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2018年9月の『押さえておきたい良書

『マルチプル・ワーカー 「複業」の時代』

複業という選択肢、生かすも殺すもあなた次第

『マルチプル・ワーカー 「複業」の時代』
山田 英夫 著
三笠書房
2018/07 206p 1,500円(税別)

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 「副業解禁」という言葉から、あなたは何を想像するだろうか? 部下が副業していたら、「本業をおろそかにしていないか?」と思うかもしれない。一方、「そんな理解のない上司がいたら、自分なら辞めてしまう」と感じる人もいるだろう。

 そもそも「副」という言葉は、「正」に対する対義語であり、英語で言えば、メイン(main)に対するサブ(sub)である。そこには確固たる本業があり、それを補うために別の仕事をするという意味が含まれている。

 そうではなく、本書『マルチプル・ワーカー 「複業」の時代』では、副業(Side jobs)よりも、複業(Multiple jobs)に比重を置く。

 著者は早稲田大学ビジネススクール教授。著者による調査や企業取材が盛り込まれ、従来抱かれている「副業」のイメージを変えてくれる1冊だ。

副業の「実態」と「種類」

 副業の実態として、日本経済新聞社が一部上場企業を中心として行った「社長100人アンケート」を見てみよう。2016年11月に行われた調査では副業検討中と合わせると、17.1%が副業解禁に前向きであったのに対し、2018年3月の同調査では、41.8%と短期間で解禁派が急速に増えている。

 2016年2月に「社外チャレンジワーク制度」を導入したロート製薬の副業解禁事例を紹介したい。同社には、もともと「やってみよう」という社風があり、会長である山田邦雄氏のトップダウンで始まった。山田氏は以前から、1つの企業に身をささげるという単線型の人生に疑問を感じていた。

 導入後の変化として、ロート製薬では50人程が副業を始めている。その副業は、「以前からやりたかった」「やりたかったが踏み出せなかった」というものが多く、そうした副業の方が続いている。具体的には、地ビール会社の起業、障がい者支援のNPO、大学の講師、薬局など様々である。

 実は、いわゆる「副業」には4種類あると著者は提唱する。ケイパビリティ(縦軸)と収入(横軸)の2つの軸による分類である。ケイパビリティ(Capability)とは、人や組織が持つ遂行能力を意味し、収入は、副業の対価として、どれだけの報酬を受け取れるかという軸である。

 4つの分類のなかで、もっとも収入が高く、ケイパビリティが高まる仕事が「複業」なのである。代表例としては新規事業の起業などが挙げられる。前述のロート製薬の事例も、まさに複業と言えよう。

 では、複業は日本で順調に展開していけるのか。本書によると、そうたやすくはない。

「複業」を阻害する同僚のやっかみ

 “米国では、1つの分野に才能を持つ人が、他の分野でも活躍することは、賞賛されても、批判されることはまずない。英語に「2つの帽子をかぶる(wear two hats)」という慣用句があるが、これには悪い意味はない。
 しかし日本語で、「二足の草鞋を履く」という言葉は、その人を批判する時に使われる方が多くないだろうか。”(『マルチプル・ワーカー 「複業」の時代』p.144より)

 本書によれば、日本は集団思考が強く、集団内の平等を重視する傾向があるという。そのため、自分とは違い複業ができる人に対して同僚が不快感を覚え、妬み・やっかみにつながると著者は分析する。とくに伝統的な日本企業では、こういった同僚による妬みが、個人の突出した活躍を阻害する要因の1つとなっているという。

 しかし、時代は変化してきた。もはや、終身雇用が制度的に維持しにくくなり、特に、成果主義を徹底している企業では、年収と年齢は次第にリンクしなくなっている。
 「人生100年」の時代。選択肢を持つことは、不確実性が高い時ほど価値は大きい。1つしか生きる道がなければ、失敗したら終わりであるが、複数の道があれば、より積極的に勝負を賭けることもできる。であれば、会社で1つの才能しか発揮しないのは、もったいない。

 いまだ顕在化されていない才能が必ずあるはずである、と本書は述べる。これから究極的に求められるのは、個人内のダイバーシティである。
 もはや、複業する/しないにかかわらず、自らの人生を自らデザインする必要が出てきた。本書を通して、複業について思いを巡らせ、「一体何がやりたいのか?」と自問自答し、部下とも対話する機会にしてみてはどうだろうか。

情報工場 エディター 窪田 美怜

情報工場 エディター 窪田 美怜

大阪府出身。青山学院大学教育人間科学部卒。人と組織に関するソリューションプランナーであり、最近新しいスニーカーを入手したにわかランナー。FM802を愛し、BBC Radio1のヘビーリスナーでもある。飲み込むように読書をし、好きな作家は辻村深月、山本周五郎。特に『子どもたちは夜と遊ぶ』『さぶ』はお気に入り。イースター島、マチュピチュ、ウユニ塩湖となぜか南米の世界遺産にひかれ、制覇済み。お風呂上りの時間を人生の大半にしたい。

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2018年9月のブックレビュー

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