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2018年5月の『押さえておきたい良書

『「先見力」の授業 AI時代を勝ち抜く頭の使い方』

失敗するビジネスをテレビCMから見抜く、先見力の鍛え方

『「先見力」の授業 AI時代を勝ち抜く頭の使い方』
掛谷 英紀 著
かんき出版
2018/2 256p 1,400円(税別)

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 「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉がある。
 勝負事において、勝ちには偶然の要素が入ることもあるが、負けには必ず、自身の至らない点があるものだ、という意味だ。

 この考え方は、ビジネスや生活にも応用できる。うまくいかないときには大抵、何らかの理由があるものだ。こう考えると、その理由が事前に分かれば、高い確率で失敗や損を回避できるのではないだろうか。

 本書『「先見力」の授業 AI時代を勝ち抜く頭の使い方』では、そんな失敗や損を先読みするための、「先見力」を鍛えることができる。それは事象や情報をただ受け止めるのではなく、自分の頭で考え、処理し、活用する力でもある。応用すれば、利益を生むこともできるだろう。

 著者は筑波大学システム情報系准教授。専門はメディア工学。NPO法人「言論責任保証協会」代表を務める。

予測が「できること」と「できないこと」を見分ける

 先見力とは文字通り、先を見通す力だ。著者はそれを鍛えるためにはまず、予測できることと、できないことを見分ける能力が大事になるという。

 たとえば、地球上で手に持っている何かを空中で離したら落下する。これは実証するまでもなく、万有引力の法則を知っていれば予測できる。対して、社会現象のような複雑なケースは、予測するのが難しい。

 ただ、複雑なように見えても、実は予測できるケースもある。たとえば金融商品の運用シミュレーションは、計算式が決まっている。ビジネス書などではそうしたメソッドやルールが紹介されているが、重要なのはそれらがどこに適用できるかを判断することだ。

 そこで著者は、多くの事例を知り、研究することを勧めている。頭の中に知識が蓄えられていれば、自分が類似した場面に遭遇した際に、そこに適用できるメソッドやルールに気付くことができるからだ。そのため、本書では多くの事例を紹介している。

テレビCMを見れば分かる「危ない企業」

 本書では先見力の事例として、広告から企業の信頼性を判断する方法を紹介している。そのひとつに、企業のテレビCM出稿に合理性があるかに注目するというものがある。

 テレビCMの出稿には多額の費用が必要になる。そのため、それができる財力がある(≒社会的信用がある)企業だと考えて、信用してサービスを受けようとする人もいるだろう。

 しかし著者はその前に、ビジネスモデルを考慮すべきだという。具体的には、労働集約型産業か資本集約型産業かの違いに注目するのだ。前者の場合は、危ないかもしれない。本書ではその一例として、かつて経済産業省から業務停止命令を受けた、英会話学校のNOVAを挙げている。著者はNOVAのテレビCMを目にした時点で経営方針に疑問を持ち、何かが起こると感じたそうだ。

 NOVAは「講師は外国人・レッスンは少人数」をキャッチフレーズにして、生徒を募集するテレビCMを展開した。しかし労働集約型産業である英会話学校では、生徒の人数が増えればその分講師も雇わなければならない。すると人件費もかさむことになり、売り上げが増えても利益率は変わらない。

 そしてNOVAは講師を増やさずに生徒を集め、利益を確保するという方法を取った。すると、入金したのにレッスンを受けられない生徒が出るなどの問題が続出し、結果、NOVAには業務停止命令が下された。

 この例では、ビジネスモデルの形態を踏まえてテレビCMを見ることで、未来に起こる出来事を予測した。本書ではこの他にも、科学者である著者ならではの視点でウソを見抜く方法などが紹介されている。失敗や不正のパターンを知り、だまされたり損したりするのを防ぐために役立つ一冊となるだろう。

情報工場 エディター 宮﨑 雄

情報工場 エディター 宮﨑 雄

東京都出身。早稲田大学文化構想学部卒。前職ではHR企業にて採用・新規事業開発に従事。情報工場ではライティングの他、著者セミナーの運営などを担当。その他の活動には、マンガ情報メディアでの記事の執筆、アナログゲームの企画・制作など。好きな本は『こころ』『不実な美女か貞淑な醜女か』。好きな場所は水風呂。

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2018年5月のブックレビュー

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