2018年3月の『押さえておきたい良書』
いわゆる「オタク」「マニア」などと呼ばれる熱狂的なファンには、ひとりでコツコツ何かのコレクションにいそしむようなイメージがあるかもしれない。だが近年は、同好の士が集まり、互いに交流しながら楽しむようなケースが以前より目立つ。そして、その活動が企業活動にも少なからぬ影響を与えるようにもなっているようだ。
本書『ファンダム・レボリューション』では、そんな特定の商品やコンテンツ、人物などに熱狂するファンの集団やその活動を「ファンダム」と呼び、分析を加えている。企業と、単なる消費行動だけではない関わりをするファンダムについて、豊富な成功例および失敗例をもとに、その正体と、企業が彼らとどうつきあっていくべきなのかを明らかにしている。
著者の2人は米国の人気ホビー会社「スクイッシャブル」の共同創設者。ゾーイ・フラード=ブラナー氏はCCO(最高コンテンツ責任者)、アーロン・M・グレイザー氏はCEOを務めている。
ファンダム台頭の要因はインターネット
ここにきてファンダムが台頭した背景にはインターネット、とりわけSNSの普及がある。自分と同じ嗜好や関心、趣味を持つ人たちを探すのが容易になり、交流もしやすくなったからだ。
ファンダムが従来のファンクラブと大きく違う点の1つは、あくまで「自発的」な活動であることだ。また、自主的な「趣味の会」より規模が大きく、地理的にも広範囲のメンバーがいる。さらに、交流が密になることで、熱狂の度合いも激しくなっている。
例えば2014年、ニューヨークのワシントン・スクエア・パークに2,000人もの映画『スター・ウォーズ』のファンが集まった。そこでは、ライトセーバー(同作品に登場する架空の武器)で戦うというイベントが開催されたそうだが、スター・ウォーズの権利を所有するディズニー社はとくに関与していなかった。あくまでファンダムの自発的イベントであったことが、これほどの人数と盛り上がりを生んだのは間違いないだろう。
企業の「下心」でファンは動かない
ファンダムの熱狂ぶりや行動力を知った企業が、それを宣伝や消費の拡大に利用しようとするケースも多い。だが、なかなか企業側の思惑通りにはいかないようだ。
本書には、そうした失敗事例の1つとして、マクドナルドによる2012年のキャンペーンを紹介している。
この時同社は、ツイッター上で「マクドナルドとの思い出」の投稿を募集した。イメージアップによる来店客数や売り上げの向上を狙ったもので、企業側としては、ファンたちによる、子どもの頃の温かい、ほのぼのとしたツイートを期待していた。
しかし、結果はまったくの期待はずれに。“ファン”たちは、アルバイト中に辛かった経験など、ネガティブな思い出をこぞってツイートした。あわてたマクドナルドは募集開始からわずか2時間でキャンペーンを停止する羽目になった。
著者らは、こうした企業の「下心」を押しつけるようなファンへの働きかけは、効果がないどころか、反発や炎上を招くと指摘している。ファンダムは自発性にこだわる。企業はファンを利用するのではなく、ファンと同じ視線を持ちコラボレーションする、あるいは自発的な活動をサポートするスタンスであるべきなのだ。
ファンダムとの良好な関係構築に成功すれば、企業はブランディングをはじめとするあまたのメリットが得られるだろう。ぜひ本書でその勘所を学んでほしい。
情報工場 エディター 宮﨑 雄
東京都出身。早稲田大学文化構想学部卒。前職ではHR企業にて採用・新規事業開発に従事。情報工場ではライティングの他、著者セミナーの運営などを担当。その他の活動には、マンガ情報メディアでの記事の執筆、アナログゲームの企画・制作など。好きな本は『こころ』『不実な美女か貞淑な醜女か』。好きな場所は水風呂。