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2018年3月の『視野を広げる必読書

『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』

お金を稼ぐためだけに働かなくてもいい理想の未来はすぐそこに!

『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』
佐藤 航陽 著
幻冬舎
2017/11 263p 1,500円(税別)

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「お金」の在り方に後戻りできない革命が起きつつある

 革命を意味する「レボリューション(revolution)」のもともとの主な意味が、天文学用語の「回転」なのをご存じだろうか。

 コペルニクスが地動説を唱えた1543年発表の書『天体の回転について(On the Revolution of the Heavenly Spheres)』のタイトルでも、回転という意味でrevolutionが使われている。

 コペルニクスによる天動説から地動説への転換は、それまで中心と信じられていたもの(地球)と、従属していたはずのもの(太陽)の立場が逆転したことを意味する。

 しかし地動説に基づく天文学理論は、それ以前の天動説に基づくものよりも、天体の運動をより正確に説明できるものだった。

 そのため、コペルニクスがもたらした視点の転換(コペルニクス的転回)は、いったん始まったら後戻りができない大転換を引き起こした。それまでに確立されたすべての理論が、新しい中心を前提に書き換えられたのだ。

 その後、政治や社会の体制などに同様の根本的転換が起こったとき、それらをレボリューションと呼ぶようになった。

 これがレボリューションを革命という意味で使うようになった始まりだ。

 20年ほど前にインターネットの普及が始まり、世界に、まさしく後戻りのできない革命的な変化をもたらした。そして今、そのインターネット革命が、私たちの生活やビジネスを支える「お金」の在り方や資本主義経済にも、根本的な変化をもたらそうとしているようなのだ。

 そんなお金のレボリューションの最新状況を論じるのが、本書『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』だ。

 著者の佐藤航陽氏は、早稲田大学在学中の2007年にメタップスを設立し代表取締役に就任。2015年に東証マザーズに上場。2017年には時間を売買する「タイムバンク」のサービスの立ち上げに従事。宇宙産業への投資を目的としたスペースデータの代表も兼務している。

内面的価値や社会的価値をお金で測れるようになる

 著者は、お金は「価値」という漠然としたものを、うまくやりとりするために生まれたと説明する。では、価値とはいったい何だろうか。

 本書によると、一般的に使われている価値という言葉は「有用性としての価値」「内面的価値」「社会的価値」の3つに分類できる。

 有用性としての価値とは、そのモノやサービスが役に立つかどうかで測られる価値だ。内面的価値は、個人の内面の感情と結びついた価値であり、愛情、共感、興奮、好意、信頼などが含まれる。そして社会的価値は、慈善活動やNPOのような、社会全体の持続性を高める活動につけられる価値を指す。

 資本主義経済におけるモノやサービスの価値は、需要と供給のバランスで決まる。つまり、多くの人が必要としたり、希少であったりすると市場で取引される金額(お金の量)が上がり、価値が高いとみなされる。

 だが、この場合の価値は、有用性としての価値でしかない。一方、内面的価値や社会的価値には需給バランスが関係しない。この2種類の価値はお金に換算できず、従来の資本主義の論理では価値として認められないのだ。

 しかしながら本書では、そうした有用性としての価値一辺倒の経済が、インターネットやSNSの普及によって変わりつつあると指摘する。お金では測れない内面的価値や社会的価値も、SNSを活用すれば評価できるというのだ。

 例えばツイッターやインスタグラムなどの「いいね!」の数は、その人やその人の行為がどのぐらいの人に注目され、興味や関心を持たれているかを示している。このような数値は、内面的価値や社会的価値を測る尺度になり得るのではないか。

 つまりこうした数値をお金に換算する何らかの仕組みがあれば、有用性としての価値以外も取引できる市場を作り得るのだ。これは、従来の資本主義経済でお金を中心として価値を決めていたのを逆転させ、価値を中心としてお金を決める発想だ。これはまさしくコペルニクス的転回といえる。

 本書のタイトルにもなっている「お金2.0」とは、お金の機能を「3つの価値すべてに使える」ようにするバージョンアップのことなのだ。

「価値主義」の経済システムを誰もが自由に作れる「お金2.0」の社会

 著者は、以上のような価値を中心とした経済の考え方を、資本主義に代わるものとして「価値主義」と名づけている。

 資本主義から価値主義への転換は、私たちの働き方や生き方を大きく変える可能性を秘めている。

 例えばフリーランスのカメラマンは、資本主義経済では「売れる写真」を撮らなければ生活に必要なお金を稼げないことが多い。これは有用性としての価値しかお金に換算できない資本主義の限界だ。

 しかし、仮にインスタグラムにアップした写真についた「いいね!」の数に仮想通貨が割り当てられる新たな市場ができたとしたらどうだろう。カメラマンは内面的価値や社会的価値の高い作品を撮ることで生活できるようになるかもしれない。

 そうなると、そのような市場を提供するSNSが一つの価値主義の経済システムに発展することにもなる。

 すでにインターネットには、SNSをはじめとする多種多様なメディアやサービスが存在する。さらに、誰でも自由に簡単にメディアやサービス、コミュニティーを作れるのが、インターネットの長所の一つだ。

 これと同様に、新たな価値主義の経済システムを、アイデア次第で誰でも作ることができる時代が来るかもしれない。そうなれば私たちは、いくつもの経済システムの中から自分に適したものを選べるようにもなる。誰もが自分の好きな価値基準で生きていけるようになるということだ。

 このような価値主義経済は、理想的な社会を実現する革命的な経済システムとなるかもしれない。

 ところでコペルニクスは、『貨幣鋳造の方法』という書物も著している。その中で、今ではグレシャムの法則として知られる「悪貨は良貨を駆逐する」という考え方を主張していたそうだ。

 悪貨は良貨を駆逐するとは、質の悪い貨幣と良質の貨幣が同一の価値で流通している場合、後者が市場から消え前者のみが流通するという法則だ。

 そのようなことが起こると、その社会の経済システム全体の信頼性は著しく損なわれる。

 そのたとえとして著者は本書で、動画サイトのユーチューブで倫理的に問題のある行為の動画をアップして再生数を稼ぐようなケースが問題だと指摘している。このように価値主義経済には、ただの「注目」や「関心」だけが価値として評価されるという落とし穴があるのだ。

 その代わりに本書で紹介されているのが、2017年に著者の佐藤氏らが始めた「タイムバンク」だ。

 タイムバンクは、登録された専門家の時間を売買できるサービスだ。ある個人の時間を一定量以上保有していれば、自分でそれを使うこともできるし、必要としている人に売ることもできる。

 このサービスでは、その専門家の能力の有用性としての価値を売買できる一方で、その人物への共感や愛着といった内面的価値も取引できる。さらに、その人が社会的な活動をするための時間を買うなど、社会的価値のやり取りも可能だ。

 つまり、3つの価値すべてを扱える、これまでにないユニークなサービスだとして説明している。

 こうした、お金2.0の実現に向けた試みはまだ始まったばかり。だが、これが動き出したら後戻りできない革命(レボリューション)だとすれば、目をそらすわけにはいかない。

 お金2.0が新たな時代を切り開く良貨となるよう、進捗を見守っていきたい。

情報工場 シニアエディタ― 浅羽 登志也

情報工場 シニアエディタ― 浅羽 登志也

愛知県出身。京都大学大学院工学研究科卒。1992年にインターネットイニシアティブ企画(現在のインターネットイニシアティブ・IIJ)に創業メンバーとして参画。黎明期からインターネットのネットワーク構築や技術開発・ビジネス開発に携わり、インターネットイニシアティブ取締役副社長、IIJイノベーションインスティテュート代表取締役などを歴任。現在は「人と大地とインターネット」をキーワードに、インターネット関連のコンサルティングや、執筆・講演活動に従事する傍ら、有機農法での米や野菜の栽培を勉強中。趣味はドラム。

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2018年3月のブックレビュー

情報工場 読書人ウェブ 三省堂書店