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2017年9月の『視野を広げる必読書

『多動力』

ホリエモンはなぜロケットを飛ばすのか? 不確実な時代を泳ぎきるマルチな“越境者”になるには

『多動力』
堀江 貴文 著
幻冬舎
2017/05 226p 1,400円(税別)

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IT業界の寵児(ちょうじ)だったホリエモンの新たな挑戦

 2017年7月30日、北海道のベンチャー企業であるインターステラテクノロジズが、自社開発の観測ロケット「MOMO(モモ)」を打ち上げた。「宇宙に届く」ことをめざした打ち上げだったが、発射80秒後に地上とMOMOの通信が途絶。地上からエンジンの緊急停止コマンドが送信され、ロケットは沖合8キロメートルの警戒区域内に着水した。

 インターステラテクノロジズには、ホリエモンこと元ライブドア社長の堀江貴文氏が創業者として資金提供をしている。同社は「世界中の誰よりも、小型で低価格のロケットをつくる」を合言葉に、日本初の民間単独宇宙到達をめざす志の高いベンチャーだ。

 10年以上ロケット開発を続けてきた同社にとって初めてだった今回の打ち上げを、「失敗」と報じたメディアも多かった。しかし直後の会見でインターステラテクノロジズ側は「(実際に打ち上げたことで)機体のデータがとれた」ことを強調し、堀江氏は「後継機を3カ月後に開発する」と非常に前向きなコメントを残している。

 ところで堀江氏=ホリエモンは、もともとIT業界の人。なぜ、いきなりロケット開発に一生懸命取り組んでいるのか、と不思議に思う人もいるだろう。そんな人は、本書『多動力』を読んでほしい。「仕事」に対する価値観が根っこから変わるかもしれない。

 堀江氏には現在、実業家、コンサルタント、プログラマー、作家、コメンテーター、クイズタレント、エンターテインメント・プロデューサー、飲食店プロデューサーなどなど、実にたくさんの肩書がある。そしてどの肩書でも、常識に一石を投じるような発言や行動でたちまち注目を集めることが多い。

 その堀江氏は、ライブドアの前身オン・ザ・エッヂの社長だった頃、当時普及し始めたばかりのインターネットが、ゆくゆくは全産業に行きわたるだろうと確信したそうだ。

 それから20年たった今、IoT(モノのインターネット)の動きが加速している。あらゆる産業のさまざまなモノがインターネットにつながり、相互に連携して動くようになってきている。それによって異なる業界のモノや情報が組み合わさり、これまでになかった新しい商品やサービスが生まれやすくなる。
 そんな時代には、業界を越えて活動できる「越境者」でなければ、新たな価値を生み出せなくなるのだろう。

 堀江氏は、そうした越境者に必要とされる力を「多動力」と呼んでいる。堀江氏自身が駆使するような、自分が興味のあることを数多く並行してこなす能力だ。

3つの肩書を持てば「100万人に1人」にもなれる

 堀江氏は本書で「1つのことをコツコツとやる時代は終わった」と言い切っている。下積みからコツコツと経験を重ね、その結果1つの偉大な成果を上げる、といったやり方は、もはや時代遅れだというのだ。

 最低でも3つの肩書を持つ。それがこれからの時代に自らの価値を向上させる極意だという。どういうことか。

 元リクルートの藤原和博氏は、何か1つのことに1万時間取り組めば、誰でも「100人に1人の人材」になれると主張している。それが正しいとすれば、ある分野の仕事に1日6時間取り組み、知識と技能を身につけていけば、5年後にはその分野で飛び抜けた存在になれる。

 だが、取り組めば取り組むほど右肩上がりで力がついてくるのか、というと、そうはうまくいかないようだ。よほどの才能がない限り、同じ分野の仕事にさらに1万時間かけても「1万人に1人の人材」とまでは、なかなかなれない。どこかで伸び悩むからだ。

 そこで「別の分野」に目を向けてみたらどうだろう。ある分野で100人に1人になれたら、違う分野の仕事に1万時間取り組む。そうして2番目の仕事でも100人に1人の存在になれたとしたら、最初と合わせて2つの分野両方にたけた人物になれる。その2つの分野のどちらでも100人に1人だったとしたら、単純な確率計算で、1/100 x 1/100 = 1/10,000となり、1万人に1人の人材になれる。

 さらにもう1つ別の分野の仕事に1万時間取り組めば、「100万人に1人の人材」になれる計算だ。日本の人口が1億人として100人しかいない超レアな存在となる。

 だが、ここで3つの仕事に1つずつ順番に取り組んでいくと、100万人に1人になるまで15年かかる。そこで3つを同時に取り組むのだ。そうすれば計算上5年で100万人に1人まで一気に到達できる。これが多動力の神髄だ。

 堀江氏によれば、多動力を発揮するには「自分の時間」を確保しなければならない。ここでいう自分の時間とは、自分がワクワクする活動ができる時間だ。それを確保するにはどうするか。ワクワクしない活動に割り当てる時間を、できる限り減らすしかない。

 自分の時間を奪う人とは付き合わない、割り切ってワクワクできる仕事のみをする環境を整える、などが多動力を発揮する秘訣だ。ワクワクしないけれども、やらなくてはいけない仕事はどうしたらいいか。他の人に任せればいい、というのが堀江氏の考え方だ。

 堀江氏は現在、ホテル住まいだ。ホテルならば、掃除洗濯炊事など一切の家事を自分でやらなくていい。また、ほとんどの仕事をスマートフォンでできるようにしている。いつでもどこでも仕事ができるため、無駄な、ワクワクしない時間を減らせることになる。

 服装に関して、堀江氏は結構おしゃれなイメージがある。だが、実は彼自身は服を選んでいないそうだ。堀江氏自身がワクワクしない服選びは、それが好きな友人に任せ、選んでもらっているのだという。

見切り発車でもまず一歩を踏み出すのが大事

 しかし「じゃあ、明日からホリエモンのまねをしてみよう」というわけには、なかなかいかない。普通の人が多動力を身に付けるには、何から始めればいいのだろうか。

 本書には「準備にかける時間は無駄である。見切り発車でいい。すぐに始めてしまって、走りながら考えよう」と書いてある。まずはここから実践してみてはどうか。

 「いつか~したい」とか、「準備ができたら~をしたい」などと夢を語る人は多い。でも、たいがいはそう言っているだけで、準備もしない人が大半だろう。それに、完璧に準備するのなんて不可能なのだから、不完全でも一歩踏み出す勇気をもつことだ。

 冒頭に紹介したMOMOの打ち上げにしても、完璧な準備ができるのを待っていたら、いつまでたっても打ち上げには至らなかっただろう。しかし、失敗を恐れず(もちろん失敗による損害や被害は最小限にした上で)1回でも打ち上げを実行すれば、その経験からしか得られない知見が手に入る。

 まずは1つでも2つでも、やりたいと思っていることをともかく実行に移してみるのがいいだろう。実行を繰り返すうちに準備は整っていくし、問題も解決されていくものだ。

 そうしてやりたいことを実行して、ワクワクできる時間を増やしていけば、おのずと、やらなくてもいいことが見えてくるはずだ。その時間を工夫して減らしていけば、多動力を発揮する時間が確保できる。

 堀江氏は、さらに本書の結びに「あれこれ考えるヒマがあったら、今すぐ、やってみよう!」と書き、行動を促している。何でもいい。1つでもいいからやりたいことを見つけ、小さな一歩を踏み出してはいかがだろうか。(担当:情報工場 浅羽登志也)

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2017年9月のブックレビュー

情報工場 読書人ウェブ 三省堂書店