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今月の『押さえておきたい良書

『万引き依存症』

万引きを繰り返してしまう人の「本音」とは

『万引き依存症』
斉藤 章佳 著
イースト・プレス
2018/09 258p 1,500円(税別)

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 「万引きは犯罪です!」。店側の怒りをよそに、万引きの被害総額は全国で1日約13億円、万引き犯には依存症も少なくないという事実がある。

 本書『万引き依存症』では、精神保健福祉士・社会福祉士として各依存症の臨床に携わる著者が、万引き依存症の実態や要因、治療について語っている。自分には無関係などと思わず、これは誰もがなり得る現代病だという著者の言葉に耳を傾けてほしい。

「盗みたい」は「困らせたい」の裏返し

 万引き犯の多くは、必ずしも貧困者ではないのに万引きを繰り返す。彼らの動機を探ると浮かび上がる要因の1つが、家族への不満だ。

 Kさんの夫は地元の名士で裕福。だが、宗教活動に熱心で家族をほとんど顧みない。また、30代男性Lさんは10代の頃から母親に持ち物や行動を監視されてきた。こうした夫へのわだかまりや母親の過干渉に対するはけ口が万引きだ。

 だが、その真の目的はストレス解消より「家族を困らせたい」という気持ちにある。店に呼びだされた夫や母の「我が家の恥だ」「まさかウチの子が」と困惑する姿を見て、束の間、復讐した気分になれるのだ。

 しかし、家族関係が変わらなければ事態は改善されない。再犯を重ねるうちに、「衝動制御障害」に陥る。ある引き金を引くと衝動的に万引きする回路ができていくのだ。近所のスーパーで。メロンパンを見るとつい。場やものや時間帯など各人特有の条件が引き金となり、パブロフの犬のように「Aの条件下ではB(万引き)をする」道すじができてしまう。

 かくして、家族への不満は復讐をえさに、条件を合図に、万引き依存症へと育っていく。小さな不満を入り口とする依存症。著者が「誰もがなり得る」とするゆえんである。

対話を重ねて自分を変えていく

 こうした経緯をふまえて、「盗まない自分に変わる」ための治療がなされる。オリジナルワークやグループミーティングを行うのだが、ここでも鍵となるのは「人」だ。家族や友人が何でも打ち明けられるキーパーソンとなり、「どういうときにどのように盗んでいたか」を、本人が客観視できるまで対話を重ねていく。人間関係に起因する病は、人間関係の中で治していくのが一番だからだ。

 患者に向き合い適切に治療すれば、万引き依存症は回復可能、人は何歳からでも変われる、と著者は断言する。これは依存症患者だけでなく、家族も変われるという意味でもあるのだろう。

情報工場 エディター 大武美和子

情報工場 エディター 大武美和子

東京都出身。小学校から高校まで女子校通いの後、慶應義塾大学文学部へ。四大女子超就職難時代ゆえ大企業への就職とは縁遠く、出版社のアルバイト、少々の貿易事務などなどを経験。いつの間にか書くことを仕事にして今に至る。東京に生まれ育って、最近とみに思うのは、道端の草花を目にして「これはネジバナ」「あれはアカノマンマ」と分かったら、さぞ楽しいだろうということ。なので、今のところの愛読書は『柳宗民の雑草ノオト』。

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