1. TOP
  2. これまでの掲載書籍一覧
  3. 2017年8月号
  4. みんなの朝ドラ

今月の『押さえておきたい良書

『みんなの朝ドラ』

あらゆる世代を夢中にさせる「朝ドラ」の魅力を徹底解剖

『みんなの朝ドラ』
木俣 冬 著
講談社(講談社現代新書)
2017/05 304p 840円(税別)

amazonBooks rakutenBooks

 「歌は世につれ世は歌につれ」とは「ある時代に流行した歌はその時代の世相を反映したものだ、またその世相もその時代の歌の影響を受けている」という意味の慣用句だ。これは、歌だけでなく、長く続くテレビドラマシリーズにも当てはまる。そう聞いて、パッと思いつく番組は何だろう。そう、NHKの「朝ドラ」だ。

 NHKで現在は月~土曜日の朝8時から15分間放送されている朝ドラ(正式名称は「連続テレビ小説」)は1961年に第1作が作られ、2017年7月現在、第96作『ひよっこ』が放送されている。50年以上にわたり日本の世相を映し続けている、超長寿ドラマシリーズだ。

 本書『みんなの朝ドラ』では、そんな朝ドラについて、歴史や作風の変遷、その時々の社会との関わりなどを概観。その上で、『ゲゲゲの女房』『カーネーション』『あまちゃん』『ごちそうさん』『あさが来た』など、2010年代の作品を中心とする作品群を、それぞれ1章を割いて解説している。著者は主にドラマ、演劇、エンタメ作品に関する記事を手がけるフリーライター。

朝ドラの定番は“女の一代記”と“戦争”

 朝ドラを語る上で第31作『おしん』(1983年)の存在は無視できないだろう。平均視聴率52.6%、最高視聴率62.9%。当時の日本人の半分以上をテレビにくぎ付けにした、朝ドラの絶対王者だ。

 『おしん』は、今でも朝ドラの一般的なイメージである“女の一代記”の典型だ。しかし、朝ドラは最初から女の一代記路線を主流としていたわけではない。初期は“家族のドラマ”だった。現在に至る朝ドラのイメージをかたちづくったのは、第6作『おはなはん』(1966年)で、明治、大正、昭和を駆け抜けたヒロインが人気を博した。

 また、現在までに放送された96作の朝ドラのうち、30作以上が第2次世界大戦をストーリーに織り込んでいるという。戦争という苦難にもけなげに立ち向かい、前進していくヒロインの姿を描くのが朝ドラの定番ともいえる。そんな、いやがおうでもドラマチックになるパターンを多用しながら、朝ドラはシリーズを重ねてきたのだ。

楽しみ方が変化した朝ドラ

 草創期の朝ドラの主な視聴者は、家事の合間などに、時計代わりにテレビを見る専業主婦だった。しかし女性の社会進出が進み専業主婦が減ったこともあり、一時期は視聴率が低迷。だが2010年代に入り、新しい視聴者層も取り込んだことで人気が再燃する。

 第82作『ゲゲゲの女房』(2010年)は、『ゲゲゲの鬼太郎』を描いた漫画家・水木しげるの妻によるエッセーが原案の作品だ。劇中に鬼太郎をはじめとする水木漫画のキャラクターが登場したこともあり、漫画好きな人たちにも見られるようになった。
 ドラマに出てくる登場人物の似顔絵を描いてツイッター上にアップする(『ゲゲゲの女房』では「ゲゲ絵」と呼ばれた)など、これまでになかった遊びが自然発生したのも本作だった。

 第88作『あまちゃん』(2013年)では『池袋ウエストゲートパーク』『木更津キャッツアイ』など民放の人気ドラマを手掛けた宮藤官九郎が脚本を担当した。若者やマニアックな視聴者を獲得し、ゲゲ絵と同様のイラスト(あま絵)をはじめとするツイッターへの投稿はもちろん、ファッション誌やカルチャー誌でも大きく取り上げられるなど、社会現象といえるまでに発展した。

 著者は、朝ドラ人気が復活した要因の1つに「1人なのに、みんなで楽しむ」スタイルが確立されたことを挙げる。「茶の間」がほぼ死語になり、テレビは自室で1人で見るものという考えも浸透した現代。朝ドラは、ツイッターなどのSNSを介して、“志”を同じくする多くの人たちとシェアできるコンテンツとして受け入れられるようになったのだ。(担当:情報工場 宮﨑雄)

amazonBooks rakutenBooks

今月のブックレビュー

情報工場 読書人ウェブ 三省堂書店