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2018年10月の『押さえておきたい良書

『AI時代に「頭がいい」とはどういうことか』

AI時代に必要とされる人が持つべき“頭脳”とは?

『AI時代に「頭がいい」とはどういうことか』
米山 公啓 著
青春出版社(青春新書インテリジェンス)
2018/08 192p 920円(税抜)

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 囲碁、将棋などの勝負の世界でAIが人間を破り、コンピューターが様々な分野で人の能力をしのぐようになった。このままAIが進化し続け、人間の仕事の多くを取って代わるようになると、人の知性や能力は必要ではなくなるのだろうか?

 そのような問いに示唆を与えるのが本書『AI時代に「頭がいい」とはどういうことか』だ。脳の特性、能力の紹介を交えながら「頭がいい脳」の新しい定義を説いている。作家・医学博士である著者の専門は脳神経内科。自らの臨床経験や最新の脳科学研究などをもとに今の時代に「頭がいい人」がどういう状態を指すのかを考察し、まとめたものだ。

脳の仕組みと働き

 長年、偏差値を重視する日本の社会では、頭がいい人イコール「成績がいい人」と位置づけられてきた。しかし、世間では高学歴の人だけが成功しているわけではない。田中角栄のように低学歴でありながら総理大臣の地位まで上り詰めたという例もある。

 そもそも頭がいいとはどういう状態を呼ぶのだろうか?

 本書によると、「記憶力が良い」「頭の回転が速い」「機転が利く」など、頭がいい人と聞いて私たちが思い浮かべるその特徴は、脳のある特定の機能に関係するようだ。人間の大脳皮質には記憶や想起、感情に関わる海馬・扁桃体・側坐核などがあり、喜怒哀楽の感情や視覚・聴覚などから脳に記憶を植えつけたり、勉強する意欲をもたらすといわれている。また、判断力は側坐核、扁桃体による動きが影響されるという。例えば、機転が利くという反応は、物事を分析し、自分の過去の記憶や経験と引き比べてこれから起こる事態を予測して行動するといった一連の動きが組み合わさって、生まれるものなのだ。

 こうした脳の働きは、人間のコミュニケーションにも影響する。小脳が他者と適正な距離を取る機能を持ち、前頭葉が相手の欲求や思考を推測し、ときには共感する仕組みとなる。「社会性のある人は頭が良い」という評価につながる場合があるが、これらはAIには編み出せない力だ。他者と仲良くコミュニケーションを取るごく当たり前の能力や、社会性のある脳こそ、AIへの優位性であると著者はいう。

 また、著者によれば、頭のよさをはかるためには脳の部分的な機能よりも脳内のネットワークが重要なのだという。そのネットワークの作り方は人によって個性があり、絶対的な「頭がいい脳」は存在せず、自分の脳の個性に合った鍛え方をすれば、これからの時代、誰でも「頭がいい脳」を作りだせるようなのだ。

これからの時代に求められる頭のよさ

 著者はAIと人の脳の大きな違いは、“新しい価値を作り出せるかどうか”だという。人がひとりひとり経験して得た知識、技術をもとに、過去の常識や価値観にはなかった仕組みを創造していく。それは人が単独で成し遂げるものではなく、複数の人間の思考、あるいは発見が絡み合って生まれる場合もある。偶然の発見から世界的な偉業を成し遂げた科学者や、他者と人脈づくりを深めて大成した実業家などの例からもうかがうことができるだろう。

 “何もないところからアイデアは出てこないし、思考するだけでは創造することは難しい。常に私たちは新しい体験をして、脳を刺激して、新たな記憶を作り出し、その結合によって新しいことを生み出している。
 AIにできないのは、この新しい体験を作り出すことであるし、それができるのは人間の脳だけである。”(『AI時代に「頭がいい」とはどういうことか』p.180より)

 これからの頭のよさのために必要なのは変化を恐れず、しなやかに対応していく力を持つことだと著者は述べている。好きな物事に打ち込み、好奇心を満たすことで得られる頭のよさは、詰め込み型の学習形態では得られない新しい視点、そしてそれを生かす手がかりを私たちに与えてくれるだろう。著者のメッセージはこれからの時代を生きる人間にとって心強いエールとなるに違いない。

情報工場 エディター 増岡 麻子

情報工場 エディター 増岡 麻子

東京都出身。成蹊大学文学部卒。住居・建築・インテリア関連のイベント、コンサルティング事業を展開する複合施設に勤務。大学卒業後に取得した図書館司書資格を生かし、同施設内の建築系専門ライブラリーでレファレンスから企画運営までを担当する。
仕事柄、建築や住居のデザインへの関心が高く、休日はインテリアショップや書店巡りが日課。プライベートでは小説やエッセーをよく読む。遠藤周作、山本夏彦、カズオ・イシグロのファン。

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2018年10月のブックレビュー

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