2017年7月の『押さえておきたい良書』
日本の職場環境や雇用の仕組み、働き方が大きく変わりつつある。働く人、とくに若い労働者の意識も以前とは違うものになってきており、上司と部下の関係性もおのずと変化せざるを得ない。こうした変革の時代に、より良い職場環境をつくり、いかにチームで成果を上げていくかを、部下と上司両方の立場から論じるのが本書『いらない部下、かわいい部下』だ。
本書では、著者自身の経験や、著者の交友関係の範囲内でのさまざまな年代のビジネスパーソンへのインタビューをもとに、「上司から選ばれる部下の条件」「上司が〈いらない〉部下と〈かわいい〉部下を見極めるための条件」を探る。さらに最終章では「副業」も考慮に入れた新しい会社員の働き方について考えを述べている。
著者はアジア・ひと・しくみ研究所代表取締役を務める経営コンサルタント。アーサーアンダーセン(現KPMG)、同ビジネススクール責任者、医療・IT系ベンチャー企業役員を経て独立。大企業向けの人事コンサルティングから起業支援まで幅広い活動を展開している。
これからの企業には「強い個人とチーム」が必要
ひとつに、企業の成功モデルが変わったことが挙げられる。
これまで、日本企業の成功は個の力ではなく組織の力によりもたらされた。(中略)
だが、いまは違う。日本企業の勝ち残りは、強い個と強いチームが生み出す圧倒的な成果やクリエイティビティ、リーダーシップにますます委ねられるようになったのである。”(『いらない部下、かわいい部下』p.10より)
上記引用のように、著者は、これからの日本企業は「強い個人とチームの存在」がなければ成長できないことを前提に論を進めている。「和して勝つ」ではなく「勝って和す」。すなわち、従来の日本企業は、一人ひとりの実力が不足していても、統率の取れた組織があれば集団として勝負できた。しかし今後は、個々の社員やチーム単位であらかじめ実力を備えており、それらを合わせることでさらなる成果を上げていかなければ、競争に打ち勝つことはできない。
それならば、実務能力が十分でないのに上司にすり寄る“腰ぎんちゃく”のような部下は「いらない」ことになる。求められるのは、チームの成果や上司のキャリアに貢献できる実務能力とポテンシャルがあり、さらにそれを磨こうとする部下だ。
著者は「健全なイエスマン」と表現しているが、基本的には上司の方針や指示に従うものの、必要とあらば上司にも議論をしかけ、時に毅然と苦言を呈するような部下を理想とする上司は多いのだという。それが許されるまでの信頼を勝ち得るために、上司の懐に積極的に飛び込んでくる部下こそ「かわいい部下」なのだ。
「ノリ」が合わなければ他の上司や会社を探すべき
さらに著者は、かわいい部下と認識されるための条件の一つに「会社のノリと上司のノリを把握すること」を挙げている。ここでいうノリとは、会社や上司が大事にしている仕事上の価値観を指す。
当然ながら職場のノリは個々の会社や上司によって異なる。著者は、部下の立場から「ノリが合わない」と感じたら、無理に合わせる必要はない、と説く。合わないことを悩むよりは、ノリの合いそうな会社や上司を探すことを勧めている。
本書は、単に職場の人間関係を改善することで「何とかうまくやっていく」やり方を指南するだけの書ではない。一人ひとりが周りを味方につけながら主体的にキャリアを築いていく勇気を与えてくれる一冊といえるだろう。(担当:情報工場 安藤奈々)