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2017年7月の『視野を広げる必読書

『ありえないレベルで人を大切にしたら23年連続黒字になった仕組み』

10年以上離職率ほぼゼロ! 高モチベーションのプロフェッショナル集団を作る秘訣とは?

『ありえないレベルで人を大切にしたら23年連続黒字になった仕組み』
近藤 宣之 著
ダイヤモンド社
2017/03 268p 1,500円(税別)

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会社の成長・発展は「モチベーションが10割」

 数年前、今とは違う職場にいた時のことだ。私はマネジャーに就任し、メンバー15人のチームを前任者から引き継ぎ、率いることになった。

 マネジャーとして今以上にチームのパフォーマンスを向上させよう、それにはまず、個々のメンバーのモチベーションを高めなければならないと思った。なぜなら、前年の全社員を対象にした調査の結果から、このチームのメンバーは平均的にモチベーションが低い傾向にあると思われたからだ。

 初対面のメンバーも多かったから、彼らとどのように信頼関係を築き、モチベーションにつなげるか、初めてマネジャーになった私は頭を悩ませた。定番の「飲みニケーション」を図ろうとしたが、なかなか飲み会に参加してもらえない。個別面談を行い、単刀直入に「(上司として)私にどうしてほしい?」と聞いてみたが、具体的な希望は出てこない。どうすればいいか皆目見当がつかず、悪戦苦闘の日々が続いた。

 当時の悩める自分が、もし本書『ありえないレベルで人を大切にしたら23年連続黒字になった仕組み』と出合えていたとしたら、あれほど苦しまずに済んだかもしれない。

 本書の著者、近藤宣之氏は株式会社日本レーザー代表取締役社長。日本電子株式会社で取締役米国法人総支配人などを歴任した後、1994年に、債務超過に陥っていた子会社の日本レーザーの社長に就任した。就任して1年目から黒字化に成功し、2年目に累積赤字を一掃。以降23年連続黒字を続けている。また、10年以上にわたり、社員の離職率がほぼゼロであるという。

 近藤氏は自らの経験から、企業を成長させるのに必要なのは「社員のモチベーションが10割」と断言する。本書では、近藤氏が日本レーザーで導入した、社員のモチベーションを高めるさまざまな仕組みやメソッドをあますところなく紹介している。

 もちろん日本レーザーの成功例が、すべての会社に適用できるとは限らない。また、社内で仕組みづくりの意思決定ができる立場にはない読者が大半だろう。だが、本書には、かつての私のように部下のモチベーションについて悩む、あるいは人事施策を担当するビジネスパーソンの考え方や行動のヒントもちりばめられている。

部下と向き合いモチベーションの源泉を知る「今週の気づき」

 近藤氏が導入したある仕組みからは、部下のモチベーションを高めるには「前提」があることがわかる。それは、「上司が個々の部下と向き合う」ことだ。当たり前のように思えるかもしれないが、実際にはしっかりと向き合えていない上司が多いのではないだろうか。

 部下と向き合い、まっとうなコミュニケーションを取ることで、おのおのモチベーションの源泉を知ることができる。モチベーションの源泉は、職種、年代、性別などの個人の属性、生い立ちやキャリア、性格によってそれぞれ異なる。お客様からの感謝が一番のやる気になるという人もいれば、仕事自体の面白さや、職場の人間関係重視の人もいるだろう。

 では、具体的にどのようにそれらを引き出すか。参考になるのが、近藤氏が日本レーザーで2007年に導入した「今週の気づき」だ。これは、全社員が毎週末(原則金曜夜)までに、「その週に自分が気づいたこと」について、上司や担当役員宛てのメールで報告する、という仕組みだ。受け取った上司・担当役員は必ず返信しなければならない。

 今週の気づきは、とくにトラブルに見舞われた時に効力を発揮するという。人が気づきを得るのは、トラブルに遭遇し、それに対処した時が多いからだ。社員は今週の気づきで「どのようなトラブルがあったか」「そのトラブルに対し、どう対処していくのか」を報告。上司はそれに対しフィードバックする。こうしたプロセスを通じて上司は、それぞれの社員がどのような日常を送り、何を考えているかを把握できる。そしてそれをもとに各自のモチベーション・レベルや源泉を探ることができる。

 さほどの手間も時間も費用もかからず、面談の時間を合わせる必要のないこの仕組みは、自分の仕事だけでも大わらわなマネジャーに、部下について詳しく知る絶好の機会を与えてくれる。もっと詳しく聞きたい、あるいは疑問をもったことが発生した場合のみ、面談の機会を作ればいい。

 冒頭に書いた、前職の新米マネジャーだった私のケースでは、まず、いきなり飲みニケーションをしようとしたのはハードルが高かったのだろう。若い世代は、ただでさえよく知らない人との対面コミュニケーションを嫌がる傾向にある。

 それから、上司である私にどうしてほしいかを尋ねるのではなく、自分が「こうしたいと思っている」と語り出すように仕向けるべきだった。今週の気づきでトラブルへの対処法を、まず部下自身が考えるように。

「成果が出れば人と働き方が違ってもいい」という原則

 近藤氏は、日本電子の先輩で、日本デルコンピュータ会長だった吹野博志氏に学んだ「SOFT」というコンセプトを、日本レーザーにおける理想的な職場のイメージとしている。SOFTとは、以下の8の言葉(要素)を二つずつにくくり、四つの頭文字をつなげた造語である。

(1)SPEED/SIMPLE
仕事を先送りせずにすぐに反応する、打てば響く職場。また、社員の自主性、スピードを損なわないように、組織構成やルールをシンプルにする。

(2)OPEN/OPPORUTUNITY
異質な人、立場の違う人を受け入れる風通しのよさ。性別、国籍などを問わずに、誰にでも平等に機会を与える。

(3)FAIR/FLEXIBLITY
人事評価基準を明確にして公正さにこだわる。前例主義にとらわれず、柔軟に対応する。

(4)TRANSPARENCY/TEAMWORK
情報をブラックボックス化せずに社内の風通しをよくする。個人主義ではなくチームで仕事をする。

 (3)の「FAIR/FLEXIBLITY」について、日本レーザーでは「成果が出ていれば、働き方が他者と違ってもかまわない」という原則を掲げている。その上で、「パート社員(1日4時間までの勤務)」「嘱託契約社員(1日6~8時間までの勤務)」「正社員(1日8時間勤務)」などの多くの雇用形態の中から、社員個々の事情に応じて柔軟に選択できるようにしている。

 たとえば、子どもがまだ幼く手がかかる時期にはパート社員、手がかからなくなってきたら嘱託契約社員として働くといったことも可能だ。誰でも公平に、自由に働き方を選べるのであれば、気がねなく育児と仕事を両立しやすいだろう。さらに、同じ得意先や業務に2人ずつ担当をつけるダブルアサインメントという仕組みも導入している。この制度を利用すれば、子どもが突然発熱するなどの事態にも柔軟に対応できる。

トラブルの報告も「笑顔」で聞く習慣が部下の心を開く

 上記のような会社全体の仕組み以外に、部下のモチベーションを高めるのに個人のレベルでできることはないのだろうか。

 近藤氏が勧めるのは、とてもシンプルにできることだ。「笑顔」である。部下からの良い報告は笑顔で聞く。トラブルなどの報告でも、まずは笑顔で聞く。そうすることで部下は、言いづらいことも言えるようになるだろう。トラブルに対して上司が厳しいことを言わなければならないこともあるが、それは、まず話を聞いてからのことだ。こうした習慣がつけば、社内の空気も改善されるはずだ。

 再び新米マネジャーだった私のケース。今から思えば、私には笑顔がなかった。マネジャーになりたてで余裕がなかったのだ。面談の時も、きっと緊張した面持ちで、怖い印象を与えていたのかもしれない。それでは部下が心を開いて自分の話ができるわけがない。

 私の轍(てつ)を踏まないように、まず意識して笑顔を心がけ、部下が話をしやすい雰囲気を作るのが重要だろう。それが部下のことを知る第一歩になり、コミュニケーションを密にしてモチベーションを高める結果につながるはずだ。(担当:情報工場 足達健)

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2017年7月のブックレビュー

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