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2018年8月の『押さえておきたい良書

『「片頭痛」からの卒業』

片頭痛を予防できる! 画期的な「頭痛体操」とは?

『「片頭痛」からの卒業』
坂井 文彦 著
講談社(講談社現代新書)
2018/05 240p 840円(税別)

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 「たかが頭痛で大げさな」「頭が痛いくらいで会社を休むなんて」。あなたは、そんなふうに思ったり、あるいは言ってしまったりした経験はないだろうか。だが、本書『「片頭痛」からの卒業』によれば、頭痛は「頭部が痛む」という症状名であり、とくに片頭痛は治療の対象となる「病気」なのである。
 この本は、40年にわたり10万人以上の患者に向き合ってきた頭痛治療の世界的名医である著者が、頭痛、特に片頭痛のメカニズムから対処法までをコンパクトにまとめた1冊だ。

なぜ片頭痛は起こるのか

 歴史上の人物にも、頭痛に苦しんできた人は多い。本書によれば、後白河法皇は頭痛平癒を祈願して三十三間堂を建立し、ジョン・F・ケネディは片頭痛に苦しみながら大統領の激務をこなした。芥川龍之介の小説「歯車」にも、片頭痛の前兆として起こる症状の描写がみられるという。

 『国際頭痛分類・診断基準』(2018年第3版)によれば、頭痛の種類は367に上るそうだ。中でも片頭痛は、国内の罹患(りかん)者が約1000万人、発症による経済的損失は3000億円を超えるという。これは「国民病」といってもおかしくない、と著者は指摘する。

 片頭痛の原因は、脳内物質のセロトニンの分泌量が低下、脳の血管が拡張し、炎症が起きるためだと考えられている。そのため体を動かすと血管が広がり、痛みがひどくなるので注意が必要だ。他にも、週に2回から月に2回程度の頻度で起こる、4時間から3日間程度痛みが続く、ストレスから解放されたときに発症しやすい、人によっては吐き気や嘔吐(おうと)、光や音などに過敏になるなどのさまざまな特徴がみられる。痛むのは頭の片側とは限らず、両側や後頭部の場合もある。

 片頭痛と間違えられやすいのが緊張型頭痛である。特徴は、ほぼ毎日、頭の両側に締め付けられるような痛みがあること、肩や首が凝ることなど。血管の収縮によって引き起こされ、体を動かすことで痛みが紛れること、ストレスの最中に起こりやすいことも、片頭痛とは対照的だ。

 とはいえ、自分の頭痛のタイプを自分で判別するのは難しい。本書では「おじぎ」による見分け方が紹介されている。頭が心臓より下に来ると、血が頭部に集まって鬱血するため、片頭痛なら脳圧が上がって痛みがひどくなるが、緊張型頭痛ではそうしたことはないという。

 さらに著者が推奨するのが「頭痛ダイアリー」をつけること。頭痛の起こり方、痛みの強弱、痛みが続いた時間、飲んだ薬などを記録することで、自分の頭痛情報を正確に医師に伝えられ、正確な診断や治療計画を進めるのに役立つのだ。

百薬の長である「頭痛体操」

 頭が痛いとき、頭痛薬の力を借りる人も多いだろう。だが本書では、薬に頼り過ぎる危険性が指摘されている。

“鎮痛薬を用量より多く飲み続けると痛みが強制的に抑えられることで、本来、痛みを調節すべき脳が、自分はやらなくてもよいのだと勘違いしてしまい、次第に痛みを抑える物質を出さなくなってしまうのです”(『「片頭痛」からの卒業』197pより)

 代わりに著者が「百薬の長」として勧めるのが「頭痛体操」だ。片頭痛の場合、足を肩幅に開いて正面を向き、両肩を左右に回転させる。頭痛が起こる前に行う予防体操だが、わずか2分の実践で効果が見込めるという。緊張型頭痛の場合は、頭痛が起きているときに行う体操がある。こちらは肩を中心にして、両肘を前から後ろ、後ろから前に回すことで痛みが解消するというものだ。

 かつては痛みを耐え忍ぶしかなかった片頭痛だが、メカニズムが少しずつ解明され、さまざまな対処法が生み出されたことにより「自分で治せる病気」になったと著者はいう。さらに、夢の予防薬として構想されているのが「片頭痛ワクチン」だ。すでに臨床治験で成果が得られているという。注射1本で苦しみから解放される日は、案外近いのかもしれない。

情報工場 エディター 江藤 八郎

情報工場 エディター 江藤 八郎

東京都出身。もともとは事務職だったが、偶然飛び込んだ障害者福祉の仕事が面白く、その世界をより深く知りたくなり社会福祉士の資格を取得。仕事の傍ら編集を学び、「福祉は編集である」と考えて実践をこころざすが現実は厳しく、日々変化する現場の中で試行錯誤を重ねている。ブログ「福祉読書365」管理人。週末はアマチュア・オーケストラでコントラバスの演奏を楽しむ。

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2018年8月のブックレビュー

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