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2018年5月の『押さえておきたい良書

『一流の頭脳』

20分でアイデアがあふれ出してくる驚きのメソッドとは?

『一流の頭脳』
アンダース・ハンセン 著/御舩 由美子 訳
サンマーク出版
2018/03 308p 1600円(税別)

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 仕事でこんな経験はないだろうか。企画書のアイデアが湧かず、キーボードに置いた手はちっとも動かない。刻々と提出期限は近づいてくる……。本書『一流の頭脳』によると、こんなときにふさわしい行動は、オフィスを飛び出し、外を走ることだ。

 脳の機能を高めるとっておきの方法は運動、つまり身体を動かすことだと本書は説く。そして、運動が集中力や意欲、記憶力や創造力といった脳のパフォーマンスを向上させるメカニズムについて、科学的根拠を踏まえて解説。効果的なトレーニング方法もあわせて紹介している。

 本書のいう“機能がすぐれている脳”とは、各領域(たとえば前頭葉や頭頂葉)の連携が強い脳だ。私たちが思考したり、何らかの動作をよどみなく行うためには脳のさまざまな領域がつながりあって情報を伝えなくてはならない。運動をすると、こうした脳内の連携が強化され、脳全体のパフォーマンスを高めるという。

 著者はノーベル生理学・医学賞選定機関であるカロリンスカ研究所で医学を修めたスウェーデンの精神科医。

身体を動かすと記憶力と創造力がアップ

 身体を動かすことでもっとも恩恵を受けるのが「海馬」だ。海馬は記憶の中枢だが、通常は年1%ほど萎縮し、記憶力は低下する。だが運動を続けると、海馬は縮むどころか成長するという。

 運動をすると、海馬でBDNFという物質が生成される。この物質は“脳の肥料”と呼ばれ、脳の細胞間のつながりを強化する働きがある。BDNFが細胞間のつながりを強化すると、学んだことや覚えたことが脳から離れにくくなるという。つまり、運動をすると、ピアノやゴルフといった動作の習得が早くなったり、単語の暗記などがスムーズに行えるようになる。

 創造性を高めるためにも運動がいい。ある実験によると、「新しいアイデアを出す」テストを歩きながら受けた被験者は5人中4人の割合で優れた成績を上げたという。脳のつながりが活性化し認知能力が上がったために、アイデアを思いつく力が向上したと考えられる。かのアインシュタインは自転車をこいでいるときに相対性理論を思いついたそうだ。
 著者によれば20~30分走っただけでも、アイデアを量産する力は高まり、その効果は2時間ほど持続する。

脳は身体を動かすようにできている

 “私たちが歩くとき、脳は決して休んではいない。それどころか、歩いたり走ったりすると、脳内では様々な領域が協調しながら活動しているのである。あらゆる視覚情報が同時に処理され、運動皮質は身体を動かすために広範囲で忙しく働いている。(中略)
 紙の前に座っているときよりも、動きまわっているときのほうが、脳の活動量はずっと大きいのである。”(『一流の頭脳』p.273より)

 著者によると、脳のもっとも重要な働きは「動きの制御」である。人類はほとんどの時代において、動かなければ生き延びられなかった。そのため、人類の身体は動くために適したつくりになり、脳も同様に、動くという目的のために進化してきたと著者は説明する。身体を動かさなければ脳は本来の役目を十分に果たせない。つまり、身体を動かしてこそ、脳は“フル稼働”して力を発揮していくのだ。

 脳のために効果的なのは30分以上のウオーキングだ。ランニングを週に3回、45分以上行うと脳の“最高のコンディション”がつくられるという。また、運動の際は筋トレより心拍数を上げる有酸素運動がいいそうだ。本書を参考に、ぜひ今日から運動を始めてほしい。

情報工場 エディター 安藤 奈々

情報工場 エディター 安藤 奈々

神奈川生まれ千葉育ち。早稲田大学第一文学部卒。翻訳会社でコーディネーターとして勤務した後、出版業界紙で広告営業および作家への取材・原稿執筆に従事。情報工場では主に女性向けコンテンツのライティング・編集を担当。1年半の育休から2017年4月に復帰。プライベートでは小説をよく読む。好きな作家は三浦しをん、梨木香歩、綿矢りさなど。ダッシュする喜びに目覚めた娘を追いかけ、疲弊する日々を送っている。

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2018年5月のブックレビュー

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