今月の『押さえておきたい良書』

「テロメア」という言葉を聞いたことがあるだろうか。テロメアは、人間ならば誰でも体内に持っている。
人体を構成する細胞が分裂する際に、紐(ひも)状の染色体が現れる。染色体は遺伝情報をつかさどり、その両端は鞘(さや)状のタンパク質で覆われている。その覆われた部分がテロメアだ。
近年、このテロメアが人体の老化現象に深く関わっているとして研究が進められている。本書『細胞から若返る! テロメア・エフェクト』では、最新の研究成果を踏まえながら、テロメアの仕組みと働きについて詳しく解説。そして、テロメアの性質を使って若々しく健康的な人生を送る秘訣を紹介している。
著者のエリザベス・ブラックバーン氏は分子生物学者で、2009年に2人の共同研究者とともに、テロメアの分子的性質を発見した功績などでノーベル医学生理学賞を受賞した。エリッサ・エペル氏はカリフォルニア大学サンフランシスコ校精神医学科教授、同大学の老化・代謝・感情(AME)センターおよび肥満研究センター(COAST)の所長で、健康心理学の第一人者として知られる。
靴紐のほつれを防ぐキャップの役割
テロメアは塩基対というDNAの長さの単位で計測され、ちょうど靴紐のプラスチックキャップのような働きをする。つまり、染色体の末端に小さなキャップを形成し、遺伝物質(DNA)がほどけるのを防いでいるのだ。”(『細胞から若返る! テロメア・エフェクト』p.24-25より)
人体は細胞分裂を繰り返すことで臓器を正常に機能させるとともに、顔や肌などの若々しさを保つ。細胞が分裂する際、もしテロメアがなかったら、DNAの集合体である染色体がばらばらにほどけ、DNAが壊れる恐れがある。DNAの損壊は細胞の機能不全や細胞死につながる。テロメアは、細胞分裂に伴うリスクから染色体を守っているのだ。
ところが、細胞分裂を繰り返すたびに、テロメアはすり減っていく。そしてその結果、テロメアがあまりにも短くなると、細胞は分裂を止める。それは、先端のほつれた靴紐が使い物にならず捨てられてしまうようなものだ。分裂が止まった細胞が多くなると、さまざまな老化現象があらわれてくる。
ストレスがテロメアの長さに影響
テロメアの長さを維持し、細胞分裂を阻害しないようにすることが、老化への対抗策になる。しかし、私たちの生活には、テロメアがすり減るのを加速するさまざまな要因が存在する。なかでもストレスの影響は重大だ。
著者の1人であるエペル氏は、慢性疾患児の母親を対象に、白血球のテロメアを調べた。すると、子どものケアにストレスを感じている母親ほどテロメアが短かった。その一方で、同じ境遇にありながらストレスを感じていない母親もおり、彼女たちのテロメアは長いままだったという。
すなわち、ストレスは確かにテロメアを短くさせるが、ストレスフルな境遇そのものが悪影響を及ぼしているのではない。どんな時もストレスを感じづらい心を育てることが、テロメアの長さの維持や、老化防止につながるのだろう。(担当:情報工場 安藤奈々)