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2017年10月の『視野を広げる必読書

『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』

日本の「100年後」に待っているのは地獄か天国か?

『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』
河合 雅司 著
講談社(講談社現代新書)
2017/06 208p 760円(税別)

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人がいなければ、企業も国も回らない

 15年ほど前のある年、私が経営に携わった企業の業績が一時的に悪化した。
 その時は、新卒採用数を大幅に減らすなどのコスト削減策で乗り切った。おかげで業績はすぐに回復したのだが、一時的にでも新人採用を抑えたのが後に影響を及ぼした。

 まず、新卒社員の配属がすべての部門に行きわたらなかった。当然、戦力が足りなくなる。さらに数年後、今度は管理職のなり手が不足した。一定の経験を積んだ世代がごっそり抜けているせいなのだ。つくづく組織は人がいないと回らないものと実感させられた。

 企業で一時的に人が減っただけでも苦労するのに、長期的に人が減り続ける日本という国は、いったいどうなるのだろうか。本書『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』は、その疑問への回答を試みている。

 著者の河合雅司氏は産経新聞社論説委員。人口政策、社会保障政策の専門家として大正大学客員教授も務める。内閣官房有識者会議委員、厚労省検討会委員、農水省第三者委員会委員、拓殖大学客員教授など歴任してきた。

 日本の少子高齢化が問題視されて久しい。だが、では将来日本の社会がどう変わるのかと聞かれて、具体的なイメージを示せる人は少ないのではないか。

 河合氏は、私たちの日常生活において人口減少の影響が見えにくいため、なかなかイメージできないのだと指摘。日々感じられる変化は小さく、つい少子高齢化のことを忘れ去ってしまう。しかし人口減少は今後、真綿で首を絞めるように日本の国民一人ひとりの暮らしをゆっくりと確実にむしばんでいくはずなのだ。

 河合氏は、2017年から2115年までの約100年間に何が起こるのかを時系列で示す「人口減少カレンダー」を作成している。これは総務省などの公的機関の統計データと、科学的手法ではじきだされた推計データから作成された「客観的な」未来予測図といえる。

 では、その未来予測図から、どのような日本の未来が見えてくるのだろうか。

このままでは人口が減少する日本の未来に希望はない

 日本はきわめて深刻な状況にある。日本の総人口の将来の減少具合を見るだけでもそれは鮮明だ。

 総務省によると、2017年3月1日現在の日本総人口は1億2675万5000人。それが本書によると、2115年には5055万5000人にまで減少する。約100年の間に、なんと半分以下になってしまうのだ。

 さらに、2016年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に出産する子供の数の推計値)は1.44だ。単純に考えれば、これを2.0以上にしなければ人口減少は止まらない。男女2人が子どもを2人以上もうけなければならないということだ。

 本書では、2020年に女性の過半数が50歳以上となり、出産可能な女性数が大きく減り始めるとも予測している。そもそも出産できる女性が減っては、出生率が多少増えたとしても効果がないかもしれない。

 出産可能な女性が増えなければ出生数を上げるのは難しい。出生数が増えなければ、出産可能な女性は増えない。まさに負のスパイラルに陥っている。

 人口減少が進むとどんなことが起こるのだろうか。著者の予測を見てみよう。

 2030年には生産年齢人口が極端に減る。これにより全都道府県の80%が生産力不足に陥る。さらに2040年には地方自治体の半数が消滅の危機に陥る。青森市や秋田市などの県庁所在地でさえそのような危機を迎えるというから驚きだ。

 生産力が減れば地方税収も減る。すると地方の百貨店や銀行、病院や老人ホームなどの生活を支えるためのビジネスやサービスが経営困難に陥り撤退していく。そうなると人が住みにくくなり人口減少が加速する。悪循環だ。
 首都圏も安泰ではない。東京都でも2025年には4人に1人、2045年には3人に1人が高齢者となるからだ。

 どうにか、もっと明るい未来への方向転換はできないものだろうか。

「小さくともキラリと輝く日本」になる処方箋とは

 本書の後半に「右肩上がりに人口が増加し経済成長を遂げた20世紀の成功モデルと訣別せよ」という著者の提言がある。

 今後少なくとも数十年、日本の人口は減少し続ける。その前提で今と同じ国家規模を維持するには、移民を大量に受け入れざるを得ないだろう。しかし、やみくもに移民を受け入れると、日本という国のアイデンティティーが失われる可能性もあると著者は危惧する。

 そこで求められるのが発想の逆転。規模の維持にこだわらず「小さくともキラリと輝く日本」へと積極的に移行すべき、というのが本書の主張なのだ。

 人口が減少しても、日本の良いところや強みを保ち発揮していけるように、著者は4つのキーワードを掲げる。「戦略的に縮む」「豊かさを維持する」「脱・東京一極集中」「少子化対策」だ。そしてそれぞれに分類された、具体的な「日本を救う10の処方箋」を示している。

 「戦略的に縮む」とは、無駄や過剰な部分を大胆に切り詰め、持続可能な豊かで小さな国を戦略的にデザインし直す考え方だ。

 たとえば、このキーワードに関する日本を救う10の処方箋の一つに「24時間社会からの脱却」というものがある。これは、過剰に便利なサービスを見直すことで不要な仕事をなくす案だ。宅配便大手のヤマト運輸が再配達の時間帯を見直して業務総量を抑制したり、ファミリーレストランの24時間営業店舗削減の動きなど、一部で取り組みは始まっている。

 過剰サービスをやめるだけでも、大幅な業務量削減につながるだろう。業務の量や労働時間が適切になれば、働き手の負荷が減り、健康が維持できるようになるのではないか。そうすれば医療費削減や、医療従事者の労働時間を減らすことにもなる。好循環だ。

 4つのキーワードの2つ目「豊かさを維持する」とは、豊かさを「量」から「質」へと捉え直し、質の維持に集中する方向性だ。

 このキーワードには「『匠(たくみ)の技』を活用」という処方箋がひもづいている。モデルはイタリアだ。かの国では、独自のデザイン力および技術力で、たとえ小さな村でも世界的シェアを獲得する製品が作り出されている。

 日本の各地方にも伝統工芸を支えてきた「匠の技」がある。この匠の技に最先端技術を組み合わせ「ジャパン・オリジナル」のブランドにできれば、日本の地方企業を「世界ナンバーワン」にすることも可能だろう。そうすれば、若者の流出もある程度食い止められるに違いない。

 「脱・東京一極集中」は、高齢者を東京をはじめとする大都市圏に集中させないことを意味する。

 大都市圏では医療・介護施設の整備が追いついていない。それよりも「中高年の地方移住促進」という処方箋にあるように、地方に、米国で普及しているようなCCRC(Continuing Care Retirement Community)を作り、定年後はそこへの移住を促す。CCRCとは、医療・介護施設をはじめとする高齢者向けのサービスを整えた地域共同体だ。米国では大学キャンパスに併設されることも多い。

 本書の、日本を救う10の処方箋はどれも具体的で、相互に関連し合いつつ、全体で人口減少問題を乗り切る戦略となっているところが興味深い。

 一例を挙げると、「中高年の地方移住促進」で、特殊技術を持った首都圏の中高年を地方に移住させ「『匠の技』を活用」を実現する、といった具合だ。

 人口減少の問題は、あらゆる業種の企業、そしてすべての国民が自分の問題として考え、行動しなければ解決できない。これからの日本の状況を正しく理解し、その上で今何をなすべきか。本書を片手に考えてみてはいかがだろうか。(担当:情報工場 浅羽登志也)

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2017年10月のブックレビュー

情報工場 読書人ウェブ 三省堂書店