディスプレー事業の統合を提案した。産業革新機構が約7割、残りの約3割を3社が均等に出資し、2012年に株式会社ジャパンディスプレイ(JDI)が誕生する。
日本型企業経営からの脱皮などを地道に進めるべき
著者は、日本企業が世界市場で生き残るのに、選択と集中や業界再編だけがカギではないことも強調する。品質や信頼性を重視し、変化を嫌う「日本型企業経営」からの脱皮、変化に対応できる人材の育成や、起業家精神をもった企業カルチャーの醸成、そして長期的な視点と的確な判断でスピーディーに事業を推し進められる経営者の育成なども不可欠だ。
しかしJDIでも、これらすべてができているわけではない。著者は、とくに起業家精神をもった企業カルチャーの醸成が不十分だと指摘する。それが現状では業績の足を引っ張っているのだ。JDIを含め、日本の電機産業が復活するためには、地道に一つ一つ変革を進めていくしかない。(担当:情報工場 浅羽登志也)