現在、「メルカリ」を全く知らない、という人は少数派だろう。個人間で中古品などを売買できるサービスで、公式サイトによれば国内でのダウンロード数は7,100万(2018年3月31日時点)。文字通り国内最大級のフリマアプリだ。
本書『メルカリ』はそんな注目のアプリを生んだスタートアップ、メルカリの成長の軌跡を描く1冊。創業者にして現会長兼CEOである山田進太郎氏をはじめとするキーパーソンへの取材をもとに、メルカリ誕生までの苦難や東証マザーズ上場、急成長後の挑戦など、知られざる舞台裏に迫っている。
本書を読むとメルカリは、実に良いタイミングで良い人材が参画していることがわかる。著者が「起業はひとりの天才の仕事ではない」というように、多彩な人材が成長の原動力となっているようだ。
例えばメルカリ創業前夜。構想を練っていた山田氏はのちの共同創業者にしてプロダクト企画の中心となった富島寛氏と、飲み会で偶然会う。日本でもいち早く動画検索サービスを立ち上げた経験がありながら先行きが決まっていなかった富島氏を、以前から気になっていた山田氏が口説いた。同じく共同創業者となる石塚亮氏も、米国で立ち上げた自身のゲーム開発会社を売却し、身軽になった矢先に、交流のあった山田氏から声をかけられたそうだ。
また、アプリリリースまで数カ月という段になっても決定的なデザインが見つからなかった時、山田氏は旧知のデザイナー宮上佳子氏を呼び込む。山田氏が最初に設立した会社ウノウ時代の縁で、彼女によってメルカリのデザインの土台ができ上がった。小さな子どもを持つ地方に住む主婦が気兼ねなく使える、というメルカリのポジションもこの時に打ち出されたのだという。
他にもテレビCMでの考査や資金繰りなど、メルカリにはさまざまなピンチが訪れるが、不思議とピンチを切り抜けるような人材が前後して山田氏の近くに現れている。
これはひとえに山田氏の人脈の広さ、求心力の高さといえるだろう。ただ本書を通して感じるのは、山田氏が機に応じて人材を「手に入れる」というよりは、「活用している」というほうがしっくりくることだ。知り合った人の特徴や状況をよく理解して自分の引き出しにストックしておき、機に応じて引き出す。山田氏は人心掌握というより、こんなポテンシャルの掌握が長けているのだと感じられる。
思えばメルカリというアプリだって、「手に入れる」よりは「活用する」ためのものだ。どんなものでも、状況次第で光り出す。そうした、あり合わせのモノが活用される面白さも、メルカリを支える魅力の1つになっているだろう。メルカリというアプリにも、メルカリという会社にも、こうしたあり合わせの妙味が流れている、というのは言い過ぎだろうか。
本書には他にも、メルカリが大躍進を果たすきっかけとなったテレビCMの内幕や、大会社となったがゆえの苦悩、そして米国事業へ注力する山田氏の意気込みなどが詳細につづられている。すっかり生活になじんだメルカリだが、これからの進化がいっそう楽しみになってくる。