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2018年5月の『押さえておきたい良書

『ザ・ファースト・ペンギンス』-新しい価値を生む方法論

新発想のコツはお笑いの「ボケ」にある?

『ザ・ファースト・ペンギンス』
 -新しい価値を生む方法論
松波 晴人 著
講談社
2018/04 336p 1700円(税別)

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 「わが社の将来を支える新しい価値の創造をしてほしい」。
 ある日突然、上司からこんなことを言われたらどうするだろうか。きっとたいていの人が戸惑うことだろう。「どうすればいいのか」と途方にくれる人もいるかもしれない。だがこれこそ、本書『ザ・ファースト・ペンギンス』の主人公に与えられたミッションだった。

 現代は変化が激しく、商品やサービスがすぐに“ありふれた”ものになってしまう。企業や個人が生き残っていくためには、「新しい価値」を創造し、常にイノベーションを起こし続けていかなくてはならない――こうした問題意識から、本書は「新しい価値の創造」のための方法を、8つの理論によって解説している。

 新価値創造には2つの壁がつきものだという。まず「新価値を発想するためにはどうすればよいのか」という壁。そして「新価値を、どうやって組織の中で意思決定すればよいのか」という壁だ。本書の理論もこの壁を乗り越えるためのもの。本書は主人公が、理論を駆使して「発想」と「組織」の壁を突破していく様子を物語形式で描いている。

 著者は大阪ガス行動観察研究所所長。大阪大学でイノベーション創出のためのForesight Schoolを主宰している。

「ボケて」思考の枠組みを変える

 新しい価値を生む発想はどうすれば得られるのだろうか。著者は、「まったく別の新しい価値軸」を生み出すことが重要だとする。

 たとえば、持ち運べるカセットプレーヤーを考えてみよう。従来、オーディオは「音が良いか悪いか」(X軸)「価格は安いか高いか」(Y軸)という2つの価値軸で判断されていた。つまり、オーディオの価値はX軸とY軸の作りだす四象限のどこかにあった。しかし、持ち運べるカセットプレーヤーはまったく新しい「外で楽しめるかどうか」という価値軸を打ち出した。すると、多少音質が悪くても音楽を屋外で楽しむことを選ぶ人々が現れたのだ。

 既存の価値軸の延長線上で考えると“改善”案しか生まれない。そうではなく、新しいZ軸を考え出すことが、新しい価値の創造ということなのだ。

 本書ではこの発想法を「リフレーム」と定義している。フレームとは枠組みのこと。従来の枠組みを変える、つまりものごとの捉え方を変容させるということだ。

 リフレームのコツはお笑いの「ボケ」だそうだ。ボケは相方が提示する普通の考えとはズレた発想をするから面白い。リフレームには真面目に考えようとするより、ボケようという姿勢が、功を奏するという。

組織の意志と自分の意志を明確にする

 新しい価値を発想できたとしても、組織の意思決定がなければ実現はできない。これまでにない画期的な発想であればあるほど、この意思決定の壁は高くなる、と著者はいう。なぜなら組織は、新たな価値が本当に成功するかどうか、論理的な説明を求めるからだ。

 しかし、新価値創造とは人々が気づいていない潜在ニーズを取り扱うものだ。論理的に説明のできない、「正解」のない問題であるともいえる。「正解」を求めて論理的な説明や確証を得てから進む手順を踏んでいては、いつまでたっても新しい価値を生み出すことはできない。

 こうしたジレンマを解く鍵は「意志」にあるそうだ。自社の意志、つまり企業理念や方向性、強みを確認することが重要だ。そして同時に、自分の意志を明確にする。新価値に込めた自分の意志と、組織の目指す方向や強みとが合致しているということを示せば、組織を動かすことができるだろう、と著者は述べる。

 ペンギンは最初に1羽が海に飛び込まないと、いつまでも氷山にとどまっているという。新しいエサを得るためには、“最初のペンギン”の存在が大切だ。新しい価値を創造するときも同じだ。本書を読み、あなたも勇敢な最初のペンギンになってほしい。

情報工場 エディター 安藤 奈々

情報工場 エディター 安藤 奈々

神奈川生まれ千葉育ち。早稲田大学第一文学部卒。翻訳会社でコーディネーターとして勤務した後、出版業界紙で広告営業および作家への取材・原稿執筆に従事。情報工場では主に女性向けコンテンツのライティング・編集を担当。1年半の育休から2017年4月に復帰。プライベートでは小説をよく読む。好きな作家は三浦しをん、梨木香歩、綿矢りさなど。ダッシュする喜びに目覚めた娘を追いかけ、疲弊する日々を送っている。

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2018年5月のブックレビュー

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