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2017年9月の『押さえておきたい良書

『なぜ僕は、4人以上の場になると途端に会話が苦手になるのか』

“話せない”原因は脳? 思いがけないその対処法とは

『なぜ僕は、4人以上の場になると途端に会話が苦手になるのか』
岩本 武範 著
サンマーク出版
2017/05 205p 1,100円(税別)

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 同僚から「帰りに一杯どう?」と誘われて、1対1で飲みに行ったとしよう。相手との関係性にもよるが、そこでほとんど言葉を発しない、といったことはめったにないのではないだろうか。
 しかし大人数での飲み会となると話は別だ。話すことが思い浮かばなくなり、つまみに手を伸ばす間隔が短くなる。あいづちを打ったりするものの、気がつけば、ほとんど何も話していなかった……。そんな経験のある人は少なくないだろう。

 本書『なぜ僕は、4人以上の場になると途端に会話が苦手になるのか』では、そんな現象の理由を解き明かしている。それはコミュニケーション能力の問題ではない。「脳」の問題なのだという。本書では、3000億以上の人間の行動パターンを分析して得られた知見と、著者がこれまでに膨大な回数を実施してきた集団インタビューから導き出した、「4人以上いても話せるようになる」方法を解説している。

 著者はマーケター、行動分析士の肩書で活躍。鉄道会社でマーケティング業務に従事しながら、京都大学大学院で人間の行動パターンについて研究している。不幸にも愛娘が交通事故で脳を損傷したことがきっかけで脳について学び始めたという。

選択肢という刺激が多すぎると脳はパンクする

 著者によると、“複数人がいると話せなくなる”現象の原因は「脳のパンク」だ。

 米国のコロンビア大学で行われた実験に、商店のジャム売り場に陳列するジャムの種類の多寡による売れ行きの違いを調べたものがある。その結果、たくさんの種類のジャムを並べると、引き寄せられる客数は多かったが売れ行きは芳しくなかった。一方、種類を減らしたパターンでは逆に集客は減り、購入率が上がったという。

 この実験結果からは、人間の脳は選択肢が多くなるにつれ処理が追いつかなくなるのではないか、という説が立てられた。刺激が多すぎるがゆえに対応するのを諦め、「ジャムを選んで買う」という行動自体をやめてしまうのだ。

 著者は、この脳の法則が、会話にも当てはまるとしている。では、その“しきい値”、すなわち何人以上だと脳は処理を諦めてしまうのだろうか。著者が行った集団インタビューやワークショップの様子を観察すると、参加者が3人だと会話が弾むが、4人になると沈黙の時間が長くなることがしばしば見られたそうだ。こうしたことから著者は「4」という数字がポイントではないかと考えている。

手を握る、開くの繰り返し動作が発話を促す

 本書には「脳のパンク」を防ぐための具体的な方法がいくつか紹介されている。その1つが「会話の前に自分の手を握る、開くという動作を繰り返す」というものだ。

 この動作は、脳内の前頭葉という部位を刺激するのだという。前頭葉は発話をつかさどる(だから、人間の脳は他の動物に比べて前頭葉が大きい)。同時に前頭葉は手の動きともつながっている。それゆえ、手の動作がウオーミングアップになり、言葉が出やすくなるのだ。

 なお、この動作をする際に、「今、会話脳を刺激している」と強く意識して自分に言い聞かせるとさらに効果的だという。そうした思考が前頭葉を活性化し、相乗効果を生むからだ。

 本書では、この他にも会話のいろいろなパターンや場面を分析し、興味深い現象や対処法を紹介している。ぜひ活用し、「話せない人」からの脱出を目指してほしい。(担当:情報工場 宮﨑雄)

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2017年9月のブックレビュー

情報工場 読書人ウェブ 三省堂書店