2018年8月の『押さえておきたい良書』
営業はビジネスの基本である。私も営業を経験したことがあるが、ものを売ることの難しさから逃れられず、いろいろな壁にぶつかるなど悩みの種は尽きなかった。同じように日々悩んでいる読者も多いことだろう。
本書『最強の営業法則』は、そんな営業マンたちに示唆を与える1冊だ。自動車の販売において、12年連続「世界一のセールスマン」としてギネス記録に認定された著者が、営業マンとしての心構えや売るための基本原則を説く。
著者は1日平均6台の新車を販売。最高で1日に18台を売ったこともある。1978年に引退するまでの15年間で、13,001台を売り上げたという。現在はアメリカで最も人気のあるコンサルタントの1人として、本やコラムの執筆、市民団体・大手企業の販売会議などでセミナーを中心に活動している。
自分を売って、情報を収集する
著者によれば、営業において重要なのは「そこに人間がいる限り、見込み客はいる」ということである。そして自分の存在と職業を知ってもらえれば、それが顧客を開拓していることになるという。
友人や親戚の連絡先が書かれたアドレス帳が見込み客名簿であるのはもちろん、著者は常に自分を売り込める人を探すように習慣づけている。ロッカーの管理人やマッサージ師、ありとあらゆる人に自分が何の仕事をしているかを教え、名刺を渡す。常にチャンスをうかがう姿勢が大事だという。
さらに電話で新規の営業をかける際は、あらゆる情報を収集する。相手に今は車を買い替えるつもりがないと言われても、いつ頃買い替えるつもりかだけはなんとか聞き出しておく。買い替えの予定時期さえ分かれば、その時に電話して再び売り込める。もし断られたとしても、それなら車を買おうとしている知り合いがいないか、親戚か近所でマイカーをだめにしてしまった人がいないかの情報を収集して、次の機会につなげる。
ある人が車を買ったとしよう。5年もたてば車は買い替えどきだ。きちんと記録やスケジュール帳を管理していれば、本人が気付く前に車を買い替える時期が分かる。そして、次の車を探し始めるであろう数週間前に電話をかければ、彼が相談するかもしれなかった他の営業マンに先駆けて車を売り込むことが可能になる。
“そんなことはたいした問題ではない。(中略)ほぼ間違いのない見込み客が、数本の電話で獲得できればそれに越したことはない。しかし、スパゲティ投げを思い出してもらいたい。投げてみれば、そのうちの何本かは壁にくっつく。”(『最強の営業法則』p.95-96より)
著者によれば、営業は“種まき”のようなものなのだそうだ。営業がうまくいくとは、年中作物が育つ土地でより多くの種をまき、収穫し続けることなのだ。
顧客で顧客をつかむ「ジラードの250の法則」
求めていた品を納得のいく値段で買って帰った顧客が、友人や親戚や同僚に、車を買うならジョー・ジラードから買え、と薦める。こうした「紹介」こそ最強の営業だと著者は説く。
ある日、著者は「人は誰でも、結婚式や葬式に招待するくらい大事な知り合いが250人いる」と気付いたそうだ。そして、1人の顧客に良い印象を与えられれば、関係する250人に、自分のことについて広めてもらえる効果がある、と考えた。著者はこれを「ジラードの250の法則」と呼ぶ。
顧客を確実に協力者にするために、著者は顧客に紹介用の名刺一束を渡しておき、紹介によって車が売れたら、協力者に25ドルの謝礼を支払うように決めたそうだ。顧客と友好な信頼関係を築ければ、彼らは自発的に営業マンの仕事を助けてくれるものだ。人はたいてい誰かの役に立ちたいと思っているから、得をした買い物や親切な営業マンのことを他の人に教える。顧客に紹介を依頼することは、その客本人を喜ばせることにもつながるのだ。
肝心の車を買わせる際には営業トークよりも「車の匂い」を嗅がせることが大切だ、など次々と手の内を明かす本書。読み終える頃には、著者から車を買いたいという気分になっていることだろう。営業における普遍的なテクニックを、本書を読んでぜひ身に付けていただきたい。
情報工場 エディター 山田 周平
埼玉県出身。早稲田大学第一文学部卒。学生時代はラジオ・雑誌投稿、大喜利コンテスト参加など笑いの道を追求する。現在は内外図書・雑誌の販売業および輸出入業、学術情報提供サービス業、出版業を展開する会社に勤務し、学術雑誌の編集に携わる。趣味は読書、映画鑑賞。好きな作家は色川武大、筒井康隆、川上弘美など。