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2018年1月の『押さえておきたい良書

『スーパーインテリジェンス』-超絶AIと人類の命運

やがて誕生する「超知能」は人類を滅ぼすか?

『スーパーインテリジェンス』
 -超絶AIと人類の命運
ニック・ボストロム 著
倉骨 彰 訳
日本経済新聞出版社
2017/11 720p 2,800円(税別)

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 2016年3月、米グーグルの持ち株会社アルファベット傘下の英ディープマインドのAI(人工知能)囲碁ソフト「アルファ碁」が、韓国のトップ棋士イ・セドル氏に勝利した。その後アルファ碁は、囲碁・将棋・チェスの3ゲームで世界最強の能力を備えた「アルファゼロ」に進化を遂げている。

 たった2年足らずでここまでの進化というのは驚異的だ。このスピードならば、ゲームのみならず、様々な能力で人間を凌駕(りょうが)するAIが誕生する日も目前なのではないか。

 本書『スーパーインテリジェンス』では、人類に追いつくだけでなく、明らかに“超える”人工的な知能を「スーパーインテリジェンス」と名づけている。現時点では人間に匹敵する能力を備えたAI(汎用AI)すら存在せず、いつそこまで到達するかも専門家の間で意見が分かれる。しかし本書では、それが遠くない未来に実現すると仮定。その上でさらに汎用AIがスーパーインテリジェンスに進化した時、人類にいかなる利得やリスクをもたらすか、その可能性を網羅的に検討している。原書は2014年に米国で出版されており、ビル・ゲイツ氏、テスラ社CEOイーロン・マスク氏らIT分野のインフルエンサーたちに多大な影響を与えたとされる。

 著者はオックスフォード大学マーティン・スクール哲学科教授。同大学の「人類の未来研究所」と「戦略的人工知能研究センター」の所長も務める。米国『フォーリン・ポリシー』誌の「世界の頭脳100人」に2度選出されている。

想像もつかないスーパーインテリジェンスの思考

 スーパーインテリジェンスと著者が定義するのは、AIだけではない。人間の脳を精密にスキャンして模倣する全脳エミュレーションや、遺伝子操作により作られた超人的な脳なども含まれる。しかし、もっとも早く実現するのはAIの進化形態としてのスーパーインテリジェンスだろうと、著者は考えている。

 本書は、とくにAIのスーパーインテリジェンスがもたらすと予測されるリスクの議論に紙幅を割く。強調するのは「コントロール問題」だ。自らの意思で行動するスーパーインテリジェンスを、人類がいかに安全に制御するかという問題だ。

 スーパーインテリジェンスは、私たち人間が想像もつかない思考と行動をする可能性がある。人類滅亡さえ計画するかもしれない。著者はそれがどのように実行されるか、想定されるリアルなシナリオも描いている。

わずか数分で爆発的に進化する可能性も

 もし本当にスーパーインテリジェンスが人類滅亡を画策したとして、それを止める手段はあるのだろうか。著者は悲観的だ。仮にスーパーインテリジェンスに人命を尊重する価値観や倫理観を組み込むのに成功したとしても、彼らがそれをどのように解釈するかは予測不能だ。

 著者は、人類と同等の汎用知能を獲得したAIが、どのくらいの時間をかけてスーパーインテリジェンスに進化するのか、いくつかのシナリオに分けて考察している。それによると数十年かかるかもしれないし、数分で爆発的に進化を遂げる可能性もある。後者の場合、コントロール問題に対応する時間がほとんど残されていない。よって本書では、今のうちから検討しておくべきと強く主張している。

 世界的な著名人がこぞって推薦する本書が、私たちが決して遠くない未来に直面するであろう状況や課題を理解するのに欠かせない1冊であるのは間違いない。720ページにわたる大著のため読み通すのには時間がかかるかもしれないが、各章のまとめ、あるいは任意の1章をじっくり読むだけでも、十分な知見と思考のヒントが得られるはずだ。

情報工場 エディター 宮﨑 雄

情報工場 エディター 宮﨑 雄

東京都出身。早稲田大学文化構想学部卒。前職ではHR企業にて採用・新規事業開発に従事。情報工場ではライティングの他、著者セミナーの運営などを担当。その他の活動には、マンガ情報メディアでの記事の執筆、アナログゲームの企画・制作など。好きな本は『こころ』『不実な美女か貞淑な醜女か』。好きな場所は水風呂。

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2018年1月のブックレビュー

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