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2018年7月の『押さえておきたい良書

『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』-人生100年時代の個人M&A入門

人生100年時代、一生サラリーマンですか。それとも会社を買いますか。

『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』
 -人生100年時代の個人M&A入門
三戸 政和 著
講談社(講談社+α新書)
2018/04 205p 840円(税別)

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 あなたは「社長」になりたいと思ったことがあるだろうか。

 そんな大それたことを考えたことのない、真面目に日々の仕事を黙々とこなしているあなたこそ、実は社長の道がふさわしいかもしれない――。

 そんな気にさせてくれるのが本書『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』だ。ごく平凡なサラリーマンであったとしても、戦略的に「会社を買い」、オーナー社長となることで、やりがいのある仕事と金銭的な豊かさを手にいれることができると説いている。

 具体的に提案されているのは中小企業を対象にした個人M&Aだ。会社という「箱」を手に入れ、自らのキャリアを生かして会社を経営するためにどうすればいいか、持っておくべき知識や考え方などを詳細に解説している。

 著者は株式会社日本創生投資代表取締役CEO。中小企業の事業再生・継承に関するバイアウト投資に取り組んでおり、本書にはその経験に基づく実践的なノウハウが収められている。ネットメディア「現代ビジネス」(http://gendai.ismedia.jp/)で500万PVを獲得するなど、大きな話題になった連載がベースとなっている。

中小企業を「事業継承」して社長になる

 まず著者は、事業継承に悩む中小企業の数の多さを指摘している。本書に掲載されている帝国データバンクの調査によれば、現在、日本の中小企業約380万社のうち、250万社が後継者不在なのだという。なおかつ中規模企業の社長の約6割が、「事業を何らかの形で他者に引き継ぎたい」と考えているそうだ。

 こうした企業は財務状態が悪いわけではなく、当面の資金繰りにも問題がないのに、後継者がいないために廃業に追い込まれていく場合も多いのだという。それならば、一定規模の会社で勤めた経験があるサラリーマンが、こうした中小企業を買収し社長となり、経営してみてはどうか、と著者は提案する。会社のなかでチームを率いた管理職経験の持ち主ならば、そのチームがそのまま中小企業であり、それを運営するようなものだと考えれば良い。

 著者によれば、会社を所有することで、労働の対価を超える大きな報酬がもたらされる可能性がある。例えば、従業員300人以下の中小企業の社長の年収は3000万円程度だとされる。中小企業で社長を7年間務めれば、サラリーマンとしての生涯年収を超える、と著者は述べる。

サラリーマン経験で培った“当たり前”が武器になる

 現在の中小企業には業務上多くの無駄があり、企業の価値を生かしきれていないのだそうだ。今でも手書きの帳簿をファイルにいれて在庫管理をしたり、電話やファクシミリで受発注を行ったりしているという。そこでサラリーマン時代の“常識”を持ち込めば、業務を効率化し、会社を成功に導くことはできると著者は強調する。具体的には、在庫を洗い出して整理する、製品ごとに営業利益率を算出する、会議を開き、社員の意見を聞き、自分の考えを社員に伝える、などである。

 買収のための資金についても詳しく述べられている。M&A市場における中小企業の価値の計算方法として、資産から負債を引いた純資産に、営業利益3~5年分を足した合計額をベースにするというものがあるそうだ。この方法で考えると、例えば、純資産がゼロ、売上高1億円、営業利益100万円の中小企業の価値は300万~500万円となる。つまり、300万円が元手にあれば、会社を買うことは十分に可能だという。

 本書はその他、インターネットでM&Aの案件を検索する方法など、具体的なノウハウが満載だ。もちろん経営を続けることは大変なことであり、著者は、情熱が必須だということも強調している。

 常識と熱意あるビジネスパーソンと、豊かな資源としての中小企業との、魅力的な出会いが描かれている本書。現在の職場で力を出し切れないと感じたときの切り札として、また定年後を見据えたセカンドキャリアのために、さらには日本経済のために、資本家として生きることを想像してみるのもよいだろう。

情報工場 エディター 松尾 亘

情報工場 エディター 松尾 亘

福島県出身。東京都立大学人文学部卒。社会福祉士。専門職養成を行う通信制養成校で講師、大学で非常勤講師を務める。現在はNPO法人に所属し、社会福祉事業を行う機関で相談支援の仕事をしている。2009年からイシス編集学校師範代を数期務め、2012年からは認定NPO法人沖縄・球美の里に参加、福島と沖縄をつなぐ活動を続けている。旅先での図書館巡りを趣味にしていて、郷土史のコーナーに必ず立ち寄る。

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2018年7月のブックレビュー

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