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2018年4月の『押さえておきたい良書

『新・日本の階級社会』

日本人を「階級」で分断させる深刻な格差

『新・日本の階級社会』
橋本 健二 著
講談社(講談社現代新書)
2018/01 320p 900円(税別)

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 一億総中流。これは、ほとんどの日本人が「自分は中流である」と感じる風潮を指す言葉だ。この言葉がはやったのは1970年代だが、その頃の日本では格差が意識されることは少なく、多くの人が、誰もが自分と同じように豊かに暮らしていると思っていたようだ。

 しかし、本書『新・日本の階級社会』は、現代日本は「総中流」どころか、階層が分断された「階級社会」になっていると指摘。さまざまな社会調査によるデータをもとに、日本における格差の実態を浮き彫りにするとともに、発生しうる諸問題への対応策を提示している。

 著者は早稲田大学人間科学学術院教授で、理論社会学を専門。主な著書に『階級社会』(講談社選書メチエ)、『「格差」の戦後史』(河出ブックス)がある。

最貧層の「アンダークラス」が出現

 社会学には、資本主義社会に属する人々を「資本家階級」「新中間階級」「労働者階級」「旧中間階級」に分類する考え方があるという。新中間階級は、資本家の業務の一部を担う人々であり、企業でいえば管理職にあたる。一方、旧中間階級は、自らに生産手段がある、農家など自営業者のイメージだ。

 著者は、労働者階級のさらに下位の階級の存在も指摘している。「アンダークラス(階級以下)」とでも呼ぶべき貧困層だ。彼らの多くは非正規労働者で、平均個人年収は186万円ほど。正規労働への昇格や昇給・昇進の望みは薄く、この階級から抜け出すのは困難な現状がある。

 別の階級へ移るのが困難なのは、実はアンダークラスだけではない。1955年〜2015年のSSM調査(社会階層と社会移動に関する全国調査)からは、近年の日本社会で階級間の移動が少なくなってきていることが読み取れるという。高度経済成長期には、農業従事者(旧中間階級)から工場労働者(労働者階級)に転じるなどの階級間移動が、今よりも多かった。

 身分制度が廃止されて久しい現代日本だが、このような階級間の分断と固定化により、新たな階級社会が形成されつつあるのだ。

階級社会を助長する「自己責任論」

 著者は、新たな階級社会ができあがる要因の1つとして「自己責任論」の浸透を挙げている。

 2015年のSSM調査には「チャンスが平等に与えられるなら、競争で貧富の差がついてもしかたがない」という設問がある。結果は全体の52.9%が賛成。過半数が自己責任論に肯定的というわけだ。

 この設問の回答では、所得が高いほど賛成する率も高くなっている。だが、所得がもっとも低いグループでも、反対するのは21.6%にすぎない。ここから、貧困層であっても、自分の置かれた状態を自己責任と受け止めていることが分かる。

 さらに著者は、国の政策にもこうした国民意識が反映されている傾向を読み取っている。そのために貧困層を救済する積極的な施策が見られないというのだ。そしてその結果、格差の拡大・固定化(階級化)に歯止めがかからなくなっている現状を危惧する。

 こうした国家レベルで解決が望まれる社会問題を、自分ごととして捉えるのは難しいかもしれない。格差や貧困に対する考え方も人それぞれだろう。しかし、格差の固定化は、未来を担う子どもたちの教育の機会を狭めることにもつながる。能力開発が十分に行われなければ、将来的には人的資源の喪失、ひいては国力が低下することにもなるのだ。

 著者の冷静な分析を、この大きな社会問題が自分にも影響が及ぶ問題として考えるきっかけにしてみてはいかがだろうか。

情報工場 エディター 宮﨑 雄

情報工場 エディター 宮﨑 雄

東京都出身。早稲田大学文化構想学部卒。前職ではHR企業にて採用・新規事業開発に従事。情報工場ではライティングの他、著者セミナーの運営などを担当。その他の活動には、マンガ情報メディアでの記事の執筆、アナログゲームの企画・制作など。好きな本は『こころ』『不実な美女か貞淑な醜女か』。好きな場所は水風呂。

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2018年4月のブックレビュー

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