2017年11月の『押さえておきたい良書』
「うちの会社、もっとこんなふうになればいいのに」。経営者でなくとも、心の中でそんなつぶやきをしたことがあるビジネスパーソンは多いに違いない。だが、自社の現状に問題を感じていたとしても「自分の立場では何もできない」と諦める人が大半なのだろう。
思い当たる人は、本書『ダークサイド・スキル』を開いてみてほしい。自分が属する組織をより良い方向にもっていくために何をすればいいか、そのヒントがきっと得られるはずだ。
本書で説明されているのは7つの「ダークサイド・スキル」。さまざまな企業でコンサルティングに従事してきた経験をもとに著者が見出した、組織の中でうまく立ち回り、自分のポジションを確立するための独自の“裏技”だ。自らのポジションが定まれば動きやすくなり、組織全体を良くするのにも貢献できる。
「ダークサイド」という文字面から、他人を陥れるような汚いやり口を想像するかもしれないが、そうではない。
通常、ビジネススキルといえば、論理的思考力や財務会計知識、プレゼン能力など、スキルを発揮した結果が表に出やすいもの(本書では「ブライトサイド・スキル」と表現)を指す。その一方で、上司や部下、同僚が知らず知らずに組織のために動いてくれるよう働きかける、といった暗黙のスキルを、本書ではダークサイド・スキルと名づけているのだ。
著者は株式会社経営共創基盤パートナーで取締役マネージングディレクターを務める。主に歴史があり規模の大きい製造業の経営支援に従事してきた。
ミドルからトップへの巧みなパスが経営判断の決め手に
企業というものは、主にトップの経営判断によって動く。しかし、本書によれば、ミドルリーダーも、その立ち回り方によっては、経営判断に大きく影響を与えることができる。なぜなら、トップとミドルでは、持っている情報が異なるからだ。ミドルが持っている現場寄りの情報が、トップにはなかなか入ってこない。入ってくるチャンネルが、実はほとんどないのだ。
そこでミドルリーダーとしては、トップに巧みにパスを出す(情報を伝える)ダークサイド・スキルが有効となる。
表向きはファイティングポーズを取りつつトップに直接相談する
たとえばミドルリーダーが、自部門の業績が思わしくなかったとする。だが、公の業績報告会議のような場で「このままではダメです」と弱音を吐くのは得策ではない。「そんなことを言わずに頑張れ」と言われておしまいだ。
著者によれば、ダークサイド・スキルを駆使するミドルリーダーは、そんな時、トップにそっと耳打ちをする。「このままではマズイので、早めに手を打った方がいいです」と。表向きはファイティングポーズを見せながらも、裏では正直に実情を伝え、相談する。そうした機を見た冷静なパスは、トップにとってもありがたいものなのだ。
ダークサイド・スキルを使いこなせば、組織も自分も成長できる。自社内で一目おかれるようになり、働きやすくなるだろう。ここで紹介した以外のダークサイド・スキルも、もちろん身に付けて損はないものばかり。ぜひ読んで、実践してみてほしい。
情報工場 エディター 安藤 奈々
神奈川生まれ千葉育ち。早稲田大学第一文学部卒。翻訳会社でコーディネーターとして勤務した後、出版業界紙で広告営業および作家への取材・原稿執筆に従事。情報工場では主に女性向けコンテンツのライティング・編集を担当。1年半の育休から2017年4月に復帰。プライベートでは小説をよく読む。好きな作家は三浦しをん、梨木香歩、綿矢りさなど。ダッシュする喜びに目覚めた娘を追いかけ、疲弊する日々を送っている。