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今月の『押さえておきたい良書

『ドキュメント 金融庁VS. 地銀』-生き残る銀行はどこか

地方を“消滅”の危機から救う金融庁と地銀の挑戦

『ドキュメント 金融庁VS. 地銀』
 -生き残る銀行はどこか
読売新聞東京本社経済部 著
光文社(光文社新書)
2017/05 237p 760円(税別)

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 銀行、とくに地方銀行(地銀)は私たちの生活に身近な存在だろう。地元企業を支え、地域の経済を活性化する大事な役割も担っている。そんな地銀を、ひいては地方全体を元気づけるために、中央官庁である金融庁が改革に本腰を上げているのをご存じだろうか?

 2017年3月に金融庁が発表した「金融検査マニュアルの抜本的見直し」が波紋を広げている。金融検査とは、金融庁による金融機関の業務や資産内容などを調べる立ち入り検査。その金融検査で十数年来活用されてきたルールブックが、金融検査マニュアルである。それを抜本的に刷新するのは、日本の金融の方向性が、大改革にかじを切ることを意味する。

 本書『ドキュメント 金融庁VS. 地銀』では、そうした大改革の背景にある日本の金融機関、とくに地銀が直面する危機を明らかにしながら、金融庁の狙いとそれを受け止めた金融機関の対応をリポート。金融行政の幅広いテーマを扱いつつ、金融庁と地銀双方の挑戦を追っている。

 なお、本書は読売新聞のシリーズ記事「かわる金融」を加筆修正の上、書籍化したものだ。

不良債権問題のせいで地銀がリスクを取らなくなった

 金融検査については、今回の抜本的見直しに先立つ2013年に方針が変わっている。新しい方針を打ち出したのは、現在の森信親・金融庁長官だ。当時は同庁検査局長だった。森局長(当時)は、地銀の将来に強い危機感を抱いていた。地銀の収益がおしなべて減少していたからである。

 本書では、その理由を次のように説明している。

“地銀を今苦しめているのは、不良債権問題の後遺症だ。リスクを恐れて担保や保証に頼る融資を続けてきた結果、取引先の成長性を見極めて融資する「目利き力」が衰えてしまったと金融庁はみている。融資先を発掘できなければ、他行も狙う優良企業に融資するしかない。金利の低さでしか勝負できず、これが収益力の低下を招いている。”(『ドキュメント 金融庁VS. 地銀』p.5より)

 1990年代前半のバブル崩壊で、多くの地銀は大量の不良債権を抱えた。そのために、銀行は不動産担保などによるリスクの少ない融資先を優先するようになる。そうして安易な判断に慣れた銀行から、企業の成長性をもとに融資判断をするための目利き力が失われた、というのが上記引用の意味するところだ。

 つまり金融庁は、目利き力を取り戻し、地元企業の事業内容を深く理解した上で融資する先を増やすことこそ、地銀が生き残る道だと考えている。

名産のニシキゴイを担保に融資を行う北越銀行

 数ある地銀の中には、すでに目利き力を存分に発揮しているケースもある。たとえば新潟県長岡市に拠点を置く北越銀行だ。同行はなんとニシキゴイ(錦鯉)を担保に融資を行っているのだ。

 長岡市には日本屈指のニシキゴイの生産地がある。ニシキゴイは「泳ぐ宝石」と呼ばれ、海外の愛好家も増えている。北越銀行の発想は、そのニシキゴイを担保に養鯉(ようり)場に資金を貸し付け、地場産業を盛り上げよう、というものだ。

 この事例のように、地銀は、生産設備や在庫、売掛金、商品などを担保にする「動産担保融資(ABL)」に注目するようになってきている。地方の中小企業は、所有する不動産などの価値が低いことが多く、そうした資産を担保にした融資を受けにくい。そのため、金融庁も地銀にABLの積極活用を勧めている。担保の種類を増やすことで、融資先や融資機会が増える。それが、地域経済の活性化につながっていくのだ。(担当:情報工場 安藤奈々)

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