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2017年12月の『押さえておきたい良書

『曲がり角に立つ中国』-トランプ政権と日中関係のゆくえ

「減速」する中国は衰退に向かうのか? それとも……

『曲がり角に立つ中国』
 -トランプ政権と日中関係のゆくえ
豊田 正和/小原 凡司 著
NTT出版
2017/07 286p 2,500円(税別)

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 現代、そして将来の世界経済やビジネス、国際情勢を占うにあたって、「中国」は絶対的に無視できない存在だ。急成長を遂げてきた中国だが、ここにきて明らかに減速しており、高成長から中成長、さらには低成長に向かいかねない「曲がり角」にきている。

 国内においては中産階級が台頭するとともに、都市と農村部などの所得格差が拡大。また、「一帯一路」路線を打ち出すなど、対外的な働きかけの面でも新たな動きが見られる。社会構造や外交・安全保障面でも曲がり角にあるということだ。

 本書『曲がり角に立つ中国』では、そうした中国と、中国をめぐる米国をはじめとする他国の動向を概観し、幅広い視野に立ち多角的に分析を加えている。とくに、スタートしたばかりのトランプ政権下の米中関係、地域連合などについて軍事面も踏まえて議論を展開。最後に「未来永劫(えいごう)の隣国」として、日本は今後どのように中国と付き合うべきかを提言している。

 著者の豊田正和氏は一般財団法人日本エネルギー経済研究所理事長。小原凡司氏は、東京財団政策研究調整ディレクター兼研究員で、外交・安全保障を研究分野とする。本書は、日本エネルギー経済研究所内で開催された「中国との賢い付き合い方研究会」における議論をベースにまとめられたものである。

中国民主化の鍵を握る中産階級

 成長減速について中国指導部は「新常態」という用語を使い肯定している。すなわち、成長率の低下は成長モデルを転換させるのに必要と位置づけているようだ。

 減速への対応として、景気浮揚効果が期待できない金融緩和を中心とする需要管理は行わない。その代わりに、供給サイドのイノベーションを起こし、需要を喚起する方向性だ。労働力や資金など生産要素の効率を高め、新しい産業を発展させることで、中国経済のグレードアップを図ろうとしているのだ。

 さらに著者は、中国の今後を見るための重要な要素として、中産階級の台頭を挙げている。ただし、その政治や社会への影響力については2通りの見方があり、激しい論争が繰り広げられているという。1つは中産階級が政治的に保守的なマインドを維持することで、中国社会の安定維持に貢献する、というもの。もう1つは、中産階級を民主主義改革の主要な推進者と見る見解だ。著者は、どちらのシナリオが実現するかは、指導部の彼らへの対応次第としている。

習主席の「一帯一路」とトランプ外交

 2013年秋に習近平国家主席が打ち出した「一帯一路」構想とは、中国とユーラシア諸国を結ぶ「シルクロード経済ベルト(一帯)」と、中国と東南アジア、南アジア、中東、アフリカにつながる「21世紀海上シルクロード(一路)」の総称である。沿線約60以上の国・地域に参加や共同開発を呼びかけ、輸送・エネルギー網を拡大するとともに経済協力パートナーシップを推進する。

 本書では、一帯一路は中国の、小国を含む周辺国家の重視を明確に示したものと分析。習主席は、米国らとの「大国外交」と、一帯一路による「周辺外交」の両者を分けて考えており、どちらの重要性も認識していると、著者は見ている。

 一方、トランプ大統領の外交は「イデオロギーより利益」「ルールより取引」「多国間交渉より二国間交渉」を重んじると指摘。世界に巨大な影響を及ぼす米中関係がどうなるかは、両首脳が考え方の違いをどう乗り越えていくかにかかっているようだ。

 今後の日中関係については、中国の「さまざまな顔」を理解することの重要性を強調している。ありとあらゆる角度から中国を掘り下げた本書は、中国の「今」と「未来」を知る格好のテキストと言えよう。

情報工場 チーフエディター 吉川 清史

情報工場 チーフエディター 吉川 清史

東京都出身。早稲田大学第一文学部卒。出版社にて大学受験雑誌および書籍の編集に従事した後、広告代理店にて高等教育専門誌編集長に就任。2007年、創業間もない情報工場に参画。以来チーフエディターとしてSERENDIP、ひらめきブックレビューなどほぼすべての提供コンテンツの制作・編集に携わる。インディーズを中心とする音楽マニアでもあり、多忙の合間をぬって各地のライブハウスに出没。猫一匹とともに暮らす。

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2017年12月のブックレビュー

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